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竹林軒出張所

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2012年ベスト

 今年も恒例のベストです。当然「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで、他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんで、ひとつヨロシク。
(リンクはすべて過去の記事)

今年見た映画ベスト5
1. 『野いちご』
2. 『おとし穴』
3. 『愛されるために、ここにいる』
4. 『祇園囃子』
5. 『招かれざる客』
番外:『ある機関助士』

2012年ベスト_b0189364_1013859.jpg 古い映画ばかりで恐縮です。最新映画を劇場ロードショーで見るなんてことは1年以上ないので致し方ない。それに話題作を見るより、古典的な映画を見る方が外れが少ないし、どうしても古典志向になってしまう。
 『野いちご』はベルイマン、『おとし穴』は勅使河原宏、『祇園囃子』は溝口健二という具合で、ここであらためて取り上げるほどのこともないくらい名声のある監督ばかりである。詳しくは、それぞれのレビュー・ページをみてください。
 そんな中で『愛されるために、ここにいる』は比較的新しい作品だが、流れが自然で完成度が高く、上質な大人のロマンスになっている。恋愛が話の中心になるが、どこぞのくだらない恋愛ドラマと違って、登場人物にそれぞれ抱えるものがあるなどリアリティがあり、作り手側のご都合主義もまったく見受けられない。とってつけたような設定や登場人物がないのも良い。
 『招かれざる客』も古い映画だが、会話劇で、元々舞台劇だったのかよくわからないが、非常に良くできたプロットの映画である。公開当時おそらくセンセーショナルであっただろうテーマを、ズバリと見る側に突きつけながらも、高い理想主義が掲げられていて大変心地良い。
 番外に入れた『ある機関助士』は、蒸気機関車の機関士を扱った古いドキュメンタリー作品だが、こういった身近なテーマが、これだけの重厚な映像作品になるということにとても感心したことから、ここに加えることにした。

今年読んだ本ベスト5
1. 『画材の博物誌』
2. 『だまされて。 涙のメイド・イン・チャイナ』
3. 『FBI美術捜査官 奪われた名画を追え』
4. 『風のジャクリーヌ 〜ある真実の物語〜』
5. 『田宮模型の仕事』
番外:『親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと』

 どんなものにも歴史があって、それについて正しく認識しなければならない……というのがこのベスト5の共通のテーマである。
 画材というものが長い歴史の中で培われて今に至っているというのは、本来であれば至極当たり前なんだが、今みたいにいろいろな画材がいくらでもあふれている状況だとなかなかそれに気がつかない。画材が歴史の中でどのように発展してきたか、それはもちろんそれぞれの社会史や政治史とも関わってくるわけで、ものに投影されているその時代背景というものが実は存在するわけだ。こういうことがまとまった形で提示されることで、モノの歴史に思いを馳せることができるという点で、なかなか面白い本であった。ただし美術に興味のない人は読んでも面白く感じないかもしれない。
 『だまされて。』は、中国のモノ作りの現状を内側の目から報告する本で、中国人のありようがわかって興味深い。こういうもの作りをしているようであれば、たとえ今「世界の工場」などと言われていても、いずれ産業が荒廃していくのは火を見るより明らか。中国の関係者には、ちゃんとしたものを作るべく努力してほしいと思うし、日本のもの作りの関係者には、あまり中国と関わり合いにならない方が良いよと警告したくなるような、内容充実の本であった。
 『FBI美術捜査官』は、盗難美術品の奪回にもっぱら取り組んでいたFBI捜査官の告白で、なかなか知り得ない世界が展開されている上、ハードボイルド的な面白さもある。そこいらのハリウッド映画よりはるかに面白い。もしかしたらそのうち映画化されるかも知れないが。
 『風のジャクリーヌ』は、悲劇のチェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレの生涯を家族の目から追ったノンフィクションで、映画『ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ』で見られた、かなり偏ったイメージと違う「本当のジャクリーヌ・デュ・プレ」を垣間見ることができる。
 『田宮模型の仕事』は、日本のプラモデルを進化させた田宮模型社長の田宮俊作氏が自伝的に半生を語る本。これぞ「日本のもの作り」という職人魂が心地良い。子どもの頃何気なく接していたプラモデルにも、職人魂と作り手のプライドが反映されていたことにあらためて驚く。何にでも大いなる歴史があるのであって、それを正しく認識することが必要なんである。
 なお番外の『親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと』は、今回再読だったが、前回同様、非常に感心することの多い教育論だったので、ここに入れることにした。

