ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『今朝の秋』(ドラマ)

今朝の秋(1987年・NHK)
演出:深町幸男
脚本:山田太一
音楽:武満徹
出演:笠智衆、杉浦直樹、杉村春子、倍賞美津子、樹木希林、加藤嘉、名古屋章

「多少の前後はあっても
みんな、死ぬんだ」


『今朝の秋』(ドラマ)_b0189364_8365695.jpg 1987年に放送された山田太一作の単発ドラマで、数々の受賞歴が示すように評価の高い作品。
 一人暮らしのとある老人(笠智衆)が、50台になる一人息子(杉浦直樹)が末期ガンであることを知るところから話が始まる。息子を送る側になってしまった老人、先に逝く息子、それを取り巻く人々などをめぐる話で、家族について考えさせられる一本。山田太一によって提示される家族観は結構シビアで、うへっと思うようなセリフも出てくる。セリフの中でも特に秀逸なのが、自分の死が近いことを知った息子と父との言葉少なではあるが、重く、そしてウィットに富んだ会話。

父 「多少の前後はあってもみんな、死ぬんだ」
息子「(父を見る)そうですね……みんな死ぬんだよね」
父 「特別なような顔をするな」
息子「(苦笑い)言うなぁ、ずけずけ。しかしね、こっちはまだ50台ですよ。
  お父さん、80じゃない。こっちは少しは特別な顔するよ(笑うが、涙があふれる)」

 出演も笠智衆、杉村春子と小津安二郎作品を彷彿させるようなメンツで、内容も松竹大船調と言ってよい。小津映画の正当な継承者は山田太一だったのかと感じさせられる。息子役の杉浦直樹は山田ドラマの常連で、このドラマでも素晴らしい演技を見せる。
 演出の深町幸男も、山田太一とよく組んでいる人で、山田脚本の魅力を余すところなく表現している。武満徹の音楽もドラマ展開を邪魔せず、それでいてさすが武満徹とうならせるような素晴らしいものである。ドラマのさまざまな要素が高いレベルで一体化し、独自の世界を形作っている。
 80年代は山田太一の全盛期で、この頃は名声も高かったせいか、オリジナルのドラマをたくさん発表している。その中でも最高峰と言える作品で、特にセリフが光る傑作である。
プラハ国際テレビ祭大賞、第14回放送文化基金賞本賞、毎日芸術賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『ながらえば(ドラマ)』
竹林軒出張所『冬構え(ドラマ)』
竹林軒出張所『旅立つ人と(ドラマ)』
竹林軒出張所『春までの祭(ドラマ)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』
『今朝の秋』(ドラマ)_b0189364_8375892.jpg

by chikurinken | 2013-04-22 08:41 | ドラマ
<< 『ながらえば』(ドラマ) 『東京・山谷 バックパッカーた... >>