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竹林軒出張所

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『植物はそこまで知っている』(本)

植物はそこまで知っている
感覚に満ちた世界に生きる植物たち

ダニエル・チャモヴィッツ著、矢野真千子訳
河出書房新社

植物ワールドへようこそ

『植物はそこまで知っている』(本)_b0189364_8223170.jpg 植物学者が書いた植物の知覚についての本。
 要は、植物の視覚、嗅覚、触覚、聴覚、位置認識、記憶について、現在の知見を基に論述するという内容で、一見神秘主義的に聞こえるかも知れないが内容はきわめてまともである。そして著者の主張には十分裏付けと説得力があり、植物から見た世界というものに思いを馳せるきっかけになる。
 植物の感覚について書いている本なんだが、著者によると、当然ながらその感覚は人間などの動物が感じる感覚とは異なる。植物には動物の目や鼻や耳に相当する器官がないことからもそれは明らかで、その点で神秘主義的な発想とは完全に一線を画す。ただ、植物には植物なりの感覚器があるわけで、それはたとえば芽や根の先端だったりする。だから厳密には「植物に感覚がある」と言っても、植物を擬人化したような一般的なイメージとは違うわけだ。作物にモーツァルトを聞かせると成長が早くなったというような怪しげな議論では決してない。
 著者によると、植物同士の化学物質のやりとり(嗅覚に近いもの)によるコミュニケーションや動物から触れられた場合に対する反応(触覚)も実在する。また、光に対する反応(視覚)や重力の認識(位置認識)についても走行性や走地性があることは共通の認識になっている(高等学校で学習する)。こういう事実が、実験結果を交えながらわかりやすく具体的に記述されていく。ただし聴覚については、現時点で明確な証拠が提示されておらず、本書では試論段階でとどまっている。
 文章は平易で、植物のイラストも適切なページに掲示されている。一般的な書物では図版が内容とずれた箇所に掲示されるのは普通だが、本書はドンピシャの箇所に出ていて、製作者側の丁寧な仕事ぶりがうかがわれる。内容も作りも非常に真摯かつ丁寧で好感が持てる良書である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『欲望の植物誌 人をあやつる4つの植物(本)』
竹林軒出張所『植物はヒトを操る(本)』
by chikurinken | 2014-04-01 08:23 |
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