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竹林軒出張所

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『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代』(本)

b0189364_8452364.jpg仲代達矢が語る 日本映画黄金時代
春日太一著
PHP新書

一俳優の視点からの戦後日本映画史

 俳優の仲代達矢のインタビューをまとめた本。ただし、一般のインタビュー本みたいに質問と回答が交互に出てくるわけではなく、仲代達矢の一人語りみたいな記述になっている(途中、その話の内容を補足するような記述が挿入されている)。一般的に、インタビュー本を読む人は、話し手のことを知りたいと思って読んでいるわけで、著者のことを知りたいと思っているわけではない。そのため、インタビュアーの方がしつこくしゃしゃり出る本は正直言って大変鬱陶しいんだが、この著者はその辺をよくわきまえているようで大変好感が持てる。
 で、この本の主人公、仲代達矢だが、「はじめに」でも記述されているように、戦後日本映画で重要と考えられる多くの監督の作品に出演している。黒澤明、小林正樹、市川崑、岡本喜八、勅使河原宏、山本薩夫、五社英雄をはじめ、木下恵介や成瀬己喜男の映画にも出ていて、ある意味、戦後日本映画史を体現している俳優と言うことができる。その仲代達矢が、さまざまな監督のこと、他の俳優のこと、若い頃に所属していた俳優座のことについて率直に語っていく。さらに、あるいは『乱』(黒澤明監督)の現場の話だったり、あるいは勝新太郎や三船敏郎との交友関係だったり、映画ファンにとっては興味の尽きない話が続く。
 特に印象に残ったのは、小林正樹が晩年不遇だったという話。『怪談』でこけてからは自宅も手放し二間の家に住み続けていたという話はちょっと悲しくなる。小林正樹と仲代達矢が組んだ『切腹』と『人間の條件』は日本映画史に燦然と輝く金字塔だと思っているが、その小林正樹が晩年あまり評価されなかったというのもある意味情けない話である。この話はまったく知らなかっただけに少し衝撃を受けた。なお本書ではこの『切腹』と『人間の條件』についてもかなり紙数が割かれている。他にも仲代達矢が出演している諸作品、たとえば勅使河原宏監督作品の『他人の顔』、山本薩夫監督作品の『華麗なる一族』『金環蝕』『不毛地帯』、岡本喜八の『殺人狂時代』などについても詳しく語られている。もちろん黒澤作品もある。どの映画でも仲代達矢は非常に個性的な味わいを出していて、戦後の日本映画で大きな役割を果たしていることがよくわかる。それにしても仲代達矢の出演作、役柄は実に多岐に渡っていることよなあと、フィルモグラフィーを見てあらためて感じるのであった。
★★★☆

参考:仲代達矢出演映画
竹林軒出張所『切腹(映画)』
竹林軒出張所『肉弾(映画)』
竹林軒出張所『鍵(映画)』
竹林軒出張所『他人の顔(映画)』
竹林軒出張所『殺人狂時代(映画)』
竹林軒出張所『華麗なる一族(映画)』
竹林軒出張所『金環蝕(映画)』
竹林軒出張所『不毛地帯(映画)』(以上は本書に登場)
竹林軒出張所『吾輩は猫である(映画)』
竹林軒出張所『姿三四郎(映画)』
竹林軒出張所『二百三高地(映画)』

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以下、以前のブログで書いた『人間の條件』と『怪談』についての記事の再録。

(2005年11月26日の記事より)
b0189364_8463755.jpg人間の條件 第一部純愛篇第二部激怒篇
(1959年・松竹)
監督:小林正樹
原作:五味川純平
脚本:松山善三、小林正樹
出演:仲代達矢、新珠三千代、山村聡、淡島千景、石浜朗、宮口精二、小沢栄太郎、有馬稲子、安部徹

