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竹林軒出張所

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『"新富裕層" vs. 国家 〜富をめぐる攻防〜』(ドキュメンタリー)

"新富裕層" vs. 国家 〜富をめぐる攻防〜(2013年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

「にわか成金 vs. 困窮する我々」という構図に踊らされた

『\"新富裕層\" vs. 国家 〜富をめぐる攻防〜』(ドキュメンタリー)_b0189364_7313875.jpg 米国を中心に、ごく一部の金持ちが世界の富を独占するといういびつな社会が形成されているのが今の時代。一番の原因は彼らの所得が適正に課税されていないことで、そういう傾向はレーガン、ブッシュ(父子)の時代に拍車がかかって今に至っているわけだ。それだけでも十分不快な話なのに、こういった連中の中にはさらに税金を逃れようと、タックスヘイブン(税金が極度に少ない国)をはじめとする税負担の少ない国に移住して、事実上の脱税をしようとする人間がいるらしい。
 この番組に出てくるのは「新富裕層」という人々で、この新富裕層というのは、金融などの業種で登場してきたにわか成金。かれらも税金を逃れるために、会社をタックスヘイブンに移したり自身が移住したりと涙ぐましい努力をしている。中には書類上は移転しているが、実際の業務は元の国で行われているケースもあり、こうなるともう、道義的な面だけではなく法的な面でも問題になりそうだが、そういうことに頓着しないのが成金の人々。
 この番組では、そういう成金の方々が登場して、なぜ貧乏人を養うために税金を払わなければらないのかなどと開き直る。運良くたまたま(しかも何も生産しない金融取引で)手にした大金を手放すのを嫌うようで、この番組では、こういう子どもっぽい利己主義的な言動が随所に出て来て非常に気分が悪くなる。もちろんこういうのは演出上の手法で、番組の最後ではそう甘い話じゃないんだよというところに落ち着く。この番組で紹介されているタックスヘイブン型の国、シンガポールでも、これまで金持ちを移住させる政策が進められてきたが、傍若無人の金持ちたちに対して次第に国民の反感が増幅しているという話が出てくる。
 ともかく金を持っている人間がその富を独占するという不健全な状態は、心情的な問題だけでなく、現実的にも大変問題があるわけで、本来公共に帰すべき金が囲い込まれているという現状は国家財政の危機を招くことにつながっている。儲かったからには社会に還元すべきという発想に欠けている泥棒成金たちはちゃんと成敗してほしいものだが、とは言え、予定調和の出来過ぎドラマのような「3倍返し」という状況には落ち着かない。行政当局には、最低でも落とし前だけはちゃんとつけさせてほしいと、まあそういうことを考えさせられたドキュメンタリーだった。とは言え、製作側にまんまと踊らされたような印象もないではない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『パナマ文書 “史上最大のリーク” 追跡の記録(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『EU 租税回避1兆ユーロとの闘い(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『金融が乗っ取る世界経済 21世紀の憂鬱(本)』
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by chikurinken | 2013-09-03 07:32 | ドキュメンタリー
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