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竹林軒出張所

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『アライグマの国』(ドキュメンタリー)

アライグマの国 都市生活と“進化”
(2011年・加Raccoons Inc.)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
「シリーズ 動物と人間社会」

『アライグマの国』(ドキュメンタリー)_b0189364_7582352.jpg アライグマといえば、オジ世代にとって思い出すのは「ラスカル」。もっとも僕が『あらいぐまラスカル』を見たのは10年くらい前で、当時幼児だった子どもに見せてたときに一緒に見たんであって、世代的にはあまり関係ないかも知れない。『あらいぐまラスカル』は、母親と別れたはぐれアライグマを飼育して最後は森に返すというストーリーで、原作はスターリング・ノースの実話小説だという。あのアニメを見ると、アライグマはとぼけてて愛らしいんだが、実際のアライグマは結構凶暴で、飼おうとするとちょっと大変らしい(このドキュメンタリーで言っていた)。
 そのアライグマだが、現在北米の大都市に進出し、街中を徘徊しているらしい。このドキュメンタリーでは、カナダ、トロントの状況を紹介していたが、そりゃもうすごい。夜の町を普通に闊歩している。野良猫より多いんじゃないかという勢いだ。アライグマは元々北米原産で北米の自然界に棲んでいたわけだが、前足を器用に使えることからゴミ箱あさりなんかも割にうまくやる。そういうこともあって、餌は確保しやすいし、それにねぐらも見つけやすいしで都市部で快適に過ごせることを見つけたんじゃないかと思う。とにかく繁殖状況がすごいことになっている。
 で、このドキュメンタリーの中で、アライグマの研究家が、野良アライグマに発振器を付けたり赤外線カメラで撮影したりして、アライグマの生態に迫るんだが、その過程でアライグマの生態というものが見えてくる。アライグマは高い木の上で子どもを生みそこである程度育てた後、民家のガレージなど、人目に付きにくい場所に一家で引っ越す。ただしアライグマの家族にはオスはおらず、母子家庭である。この過程で、餌の取り方など生きるための方法を子どもに教えていく。アライグマは雑食性であるため、餌はおおむね人間が出したゴミで、複雑な構造のゴミ箱でも器用に開けてちゃんと餌にありつく。雑食性であって生態系の頂点に近いため、天敵はいないらしく、そのためもあって大量に繁殖しているというのだ。現在のアライグマの最大の天敵は自動車で、交通事故死が都市アライグマの最大の死因になっているらしい。アライグマの方もその辺は学習しているようで、車道は素早く渡るし、あまり車道を通らなくても良いようなルートを見つけて活動している。なお、今回の研究家の調査で、それぞれのアライグマの行動範囲は意外に小さいことが判明し(3ブロック程度と言っていた)、よくよく調べてみるとこの行動範囲がそのアライグマのテリトリーになっていて、そこから少し出ると別のアライグマのテリトリーになる。いわばモザイク状に都市全体にアライグマのテリトリーが分布しているわけだ。
『アライグマの国』(ドキュメンタリー)_b0189364_75849100.jpg 一方で、アライグマが人間の生活に対して有害になっている状況も紹介している。最初に日本とドイツのケースが紹介されていたが、日本にも野生化したアライグマが結構いるようで、元々は案の定『あらいぐまラスカル』の影響なんだそうだ。あのアニメに出てくるアライグマがあまりに可愛いため一時期ペットとして流行したようで、その際に北米から大量に日本に来たらしい。で、飼い主は結局、凶暴化したアライグマに手を焼いて、スターリング(『ラスカル』の主人公の少年)同様アライグマを森に返したため、アライグマが野生化したんだという。で、この野生化したアライグマだが、寺などの古い建物に巣を作ったりするらしい。そうすると建物がぼろぼろになり、古い建築物が想定外の勢いで劣化するんで、お寺さんも大変困っているらしい。結局駆除するしか対策がない…と日本の研究者は語っていた。
 また、アライグマの体内に棲むアライグマ回虫も人間にとって危険な要因になっているという。アライグマの糞を介して、人や家畜に感染して、被害を与えるケースが増えているという(死亡例もあるらしい)。都市生活に適用した野良アライグマが、思わぬ副産物を現代社会にもたらしているという話を紹介するドキュメンタリーで、少々とりとめがない印象もあるが、なかなか蘊蓄に富んだ面白い作品だった。何より珍しい(アライグマの)映像が満載だし。なお、このドキュメンタリーの製作会社はRaccoons Inc.という(「Raccoon」=アライグマ、「アライグマ社」という感じかな)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『都会の中の“進化論”(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『被曝の森は今(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『被曝の森 原発事故 5年目の記録(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『森の探偵(本)』

by chikurinken | 2012-08-31 07:59 | ドキュメンタリー
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