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竹林軒出張所

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『フード・インク』(映画)

フード・インク(2008年・米)
監督:ロバート・ケナー
脚本:ロバート・ケナー、エリス・ピアルスタイン、キム・ロバーツ
撮影:リチャード・ピアース
出演:エリック・シュローサー、マイケル ポーラン、ゲイリー・ハーシュバーグ
(ドキュメンタリー)

疎外される食品、人間、動物、環境

『フード・インク』(映画)_b0189364_8125482.jpg 環境、原料(家畜を含む)、労働者がないがしろにされている現代の食物産業(特にアメリカ)の実態を告発するドキュメンタリー映画。
 食品の大量生産・大量消費がもたらしているもの、それは食品の疎外であり、人間や動物の疎外である。家畜は不衛生な環境で不自然な飼料で育てられ、労働者の人権を無視した環境で食肉処理される。そのために食肉はO157などの病原菌の温床になる。だが、食品の安全性を監視すべき行政府は企業に牛耳られているため、こういった状況に対して対策をとらない。
 一方で、不自然な単一栽培、遺伝子組み換え作物で環境は破壊され、しかもそれを生産する農業従事者まで、種苗産業(ここで取り上げられているのはモンサントだが)から疎外される。モンサントが作りあげた農業生産ヒエラルキーからは、社会正義が完全に消え去っているかのようにも見える。アメリカの食品業界は、端から見ると悪循環の中にはまり込んでいて、抜けるに抜け出せない状態になっているようでもある。そしてそういう産業構造から一番被害を被るのは、消費者であり労働者、そして動物たちなんである。このような悪循環を断ち切るべく、食品を選ぶ立場の消費者が賢い消費者になり、自らの商品選択の権利を行使することで、不当な企業、悪しき食品にノーを突きつけるべきだ、というのがこの映画の主張である。
 内容は、これまでもいろいろな本やドキュメンタリーで見聞きしたことが多く、少なくとも僕にとってあまり新鮮さはなかったが、この映画が2008年の作品であることを考えると、むしろこの映画が先導して世論を喚起させたと考えることもできる。映画に登場してインタビューを受ける人々は、従来型の自然に根ざした酪農従事者やモンサントにひどい目にあわされた農民などいろいろ。『欲望の植物誌 人をあやつる4つの植物』のマイケル ポーランも登場する。どうりで聞いたことのある主張が多かったわけだ。
 映画は非常に真摯で、映し出される映像はショッキング。それに大企業の不正も映像を使って告発するなど、構図がわかりやすくなっている。また、今後どうすべきか、いかにして食品を健全な状態にすべきかまで明確に示されているなど、この映画1本で、食の問題と処方箋すべてが示されているような内容になっている。この映画で扱われている事例はほとんどがアメリカのケースだが、アメリカの食は日本にも大きな影響を及ぼしていることから、日本の食も対岸の火事というわけには行かない。それは周りを見回してみれば一目瞭然である。この映画を出発点にして、いろいろな食品の問題に思いをめぐらせるのも良いんじゃないかと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『いのちの食べかた(映画)』
竹林軒出張所『ありあまるごちそう(映画)』
竹林軒出張所『モンサントの世界戦略(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『遺伝子組み換え戦争(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『Love MEATender(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『罠師 片桐邦雄・ジビエの極意(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『フォークス・オーバー・ナイブズ(映画)』
竹林軒『ハンバーガーに殺される 食肉処理事情とアルツハイマー病の大流行』
竹林軒『デブの帝国 いかにしてアメリカは肥満大国となったのか』
竹林軒『ファストフード・イコール・ファットフード』
竹林軒出張所『欲望の植物誌 人をあやつる4つの植物(本)』
竹林軒出張所『100マイルチャレンジ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『食について思いを馳せる本』
by chikurinken | 2014-04-05 08:13 | 映画
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