ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

輸入DVDもプチ・ウラシマ

輸入DVDもプチ・ウラシマ_b0189364_820267.jpg 以前、輸入盤のCDの値段がえらいことになっているとこのブログで書いたが(竹林軒出張所『輸入CDはウラシマ状態』参照)、その現象はCDだけにとどまらなかった。最近気がついたんだが、ジャズの巨匠たちの(秘蔵)DVDが軒並み1700円前後で売られている。『Jazz Icon』というシリーズがそれで、今のところ23タイトルあるらしい。ほとんどがヨーロッパ・ライブの映像で、現地の放送局が収録していたビデオ映像が最近になって発掘されたため、それがDVDとしてリリースされたという、そういういきさつのようだ。それにしても値段が破格で、今までの相場だと国内盤が4000〜5000円、輸入盤が3000〜5000円という感覚なんだが、国内CD並みの1700円というのは驚きである(映画は廉価ものもありますがね)。あるいはアメリカやヨーロッパではこれが普通の感覚かも知れない。それにジャズの巨人たちの映像は意外に残っていないもので、かつて、大勢のジャズメンの秘蔵映像を集めた映画を劇場まで見に行ったことさえあるくらいで、それくらい目にすることはなかった。特に60年代以前に死去した人々についてはそうである。当時のジャズの社会的地位なんかと関係しているのかも知れない。
 で今回、例によって、試しに1枚買ってみたんである、ジョン・コルトレーンのものを。ヨーロッパ・ツアーの映像ということで、ホールの舞台で演奏しているのであれば少し興ざめではあるが、演奏するコルトレーンの映像自体が少ないし、値段も安いんで、多少はずれでもかまわないと思っていたわけだ。だが実際、蓋を開けてみると、舞台以外の演奏もある上、トータル1時間半以上の映像が収録されていて、満足度は非常に高い。何より、コレハコレハ……という驚きの映像もあった。
 このDVDの構成は、1960年3月28日の西ドイツ、デュッセルドルフでのスタジオ・ライブ、1961年12月4日の西ドイツ、バーデンバーデンでのスタジオ・ライブ、1965年8月1日のベルギー、リエージュでのコンサート映像の3部構成になっている。60年が5曲、61年が3曲、65年が3曲だが、65年の「My Favorite Things」が20分以上の長い演奏という具合で、演奏時間にあまりばらつきはない。60年の演奏はマイルス・デイヴィス・クインテットからマイルス・デイヴィスを抜いたメンツ、61年と65年は、コルトレーン・カルテットのメンツ(マッコイ・タイナー、エルヴィン・ジョーンズら)である。
輸入DVDもプチ・ウラシマ_b0189364_823373.jpg さて60年の演奏だが、ライナー・ノートによると、「JATPヨーロッパ・ツアー」で渡欧したジャズメンをテレビ収録にかり出したものだったらしい。実際映像を見ると、マイルス抜きのマイルス・クインテット、つまりサックスのコルトレーン、ピアノのウィントン・ケリー、ベースのポール・チェンバース、ドラムのジミー・コブの演奏が始まる。このメンツもすごいが演奏も素晴らしい。ところがその後、「Moonlight in Vermont」(DVDの4曲目にあたる)の演奏が始まると、突如スタン・ゲッツが参加してくる。さらにその次の「Hackensack」になると、今度はウィントン・ケリーに代わってオスカー・ピーターソンがピアノを担当するという、コルトレーン、スタン・ゲッツ、オスカー・ピーターソンの夢の共演が実現するのだった。おそらくコルトレーンとスタン・ゲッツの共演は、CDでも出ていないんじゃないかと思う。非常に貴重な演奏が映像で楽しめ、これだけで十分元が取れるというものである。
輸入DVDもプチ・ウラシマ_b0189364_8234849.jpg なぜこういった奇妙なセッションが実現したか、その事情がライナー・ノートに書かれていた。当初、テレビ収録には、このJATPツアーに参加したマイルス・デイヴィス・クインテット、スタン・ゲッツ・カルテット、オスカー・ピーターソン・トリオが出演して、3番組収録する予定だったが、マイルス・デイヴィスが「オレはやらない」と言い出したという。JATPのプロデューサー、ノーマン・グランツは、テレビ関係者に、収録を中止することもできるがこういうのはどうだろうと言って、スタン・ゲッツ・カルテット、オスカー・ピーターソン・トリオの収録以外に、マイルス抜きでマイルス・クインテット(実態はカルテットだが)の演奏をやり、ゲッツとピーターソンをゲスト出演させる企画を持ち出した。テレビ関係者は、3番組撮れればOKということで結局この企画が実現した……ということらしい。スタジオ内のライブであるため、臨場感があって映像としても上質のものである。なお、曲の最後に拍手が入るが、これは現場にいた人々の拍手ではなく、後で重ねたもの(ライナーによる)。
 61年のスタジオ・ライブも同じく臨場感があり、ガレージみたいなセットがしつらえられていて、面白い映像になっている。ちなみにここで演奏される2曲「My Favorite Things」と「Impressions」はエリック・ドルフィーが参加しているもので、既発売のDVD『ジョン・コルトレーンの世界』に収録されているセッションと同じものである。
 最後の65年のコンサート・ライブは、大ホールで行われたセッションの記録映像だが、コルトレーンが無茶苦茶吹きまくる演奏で、ものすごく熱いライブになっている。1966年の日本ツアーもこんな感じだったんじゃないかという演奏で、そういう意味でも非常に貴重。
 このように、どの演奏もまったく外れがない、これで1700円はお買い得! どうです、奥さん! というようなDVDであった。満足度100%である。そういうわけで、このシリーズの他のタイトルも今後いくつか買うかも知れない。
あえて、★★★★

参考:
竹林軒出張所『輸入CDはウラシマ状態』
竹林軒出張所『ジャズの輸入DVD続編』
by chikurinken | 2012-11-17 08:24 | 音楽
<< 『日本ノ宝、見ツケマシタ 1』... 『太陽がいっぱい』(映画) >>