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竹林軒出張所

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『舟を編む』(映画)

『舟を編む』(映画)_b0189364_8393593.jpg舟を編む(2013年・「舟を編む」制作委員会)
監督:石井裕也
原作:三浦しをん
脚本:渡辺謙作
出演:松田龍平、宮崎あおい、オダギリジョー、渡辺美佐子、池脇千鶴、加藤剛、小林薫、八千草薫、黒木華

材料は面白いが
話を編む過程で平凡になった


 主人公は、出版社勤務の若い男(松田龍平)で、元々ダメ営業マンだったのが、辞書編集部で花咲くというストーリー。辞書作りに携わる現場が描かれて奇抜だが、それ以外の部分は平凡でありきたりな話である。あくまで目玉は辞書編集の現場。ちなみにこの編集部で製作される辞書は『大渡海』という。おそらく『大言海』あたりをもじってるんだろう。ただ『大渡海』の用語定義の中に「新明解国語辞典」風の記述があったので、おそらく三省堂が協力しているんだろうと思っていたが、案の定エンディングに「協力:三省堂」という記述があった。
 剽窃(さまざまな辞書の間で同じ記述が使い回しされているなど)や堂々めぐり(ある言葉の意味を定義するために使われている単語をその辞書で調べてみると、その単語の項目が元の単語で説明されていて、結局ただ単に別の言葉で言い換えているだけに過ぎず、そのため辞書を引くたびに堂々めぐりになること)の問題も示されたりしていて、辞書編集関連の事項については新鮮ではあるが、ましかし、そういう部分だけが目玉のお話というのも少々寂しい限りで、もう少しストーリーに幅を持たせられたらドラマとして優れた作品になっていたんではないかと思う。演出も平凡で、特に目を瞠るような箇所はない。松田龍平とオダギリジョーが好演していたが、その他は映画としてはあまり特筆するような部分はない。
 ただし辞書作りの現場を紹介しそれに関わるさまざまな問題を提示したのは、ある意味画期的ではある。僕などは昨年放送されたドキュメンタリー『ケンボー先生と山田先生』をテレビで見ていたため、あまり目新しさを感じなかったが、あのドキュメンタリーを見たときは知的興奮を感じたものだ。こちらの映画を先に見ていたらまた別の感慨があったかも知れない。ただ逆に言えば、そういった内容を伝えるにはドキュメンタリーでも十分だったとも言えるわけで(むしろあちらの番組の方がデキは良かった、後発ではあったが)、目新しいのがそういった部分だけということになるとフィクションとしてははなはだ物足りないものになってしまうのもまた事実なのである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ケンボー先生と山田先生(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新解さんと岩波さん』
by chikurinken | 2014-02-11 09:10 | 映画
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