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竹林軒出張所

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『nude』(映画)

nude(2010年・「nude」製作委員会)
監督:小沼雄一
原作:みひろ
脚本:石川美香穂、小沼雄一
出演:渡辺奈緒子、光石研、佐津川愛美、永山たかし、みひろ

『nude』(映画)_b0189364_9363185.jpg AV女優のみひろが書いた私小説『nude』の映画化。
 新潟の高校を卒業し東京で普通の仕事をしていた女性(主人公=みひろ)が芸能事務所に入り、やがてAV女優に転ずるまでを描く。AV女優になったことで、恋人と親友の理解を失ってしまうことになるんだが、その部分がサブプロット的な扱いになる。
 全体的に非常にオーソドックスな演出で、主人公によるナレーションが入り、時折回想を交えながら、時間軸に沿って話が展開されていく。物語の密度も割に薄いので途中まで少し退屈するほどだ。だがAV女優に転ずるあたりから、本人の中にも、それから本人の周辺にも軋轢が生じてきて、この辺がドラマ性を生み出すことになる。
 全編、主人公の主観を軸に描かれ私小説的な演出になっているため、主人公に感情移入しやすい。主人公にとって一番大きいハードルが、ヌードグラビアを始めるときとAV界に転じるときだが、その辺の心情変化も何となく理解できる。描写が具体的ではなく、何が彼女を踏み切らせたのかはわかりにくいが、それでも心情的には何となくわかる。だから、これによって恋人や親友との間に軋轢が生じてきたときも、主人公の心情がよく表現されているために、彼らに理解されないことのつらさみたいなものもよく伝わってくる。
『nude』(映画)_b0189364_937368.jpg 主観的な表現が多いため、AVの撮影現場もウェットな感じがなく、一般映画の撮影と似たような雰囲気に映る。だから本当にAVの撮影現場に入ったかのような錯覚を覚えて、これは主人公の感覚に近く、その点でも主観的な表現として巧みだと思う。女優目線による撮影中の映像まで出てきて、男優の他、カメラマン、スタッフなどが、同じ画面に収まっているシーンもある。異様ではあるがどことなく滑稽さもあって、秀逸な映像になっている。伊丹十三監督の『お葬式』に出てきた「死体側の目線で見た遺族の映像」に匹敵する名シーンである。初めてセックス・シーンを撮影するときは「目をつぶってえいちゃん(恋人)としてるって思った」などという表現もリアルで良い。AVという特異な業界に身を置いた若い女性が等身大に感じられるようになっていて、私小説映画としてよくできていると思う。
 個人的に気になったのは、主役を演じた渡辺奈緒子という人。口のあたりが少しみひろに似ているが、翳りがあって、人気AV女優の乾いた雰囲気がまったくない。そういうわけで渡辺奈緒子演じるキャラクターにはずっと違和感を感じていた。何か違う。僕の主観の問題かも知れないが、彼女をこのキャラに起用したことにはちょっと納得がいかないところ。演技自体は悪くなかったが。
 なお、原作者のみひろ本人も(予想どおり)カメオ出演している。
★★★☆
by chikurinken | 2012-08-09 09:38 | 映画
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