先日紹介したドキュメンタリー(
竹林軒出張所『Love MEATender(ドキュメンタリー)』を参照)がなかなか意欲的で、食について考えるきっかけになるようなものだった(結局その後も食に関する映画を数本見ることになった)。食について考えたい方は是非再放送をご覧いただきたい。
再放送が見れない環境の方は、同じような内容の本があるので、そちらに当たると良い。僕もかつてこういった類の本を読んで、いろいろと食について思いを馳せたことがある……これでも。そのときに読んだ本について、以前のブログであれこれ書いたことがあるので、それをあらためてここに掲載してみようと思う。古い本が多いが、新しい本でも似たような内容のものがあるんで、興味のある方はご自分で探してください。
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(2005年8月1日の記事より)
もう肉も卵も牛乳もいらない!
完全菜食主義ヴィーガニズムのすすめエリック・マーカス著、酒井泰介訳
早川書房
健康、環境、人道(動物保護)、食の安全性などの観点から、完全菜食主義(ヴィーガニズム)を勧める本。
ヴィーガン食に切り替えることで、健康上の問題(コレステロール過多、肥満など)が大幅に改善される、無理な食事制限も不要で毎食腹一杯食べられるという。いわゆるダイエットに伴う苦痛もないらしい。
動物をモノとしてしか扱わない食肉産業の話はあちこちで見聞きしていたが、この本に出てくるケースはひどい(アメリカでは普通だそうな……たぶん日本でも似たケースは多いと思う)。麻酔をせずに去勢される雄牛や、せまいスペースにおしこめられる母豚(そのために子豚が圧死するケースも多いらしい)、雄だとわかった時点でグラインダーに放り込まれるひよこ……。
その他にも家畜産業による環境悪化、BSEの問題……。これだけさまざまな問題を突きつけられると、たしかに菜食主義をひとつのオプションとして考えたくなる。
我々(少なくとも私)が一般的に菜食主義者(ヴェジタリアン)と聞くと、やせ細り宗教がかった人々というイメージを持つが、実際は苦痛が伴うわけでもなく、食べ物の選択肢が変わるだけで、栄養学的にもまったく問題ないそうな。たしかに日本でも普通の人は江戸時代から獣肉は食べていなかったが、人々は非常に健康的だったそう(日本に来たヨーロッパ人たちが書き残している)で、そうなるとこれまで学生時代に吹き込まれてきた、動物性タンパク質が必須要素だという栄養学の常識はいったい何だったんだとあらためて思ってしまう。
それでもやはり、獣肉なしで大丈夫かなとは思う。だが、訳者あとがきによると、この本の訳者も、この本を訳してからヴィーガンになったらしいが、健康上まったく問題なく、というより以前より健康状態が改善された上、さまざまな持久系スポーツも楽しんでいるという。なんでもカール・ルイスやマルチナ・ナブロチロワもヴェジタリアンらしい。消費エネルギー量が圧倒的に多いはずのトップ・アスリートでも支障がないということか。これはヴィーガン(またはヴェジタリアン)を目指さない手はない。
そういう意味でもヴィーガン(またはヴェジタリアン)入門書として格好の本だ。そして食の問題を考える際の入門書としても最適だ。
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(2005年8月3日の記事より)
まだ、肉を食べているのですかハワード・F・ライマン、グレン・マーザー著、
船瀬俊介訳
三交社
内容は結構面白いのだが、翻訳がひどすぎる。
訳者の船瀬俊介といえば『買ってはいけない』の著者で、その内容のデタラメぶりはあっちこっちからひんしゅくを買った。センセーショナルに書き立てるのは良いが、内容がいい加減すぎてね(『買ってはいけない』についてはそれなりに評価しているが……センセーショナルに書き立てればある程度話題になるからね。あまり興味のない人の耳目にも届くというものだ)。確かに話題にはなったが各方面からいろいろ批判も出た。
この本の翻訳にも、そういういい加減さやおおざっぱさが散見される(性格なんだな、きっと)。用語は統一されていないし、訳文は行き当たりばったりで、文章も読みにくい。読んでる途中で腹が立ってきた。
第7章「牛の惑星から砂の惑星へ」は、牛の放牧が米国の環境をいかに破壊しているか、そしてそれに米政府がどのように加担しているかについて語っており、目からウロコの米国史だが、同時に、この部分がおそらく一番珍訳が多い箇所なんじゃないかとも思う。読みづらいったらありゃしない。
原著の内容がなかなか良いだけに、非常に惜しい。
デタラメな翻訳文の例(少し拾っただけでこんなにある。一生懸命探したら、誤訳、珍訳がほとんどのページにあるんじゃないか):
●「彼女は『バベ(Babe)』という映画を何度も見たという。それから豚肉は二度と口にしていない、という。」(16ページ)(「バベ」じゃなくて「ベイブ」じゃないの? この映画を知らなくてもちょっと調べりゃすぐわかるだろうに)
●「今日、この大地は、ステーキを生産している。それは中米の裕福な階層の人々の口に入る。さらに、ハウスメーカーにハンバーガーを輸出している。」(194ページ)(ハウスメーカーにハンバーガーを輸出??)
