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竹林軒出張所

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『EU 租税回避1兆ユーロとの闘い』(ドキュメンタリー)

EU 租税回避1兆ユーロとの闘い(2013年・独WDR/ARD)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

新しいタイプの収奪

『EU 租税回避1兆ユーロとの闘い』(ドキュメンタリー)_b0189364_715749.jpg 多国籍企業が利潤追求のためにいかにして(合法的に)税金をすり抜けているか、その現状を告発するドキュメンタリー。
 多くの多国籍企業は、税金が極端に安い国(タックスヘイブン)に支社を設け、その支社との間で書類上の取引を行うことによって、業務を行っている国に本来収めるべき税金をごまかしている。これは一応建前上は合法的に行われているが、結果的に脱税に近い結果を生み出し、企業活動を行っていながらその国に税金を収めないという結果につながる。当然、その国の歳入は減り、赤字財政に拍車がかかる。
 似たような状況はEU諸国内でも起こっている。EU諸国の間では国によって法人税率が異なるため、ヨーロッパ内の税金の安い国(アイルランドやオランダ)に支社を設け、その支社との間でこうした節税活動を行うという企業が増えているというのだ。これに対して、法人税率が比較的高い国(ドイツなど)が不服を申し立てているわけだが、EU内の疑似タックス・ヘイブン国は国の歳入に関わる問題であるためこれに異を唱える。こうして、EU内では問題をかかえながらも、いまだに解決されることなく、不正な状態が存続する結果になっている。
 こういった経理操作がこのまま罰せられず存続すれば、ことはEU内だけにとどまらず、当然EUと本当のタックス・ヘイブン国との間でも不正な経理操作が行われ、EUトータルの税収が低下するんだが、EU内では相変わらず歩調を合わせることができない。目先の利益にとらわれず、しっかり歩調を合わせて対処しないと、結局は多国籍企業だけが潤うだけだというのがこのドキュメンタリーの主旨。実際、各国レベルで見ると、税収が減ることで社会保障がまかなえなくなってきたりするわけで、結局のところ、企業を維持すべき労働者に返ってくることになる。ひいては企業活動を支えるべき存在の消費者にまで悪影響を及ぼすことになり、結局は社会システム全体を壊滅させる。
 このドキュメンタリーでは、多国籍企業や一部の国が目先の利益に走っているせいで、この後致命的な大変動がもたらされるかも知れないというような告発が行われる。こういうドキュメンタリーを見ると、(少なくとも経済レベルでは)世界が暗黒社会に向かっているような印象をいつも受けて、暗澹たる気持ちになる。負のスパイラルがどんどん進んでいるような気がするが、いずれ現代文明が破綻するところまで行くんじゃないかとそういう不安感まで出てくる。利己主義の暴走を許していると、結局は(暴走中の利己主義者を含め)すべてがきれいに消滅してしまって、何も残らなかったなんてことにもなりかねず、先行きの暗さばかりが印象に残る。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『パナマ文書 “史上最大のリーク” 追跡の記録(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『パーク・アベニュー 格差社会アメリカ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『"新富裕層" vs. 国家 〜富をめぐる攻防〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『インサイド・ジョブ(映画)』
竹林軒出張所『マネー資本主義第4回(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『資本主義崩壊の首謀者たち(本)』
竹林軒出張所『悪夢のサイクル(本)』
竹林軒出張所『金融が乗っ取る世界経済 21世紀の憂鬱(本)』
by chikurinken | 2014-05-09 07:16 | ドキュメンタリー
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