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竹林軒出張所

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『幻の名碗 曜変天目に挑む』(ドキュメンタリー)

幻の名碗 曜変天目に挑む(2003年・NHK)
NHK-BSプレミアム

『幻の名碗 曜変天目に挑む』(ドキュメンタリー)_b0189364_7545659.jpg 七色の光彩を放つと言われる曜変天目茶碗。現存する曜変天目茶碗は世界に3個で、そのいずれも日本にあり、国宝指定されている。要は日本での評価が高いということなんだろう。日本では、その希少性もあって徳川将軍家や足利家、織田信長が所有したものもあるらしい。ちなみに元々は800年前、中国福建省の建窯(けんよう)で焼かれたものである。
 僕自身は3点の国宝をすべて直接目にしていると記憶しているが(もしかしたら2点だったかも知れない)、焼きものの門外漢である僕のような人間にとってもやはりインパクトがある器である。それを考えると、多くの陶芸家がその再現を模索したとしても何ら不思議ではない。そういうわけで、このドキュメンタリーでは、曜変天目の再現を目指す若き作家たち、瀬戸焼の長江惣吉(9代目)、美濃焼の林恭助、中国福建省の孫健興の3人の取り組みを紹介する。ただし孫健興氏が目指しているのは、どうも曜変天目茶碗ではないようで、再現度も見たところもう一つだった。そもそも中国で曜変天目が日本みたいに人気があるのかその辺もよくわからない。大体中国には現物が残ってないんだから、人々の興味自体沸きにくいんじゃないかと思う。そういうわけで孫氏については、何だか番組制作側の数合わせみたいな印象もあった。
『幻の名碗 曜変天目に挑む』(ドキュメンタリー)_b0189364_7551036.jpg さて長江氏と林氏だが、それぞれ別の方法で曜変天目にアプローチしている。長江氏は、製作された当時の福建省の環境をできる限り再現することで、特に小細工をすることなく再現しようとする。一方で林氏は、いったん漆黒の天目茶碗を焼いてから模様を付けるためにもう一度焼くというアプローチである。この方法で林氏は、結果的に曜変天目の特徴である光彩を再現でき、曜変天目の特徴を持った茶碗を作り上げ、その作品を発表するに至る。その報に触れて、先を越された長江氏は動揺する。長江氏は、福建省の土を取り寄せて、禾目天目→油滴天目→曜変天目という三段階で再現しようと考えており、禾目天目の再現に成功していたが、林氏の作品の写真を見てから、油滴天目を省いて曜変天目を一気に目指すという方向に方針転換する。母の死に遭遇したりと身辺でさまざまなことが起こるが、やがてついに独自のアプローチで光彩の再現に成功するのであった。
 番組では、曜変天目の再現は林氏の方が早かったが、長江氏も本格的な方法で曜変天目を再現できたという見方をしているようで、両者の扱いが、何となく南極点到達時のアムンゼンとスコットになぞらえているかのようだった(思い過ごしか……)。
『幻の名碗 曜変天目に挑む』(ドキュメンタリー)_b0189364_7554642.jpg なお、このドキュメンタリーでは触れていなかったが、「曜変天目の再現」ができたかどうかには異論もあるようで、なかなか「再現」と断言することができないというのが実情のようではある。僕自身昨年だったか林氏の作品展を見に行き「再現曜変天目」を自分の目で確かめたが、再現度はなかなかのものだと思った。正直「再現ではない」という発想はまったく湧かなかった。こういった異論も陶磁器界のやっかみみたいなものがあるのかも知れないと何となく思う。そもそも並べて比較できるわけではないので、両者の違いはわかりにくいのだ。むしろ林氏の場合、光彩模様を利用して独自の作品世界を作り上げていて、「再現」にとどまらないオリジナリティも感じたのであった。したがって林氏の「再現」については、僕自身はまったく異論はない(値段の高さには異論があるが)。一方の長江氏の作品は生で見たことはないが、ケレンを使うことなく再現したというその成果には大変興味があるところ。機会があったら見に行きたいと思っている。
 2人の若き陶工の青春群像みたいなアプローチのドキュメンタリーで非常に面白い番組だった。この番組自体9年ぶりに放送された再放送だったが、9月21日午前0時30分からBSプレミアムで再度、再放送の予定がある。興味のある方はご覧ください(詳細については「NHKプレミアムアーカイブス」ホームページ参照)。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『曜変天目を現在に(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『曜変 陶工・魔性の輝きに挑む(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2012-09-15 07:57 | ドキュメンタリー
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