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竹林軒出張所

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『拝啓天皇陛下様』(映画)

拝啓天皇陛下様(1963年・松竹)
監督:野村芳太郎
原作:棟田博
脚本:野村芳太郎、多賀祥介
撮影:川又昂
音楽:芥川也寸志
出演:渥美清、長門裕之、左幸子、高千穂ひづる、藤山寛美、中村メイ子、加藤嘉、桂小金治、多々良純、山下清、浜口庫之助

魅力的な登場人物が描かれる軍隊映画

『拝啓天皇陛下様』(映画)_b0189364_840189.jpg タイトルからあまり興味が湧かなかった映画だが、意外に面白く、最初から最後まで引きずり込まれた。原作が良いせいか、はたまた演出が良かったのか。ちなみに原作は棟田博という人の小説で、映画に登場する主人公が「ムネさん」という名前でもの書きであることから自伝的な要素が入っているんじゃないかと思われる。この話の中心になるのが、ムネさん(長門裕之)の友人のヤマショウ(渥美清)という男で、学はないがなかなか豪放で良い人間。このヤマショウの魅力がムネさんの視点で描かれるわけだが、この2人、兵役で同期として入隊(日中戦争開戦前)し、除隊後、開戦後の再招集時、終戦後に渡ってずっとつきあいが続く。ヤマショウのエピソードを時系列に並べることで物語が構成され、ナレーションはムネさんの口から語られるという趣向である。
 軍隊内では初年兵の主人公達が二年兵から虐待を受けるといった負の面も描かれるが、一方で虐待を続けた二年兵に対し彼の除隊直前に初年兵が報復したりといった面も描かれる。また、情のある中隊長(加藤嘉)が学のないヤマショウを気遣い、元教員の初年兵(藤山寛美)に読み書きを教えさせるなどといったプラスの面も描かれる。このあたりがユニークと言える。決して軍隊が美化されているわけではないが、軍隊に対するある種の懐かしさみたいなものも描かれる。また、除隊してシャバに出ても、生活がもっと苦しくなるだけという描かれ方もしていて、当時の社会情勢の一端が描かれる。途中、『馬鹿まるだし』を思わせるような話が出て来たりもしたが、『馬鹿まるだし』の監督の山田洋次が、この映画の監督、野村芳太郎の弟子筋であることから、スタイルが似てくるのもまあ合点が行く。
 この映画での野村芳太郎の演出は実に正攻法で破綻はない。音楽は『八甲田山』と同じ芥川也寸志だが、こちらは『八甲田山』ほどうるささを感じなかった。キャストもなかなか豪華で、渥美清や藤山寛美の他、山下清(本人(?)役)や浜口庫之助(昭和天皇役……だったらしい)までチョイ役で登場する。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『馬鹿まるだし(映画)』
竹林軒出張所『兵隊やくざ(映画)』
竹林軒出張所『事件(映画)』
竹林軒出張所『わるいやつら(映画)』

by chikurinken | 2013-08-10 08:41 | 映画
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