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竹林軒出張所

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『良心をもたない人たち』(本)

良心をもたない人たち
マーサ スタウト著、木村博江訳
草思社文庫

ママ、こわいよー

『良心をもたない人たち』(本)_b0189364_7463699.jpg 多くの人間は何らかの良心に従って、他人や他の生き物への愛や共感を抱きながら生きているものだが、中には他人に対する共感などを一切抱かず、自分にとって他人は単に利用するだけの存在でしかないという自己中心的な考え方をもつ人々がいるらしい。そういう人々は「反社会性人格障害(APD)」、「ソシオパス(社会病質)」、「サイコパス(精神病質)」などという名称で呼ばれているんだが(本書では「サイコパス」で統一)、なんでもこういった人々は、我々の中に4%(つまり25人に1人)も存在しているらしい(ただしこのデータはアメリカ社会、東アジアではもう一桁少ないという)。本書では、こういったサイコパスの人々の実例を取り上げ、彼らが正常な人々にどれほど災厄をもたらしているかを示し、彼らに対する対処法について提案する。
 幸か不幸か、この本で取り上げられるような人間がこれまで自分の周りにいなかった(あるいは単に遠ざけていたのかも知れないが)ため、本当にこういう人間がいるのか容易に想像できないが、Amazonのレビューを見ていると、周りにこういう人間がいてひどい目に遭ったという投稿が結構ある。たしかにニュースやなんかで知るストーカー殺人やDVなどもこういうケースに当てはまるのかも知れないとは思うが、いずれにしても本書で取り上げられるサイコパスの面々については、恐怖を感じざるを得ない。普通の感覚からいくと冷酷さが尋常でなく、そばにこういう人間がいたら、ちょっと参ってしまいそうだ。日本でも、アメリカより少ないとはいえ数百人に1人程度は存在するわけで、これまでの人生で何度か遭遇していてもおかしくない。そう言えばあいつは倫理観が欠如していたようだとかジコチューだったとか思い返すが、かれらがサイコパスだったかどうかはわからない(基本的にかれらを遠ざけていたから)。
 本書では、こういったサイコパスは一種の障害であって、とにかく彼らは周りの人間を巻き込み利用したり陥れたりすることで自尊心を満足しようとすると説く。そういった人間には近付かないのが一番の対処法であるが、万一近くにいたら関わり合いにならないことが第一と言う。自分のためなら平気で嘘泣きをしたり嘘をついたりするが、下手に同情したりすると結局は良いように利用される。
 生物的な視点からも、彼らの存在価値について論考する他、彼らが仮面を付けたまま成功しつづけることがまれであることも説いている。もちろん中には独裁者になって多数の人々を巻き添えにした者もいる。だがほとんどは、みじめな生涯を送ることになるので、こういった連中は遠ざけておけば良いというのが本書の主張である。
 最初からグイグイ引き込まれる著述で、内容も非常に興味深いので、読むのに骨が折れることもない。翻訳も悪くなく読みやすい。それにこの草思社文庫だが、紙がやや厚めで質が高く、めくりやすい。草思社文庫のラインアップも非常に充実していて、ジャレド・ダイアモンドの著作をはじめ、ちょっと硬派の翻訳本が大量に入っている。今後の展開にも注目したいところである。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『女の影に犯罪あり?』
竹林軒出張所『平気でうそをつく人たち(本)』
竹林軒出張所『少年の日の思い出(本)』

by chikurinken | 2014-05-21 07:46 |
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