●「だれが書いたダイエット本であろうと、数百万ドルの利益が懐に転がり込む。内容は肥満者の統計数値に、めだったミスがない程度のシロモノ。」(199ページ)(「統計数値にミスがない」ってどういう意味だ? 原文を見てみたい)
●「エコシステム」→「生態系」(「エコシステム」、「エコ・システム」、「生態系」という用語が混在する)
●「あなたが体重を減らすために、食事中に含まれる脂肪分を知りたいなら、まず、何があなたにベストで役立つかを見つけなければならない。覚えておいてほしいのは、もし、あなたが正しい種類の食事をしているかぎり、あなたは食事の中の脂肪の割合など知る必要もない。あなたは、自然に適正な範囲にいるからだ。」(218ページ)(意味がわからない。「ベストで役立つ」とは何だ? 「身体に良い」ってことか? それに「あなた」というフレーズがやけに目立つ。中高生の英文和訳みたいだ)
最後の文章を少し直してみた(原文がどんなかは知らない)。意味があっているかどうかはわからない(原文を知らないのでね)がこちらの方がまだ読みやすいだろう。
「体重を減らしたい、そのために食事に含まれる脂肪分がどの程度か知りたい、というのであれば、そんなことよりもまず第一に、何が身体に良いかということに思いをはせるべきだ。正しい食事をしている限り、食事中の脂肪の割合などまったく知る必要はない。自然な食事であれば、脂肪の割合も適正な範囲になるはずだ。」
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(2005年8月19日の記事より)
牛乳には危険がいっぱい?フランク・オスキー著、弓場隆訳
東洋経済新報社
牛乳が身体に悪いということを、いろいろな研究データを引用しながら説く本。
なんでも牛乳は動脈硬化、白血病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、リューマチ性関節炎、虫歯、反社会的行動の原因になるんだそうだ。恐れ入った。
この著者の主張をどこまで信じるかはさておいて、牛乳が身体に悪いというのはあながち外れていないとは思う。飲まなくても良いものなら飲まない方が良いということだ。少なくとも完全栄養飲料などというキャッチフレーズは信じなくなるだろう。
各章の最後にその章のまとめがあって、非常にわかりやすくなっている。
★★★☆--------------------------
(2005年8月22日の記事より)
新版 ぼくが肉を食べないわけピーター・コックス著、浦和かおる訳
築地書館
タイトル通り、肉食をやめるよう、いろいろな観点から説き起こす本。
著者は多方面に造詣があるようで、さまざまな文書から引用している。どれもそれなりに説得力はあるが、引用資料に一抹の胡散臭さも感じられる。要するに、都合の良い部分だけピックアップしてんじゃないか、というような。もちろんこういう疑問が出るのは、ここで告発されている対象(英国政府だったり食肉産業だったりするが)が、さまざまな説から都合の良い部分だけピックアップして、自説を展開しているためである(これについては本書でも再三告発されている)。であるため、こういった同じような疑問が起こるのはある意味致し方ないことかもしれない。
だが翻訳は最悪である。そのため、非常に読みづらい本になってしまっている。残念。
本書は、6章構成になっているが、圧巻は第1章である。ここだけ読んでも十分「目から鱗」である。基本的に、人間は本来草食であり、身体自体も草食に合った構造になっているということを述べている。あわせて、ベジタリアン食が健康上のさまざまな問題を(もっとも手っ取り早く)解決するものであるにもかかわらず、さまざまな分野の圧力でこのことが封殺されていると言うのだ。
このような言論を封殺する側の理屈に対して反対意見を述べているのだが、中でも秀逸なのが「原始時代から男は狩り、女は採集という生活を営んでいた」という論に対する反論である。これを文化人類学的アプローチからデタラメであると述べ、こういう社会は社会システムとしても成立しえないと言う。つまり狩猟に依存するような社会は、(狩猟が失敗した場合の)リスクが大きすぎて存続しづらく、採集(ひいては栽培)に依存する社会でなければ存続できないと言うのだ。現代文明の影響をあまり受けていない(いわば「未開」の)社会に対する調査結果もこのことを裏付けている(文化人類学的なアプローチ)。つまり人間は本来、食料を植物に依存していたのだ。歯や内臓の構造がヒトと近い類人猿は、どれをとっても草食であり、身体の構造は肉食獣と根本的に違うのだとも述べている。このあたりは自然人類学的なアプローチである。非常に説得力があり、これだけでも元が取れると言うもんである。