今年見たドキュメンタリー・ベスト3
1. 『電球をめぐる陰謀』
2. 『ガスランド』
3. 『ホットコーヒー裁判の真相』
4. 『パーク・アベニュー 格差社会アメリカ』
5. 『夏の北アルプス 雲上のアドベンチャー』
番外:『調査報告 原発マネー』

 今年のドキュメンタリーは僕にとって大豊作で、ここに入っていないものにも秀作が多かった。1〜4まではどれもセンセーショナルな内容で、目から鱗が落ちるようなものばかりであった。
 『電球をめぐる陰謀』は、今流通しているモノが実は一定の期限で壊れるように作られているという事実を伝えるもので、これがどの程度今の我々の生活に当てはまるかはわからないが、確かに無意味に壊れやすいモノが多いような気はしている。またこういう話は以前も聞いたことがあって、それについて詳しく知りたいと思っていたところだったので、僕にとって非常に有益だった。
2012年ベスト_b0189364_1032116.jpg 『ガスランド』はシェール・ガス採掘の問題点を市民の目から告発するドキュメンタリー。水道水に火が付くという映像もインパクトがあり、シェール・ガス、シェール・オイルは手放しで賞賛できるものではないよということを知らせてくれる優れた作品であった。
 『ホットコーヒー裁判の真相』は、大企業とマスコミが巧妙に仕掛ける情報操作を告発するドキュメンタリーで、有名なマクドナルドの「ホットコーヒー裁判」に秘められた大変な事実を紹介する。これも目からウロコだった。
 『パーク・アベニュー』は、アメリカの格差社会を告発するドキュメンタリー。アメリカの格差社会が、富裕層の政治活動によって進んでいることが紹介される。『ガスランド』、『ホットコーヒー裁判の真相』、『パーク・アベニュー』を見ると、アメリカで不正義がはびこっている状況がよくわかり、末期的な印象すら持ってしまう。大丈夫か、アメリカ?
 『夏の北アルプス』はがらりと変わって紀行ドキュメンタリーだが、登山の楽しみがこれ以上ないほど伝わってくる稀有な番組であった。
 番外の『調査報告 原発マネー』は、NHKが原発マネーにまで切り込んだという点を高く評価したいということでここに加えた。

今年見たドラマ・ベスト3
1. 『ゴーイング マイ ホーム』
2. 『それぞれの秋』
3. 『とんび』
番外:『極楽家族』

2012年ベスト_b0189364_1035953.jpg 今年は見たドラマの数が少なかったので、選択肢自体が少なくしょっぱいランキングになった。今のテレビ・ドラマのレベルは相変わらず低く、見るに値するものも非常に少なくなったが、 『ゴーイング マイ ホーム』は数少ない優良作品の1つ。地味だが完成度が高く、優れた映画人がドラマに関わるとこれだけのものができるというのがよくわかる好例である。要するに今のドラマ界は、優れた人材が圧倒的に少ないということなんだろう。今のドラマにはあまり期待できないというのが、このランキングにも反映されていて、『それぞれの秋』は40年前のドラマだし、番外の『極楽家族』も35年前のドラマ。『極楽家族』は内容的には圧倒的に1位なんだが、これまで何度も見ているドラマで、ここで取り上げるのも心苦しいほどなんで、番外ということにした。『とんび』は泣かせるドラマだが、わざとらしさが鼻に付く部分がなきにしもあらず。2013年には同じ原作をTBSが連続ドラマにするらしいが、こういうところにも放送業界の企画の貧困さが見受けられるんだな。

 というところで、今年も終了です。今年も1年、お世話になりました。また来年もときどき立ち寄ってやってください。
 ではよいお年をお迎えください。

参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』
竹林軒出張所『2010年ベスト』
竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』
竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』
竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』
竹林軒出張所『2013年ベスト』
竹林軒出張所『2014年ベスト』
竹林軒出張所『2015年ベスト』
竹林軒出張所『2016年ベスト』
竹林軒出張所『2017年ベスト』
竹林軒出張所『2018年ベスト』
竹林軒出張所『2019年ベスト』
竹林軒出張所『2020年ベスト』
竹林軒出張所『2021年ベスト』
竹林軒出張所『2022年ベスト』
竹林軒出張所『2023年ベスト』

by chikurinken | 2012-12-31 09:01 | ベスト
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