小林正樹の大作映画、『人間の條件』の3部構成の第1部。第一部から第六部まで全部で9時間以上にもなる。まさに大作。
声高に反戦を叫ぶのではなく、日中戦争の現実を正面から突きつける。人間らしく生きようとする実直な人間、梶(仲代達矢)に対して、現実によって次から次へと難題が突きつけられる。『第三部/第四部』、『第五部/第六部』ではさらに悲惨な現実が突きつけられることになる(20年前、名画鑑賞会で3日がかりで全編見たことがある)。
演出も手堅く、古臭い演技も多少あるが、全体的によくまとまっている。
満州の壮大な風景や、よくできたセットが、スケール感を出している。当初、ロケを大陸でやったのかと思っていたほどだが、実は北海道と信州、九州だったのだ……。
★★★☆
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(2005年12月9日の記事より)
b0189364_8465383.jpg人間の條件 第三部望郷篇第四部戦雲篇
(1959年・松竹)
監督:小林正樹
原作:五味川純平
脚本:松山善三、小林正樹
出演:仲代達矢、新珠三千代、佐田啓二、渡辺文雄、安井昌二、桂小金治、藤田進、川津祐介

小林正樹の大作映画、『人間の條件』の3部構成の第2部。
前の第一部/第二部がシャバ編で、これが軍隊編。まったく理不尽で不快きわまりない軍隊(関東軍)の様子が赤裸々に描かれている。先日見た小津安二郎の映画で「戦争中はくだらないヤツが威張り散らしていた」というような台詞が出てくるが、この映画でも本当にくだらないヤツが威張り散らしている。非常にリアルだ。
原作者も監督も軍隊体験者だそうで、そりゃリアルなわけだ。終わり近くの戦闘シーンは、ド派手な戦争映画と違って激しいドンパチもないが、たまにニュース映像で目にするイラク、アフガン、ユーゴなどの戦場の感じと非常に良く似ており、逆に臨場感というかリアルさを感じた。
約3時間、まったく飽きることなく引っ張り回される。戦争に対する想像力を欠いた好戦的な若者にも見てほしい映画だ。
★★★★
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(2005年12月10日の記事より)
人間の條件 第五部 死の脱出人間の條件 第六部 曠野の彷徨(1961年・松竹)
監督:小林正樹
原作:五味川純平
脚本:松山善三、小林正樹
撮影:宮島義勇
出演:仲代達矢、川津祐介、高峰秀子、中村玉緒、内藤武俊、岸田今日子、金子信雄、新珠三千代

b0189364_854264.jpg小林正樹の大作映画、『人間の條件』の3部構成の完結編。
前の第一部/第二部がシャバ編、第三部/第四部が軍隊編、そしてこれが敗走および捕虜編。
どこにいても、周囲とぶつかり合う、まっすぐな人間、梶。ここでも、強力なリーダーシップを発揮しながら、周囲の姑息な人間たちとぶつかっていき、同時に超人ぶりを発揮する。まったく息もつかせぬ面白さだ。
しかし日本映画にこれほどの作品があったことにあらためて感心した(見たのは今回で2回目だが)。迫力といいリアリズムといい、メッセージ性といい、文句の付けようがない。日本映画を代表する名画と言える。小林正樹は、黒澤明や小津安二郎ほど、個人として高い名声が与えられていないようだが、『切腹』や『東京裁判』を見ても、ただ者でないことは容易に察しが付く。これから個人的に注目したいと思っている。
★★★★☆
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(2005年12月24日の記事より)
b0189364_8474513.jpg怪談(1965年・東宝)
監督:小林正樹
原作:小泉八雲
脚本:水木洋子
撮影:宮島義勇
美術:戸田重昌
音楽:武満徹
出演:三国連太郎、新珠三千代、仲代達矢、岸恵子、中村嘉葎雄、丹波哲郎、志村喬、中村翫右衛門、中村雁治郎

小泉八雲の『怪談』から「黒髪」、「雪女」、「耳なし芳一」、「茶碗の中」の4話を映画化したオムニバス。
リアリズムより幻想的な表現を重視した美術で、演劇のようである。どの話もほとんどがセットで撮られている。スタジオはかなり大きく、セットも金がかかっていることがわかる。だが、こういう人為的な演出は好みの別れるところだと思う(私はあまり好きでない)。
話自体は有名なものが多く意外性はない(「茶碗の中」は少し珍しい)。展開もまったりしているのであまり緊迫感がない(怖い場面もあるが)。昔のお化け屋敷みたいな感じだ。
★★☆
by chikurinken | 2013-04-17 08:44 |
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