第2章では、BSEの問題について述べているが、この章は、英国政府の欺瞞を年代記的に告発することに主眼が置かれており、少し退屈する(本書の翻訳者は「第2章が圧巻」と書いているが)。下手な翻訳と相まって読むのがかなり苦痛になる。ここはとばしても良いだろうと思う(現に私は第2章で1回挫折し、1年近く読むのを中断していた)。BSEの問題については『もう肉も卵も牛乳もいらない!』や『ハンバーガーに殺される』などの本の方がわかりやすく包括的である。
第3章は、いくつかの屠殺場(現在の日本では「屠場」と呼んでいる)でどのような残虐なことが行われているかの告発である。身震いするような現状がリアルに描かれている。
第4章は、肉食がさまざまな病気の原因になっていることが書き連ねられており、中でもガンや白血病がウイルス性疾患(しかも家畜からも伝染する)の原因であるとする説が目新しく、この分野の本を読んでみたくなった。ここも非常にスリリングで一気に読むことができる。
本書は、目新しさも意外性も説得力もあり相当な好著なのであるが、なにしろ翻訳が悪く読みづらい。読了するのに忍耐力がいるかもしれない。そのあたりが返す返すも残念である。
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(2006年12月20日の記事より)
食品の裏側 みんな大好きな食品添加物安部司著
東洋経済新報社
食品添加物の元営業担当者が、食品添加物利用の現状について紹介し、同時にその濫用を告発する話題の書。
非常に読みやすく(1〜2時間もあれば読める)、また構成がよく練られており、内容もおもしろい。さすが元トップセールスマン! 思わずセールス・トークに乗せられそう。
著者は、食品添加物を完全に否定するのではなく、その利点について認めながらも(基本的には食品添加物は極力排除すべきだというスタンスである)、デタラメに濫用されている現状について警鐘を鳴らしている。
著者はあちこちで添加物の講演を行っているらしく、知人の参加者の話によると、その講演会も非常におもしろいということだ。講演の場では、白い粉(食品添加物)を何種類か混ぜて豚骨スープの味を作るという実演をやるらしく、参加者の間で驚嘆の声が上がるらしい(本書にもそのあたりについて記述がある)。今一般的に売られている食品のほとんどは大体それに近いものだ。ニセモノ食品を何の説明もなく与えられている消費者は、まさに家畜同然。せめてどういうものを使っているか食品メーカーは説明する義務があると思うんだが(それは本書の主張でもある)。
ここで書かれていることの多くは他の本や雑誌でもよく取り上げられているが、それでも話の展開が秀逸でなおかつ説得力がある(なんせ現場で売っていたんだから)ので、これまでの多くの添加物告発本とは一線を画す出来になっている。添加物入門書として格好の一冊。これを読んだらコンビニ弁当を食べられなくなる……かも。
★★★★参考:
竹林軒『ハンバーガーに殺される 食肉処理事情とアルツハイマー病の大流行』竹林軒『デブの帝国 いかにしてアメリカは肥満大国となったのか』竹林軒『ファストフード・イコール・ファットフード』竹林軒出張所『100マイルチャレンジ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『究極の地産地消暮らし(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『罠師 片桐邦雄・ジビエの極意(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『Love MEATender(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『フォークス・オーバー・ナイブズ(映画)』竹林軒出張所『土と内臓 微生物がつくる世界(本)』竹林軒出張所『山と獣と肉と皮(本)』竹林軒出張所『牛を屠る(本)』