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竹林軒出張所

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『炎628』(映画)

炎628(1985年・ソ連)
監督:エレム・クリモフ
原作:アルシ・アダーモヴィチ
脚本:アルシ・アダーモヴィチ、エレム・クリモフ
撮影:アレクセイ・ロディオーノフ
美術:ヴィクトル・ペトロフ
出演:アレクセイ・クラフチェンコ、オリガ・ミローノワ、リュボミラス・ラウツァヴィチュス、ウラダス・バグドナス

飾りが一切ない戦争、これが現実だ

『炎628』(映画)_b0189364_7225434.jpg この映画が製作されたのは1985年で、個人的には一番映画を見ていた時期と重なるんだが、その後10年以上まったくこの映画について知らないままできた。おそらく2000年前後だったと思うが、たまたまCSで放送されたのを見て、非常に大きな衝撃を受けた記憶がある。当時、この映画がこんなに無名だったのが不思議でならなかったほどで、映画でこれほどの衝撃を受けたのも後にも先にもほとんどない。映画史上のベストテンに入ってもおかしくないというほどの傑作だと思った。それにもかかわらず、この映画もDVDが永らく絶版状態だった。再版されたのが昨年で、そんなこともあって速攻で入手したというわけ。で、ようやっと昨日久々に見たんだが、やはり衝撃のシーンが目白押しで、一瞬たりとも目を離せない。最初から最後まで緊張感が持続するという、そんな映画である。
 舞台は1943年の白ロシア(今のベラルーシ)で、すでにナチスのドイツ帝国が軍事的に占領した状態になっている。実際にこの時代、白ロシアの各地でドイツ軍によって破壊活動が繰り広げられたそうだが(628の村が住民とともに焼き払われたという。邦題の『炎628』はここから来ている)、その様子を村人の目線で描いたのがこの映画。
 被害者の視線で戦争が描かれるため、戦争に対する美化は一切なく、描写はまったく容赦がない。終始、生の現実が突きつけられるのである。登場人物たちもその現実に恐怖しうろたえるが、それが見るこちらにもそのまま伝わってくる。「勝利して歓喜」みたいな戦争映画にありがちの描写もなく、見終わった後はただただ虚無感で一杯になる。
 演出はソ連映画らしくやや無骨だが、ドキュメンタリーを思わせるような重厚な絵作りになっている。戦争映画だが詩的な映像も多数取り入れられており、当時のソ連映画の技術水準の高さをうかがわせる。
 戦闘の描写が生々しい戦争映画は、この映画の後いくつか出てきて、特に『スターリングラード』の冒頭のシーンなどは瞠目したが、しかしやはりこの映画を超えるものは今のところ思い付かない。情景の描き方、人間の描き方、話の展開など、どれも卓越している。戦争についてあれやこれや言う前に、とりあえずこの映画を見よと言いたくなるような作品である。
★★★★☆

参考:
竹林軒出張所『スターリングラード(映画)』
竹林軒出張所『ダンケルク (2017年版)(映画)』
竹林軒出張所『戦火のかなた(映画)』
竹林軒出張所『無防備都市(映画)』
竹林軒出張所『戦争のはらわた(映画)』
竹林軒出張所『地下水道(映画)』
竹林軒出張所『パサジェルカ(映画)』
竹林軒出張所『ダス・ライヒ(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2014-04-26 07:24 | 映画
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