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竹林軒出張所

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『原発廃炉は可能か?』(ドキュメンタリー)

原発廃炉は可能か?
〜計画とその現実〜

(2012年・仏Eclectic Presse/ARTE France)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

続けるのも問題だが、やめるのも大変!

『原発廃炉は可能か?』(ドキュメンタリー)_b0189364_7573281.jpg フランス、ドイツ、アメリカでの原子力発電所の廃炉の現実を報告するドキュメンタリー。廃炉作業の問題性を順を追って紹介していく。
 番組では、まず廃炉作業の複雑さが取り上げられる。原発は、操業中に大量の放射性物質を扱うという性質上、原発の多くの設備が放射性物質で汚染される。そのため、通常の発電施設であれば問題なく進むような解体作業も、こと原子力施設ということになると簡単にはいかない。まず第1段階として燃料を取り出し、第2段階では放射性物質と接触していない部品(通常の廃棄物)と原子炉近くの部品(低レベル、中レベル汚染)を撤去する。そして第3段階で、放射線量が非常に高い原子炉自体を解体する。すべてを解体するのに30〜40年、場合によっては60年かかる。ただしたとえ解体作業が終わったとしても、最終処分場がなく廃棄物を処分することができないため、その多くが敷地内に野積みになっているのが実態である。例としてドイツのルブミン原発とアメリカのメイン・ヤンキー原発の状況が示される。
 こういった廃棄物の中でも特に問題になるのは、高レベルの廃棄物で、そのままでは非常に危険な上、現時点でこれを処理する方法は無いときている。かつてフランスでは、高濃度放射性廃棄物を海洋投棄していたが、今では当然こういうことは許されず、どの国も安全な廃棄物処理方法を模索している段階にある。だが現状では、地下深くに埋めるという方法以外見つかっていない。
 ドイツでは40年前、アッセの岩塩鉱山跡(地下500m)に放射性廃棄物を貯蔵するという方法を採った(岩塩の成分が放射性物質を中和するというような理屈だったらしい)が、2004年に地殻変動が原因で貯蔵施設の一部が崩壊。今はその手当てのために奮闘を余儀なくされている。また、フランス、ビュールでも同様の計画が進んでいるが、爆発や火災の危険性があることが指摘されていて、やはりこれはという解決策は見つかっていない。
 さらに作業員の被曝の問題も挙げられる。作業員に放射線についての正しい知識が伝えられないことがあり、それが作業員の放射線被曝を招くことになる。たとえ正しい教育を行っている現場であっても(被曝量の制限のため)作業員が長期に渡って働くことができにくいため、知識や経験が引き継がれにくいという問題もある。
 廃炉はこのように複雑な問題をかかえる作業であるため、廃炉にかかる費用も相当な額に上る。たとえ一定の予算を組んでも、実際にはその何倍もの費用がかかることも多く、今後、大量の原発を廃炉する上で想定される費用は莫大なものになることが予測される。どの政治家がこれにゴーサインを出すのかということも問題になり、結局は厄介な問題が先送りされることになる。しかも、廃棄物の管理方法すらいまだ答えが出ていないという状況である。
 原発は運用するのもいろいろ問題があって大変だが、廃炉作業も一筋縄ではいかず、現在操業中の原発を本当にすべて廃炉できるのかという疑問を提示して番組は終わる。僕自身、このドキュメンタリーを見て暗澹たる気持ちになってきた。だがこういう問題が目の前にあるのも事実で、なかったことにするわけにもいかないだろう。もちろん、これまで原発を推進してきた関係者(および支持者)にはそれなりの責任をとってほしいものだが。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『原発解体(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『原子力“バックエンド”最前線(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『核のゴミはどこへ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『終わらない悪夢 前編、後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『地下深く永遠に』(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『旧ソ連 原子力潜水艦の末路(ドキュメンタリー)』
『原発解体』に対する日本原子力技術協会による反論(2009年10月16日)

by chikurinken | 2014-01-27 07:58 | ドキュメンタリー
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