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竹林軒出張所

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『瓦と砂金 働く子供たちの13年後』(ドキュメンタリー)

瓦と砂金 〜働く子供たちの13年後〜
(2009年・NHK/ドキュメンタリージャパン)
NHK-BShi ハイビジョン特集

『瓦と砂金 働く子供たちの13年後』(ドキュメンタリー)_b0189364_993187.jpg ペルーのアンデス地域に住む2人の少年(サントスとウィルベル)に密着するドキュメンタリー。
 この同年代の2人、同じ村でともに瓦を作って生計を立てている。年長のサントス(15歳)は、大家族の中で毎日家業の手伝いで瓦を作っている。一方ウィルベルは両親がおらず、別の瓦工場に住み込みで雇われている。2人とも学校には行っておらず、労働に追われる毎日を過ごしている。ちなみにペルーでは12歳以上の児童の労働が認められている。児童労働を禁止することで起こる児童の搾取を防ぐためだという。サントスは、家族に縛られないウィルベルの自由な生活を羨ましがっており、ウィルベルの方は、家族と共に暮らすサントスの生活を羨ましがっている。このサントスとウィルベルに密着することで、貧困地域の子ども達の実態に迫ったドキュメンタリーが、1996年に放送されたらしい。「らしい」というのはこの番組を見ていないためで、今回見たのは「その後のサントスとウィルベル」を扱ったドキュメンタリーの方である。『エリックとエリクソン』『バーミヤンの少年』を思い出させる「その後の少年シリーズ」の1本で、学校に行けずに労働に明け暮れていた少年たちの13年後が描かれる。
 もちろんこの番組でも、13年前のかれらの映像がふんだんに出てきて、先に書いたようなことが随所で紹介される。そしていよいよかれらの今に迫ることになる。取材班は同じ村を訪れ、まずサントスと再会する。29歳になったサントスは今も瓦を作り続け、一家の中心として家族を養っている。弟や妹も増えており、彼らも仕事を手伝っている。サントスの子ども時代と違うのは、彼らが学校に通っていることである。きつい仕事はサントスが引き受け、下の子ども達は終日労働せずに学校中心の生活のようだ。サントスの方も夜学に通っているが、中学がなかなか卒業できないらしい。一方でサントスは、機械化に踏み切ることで、きつい労働を排除してしかも製品の質を向上させようと目論んでいるのだった(計画は8割がた進行している)。
『瓦と砂金 働く子供たちの13年後』(ドキュメンタリー)_b0189364_9103011.jpg 一方ウィルベルの方は、何年か前にアマゾン地帯に移住していったという。金が採れるという話があり、一攫千金を夢見る人々が大勢集まった街ができているらしい。取材班はウィルベルに会いにアマゾン地帯に赴き、ウィルベルのことが随分気になっていたというサントスもそれに同行する。ウィルベルの消息はなかなか掴めないが、なんとか出会うことに成功する。ともに再会を喜び合う2人だが、ウィルベルの方は様子が大分違っていた。独身のサントスと違って、妻と子どもがいたが、何より違っていたのは酒浸りになっていたことだった。体調が悪いこともあり仕事もあまりしていないようだ。身を持ち崩しつつあることが見て取れる。サントスは、ウィルベルの生活を立て直すべく、村に帰るよう再三誘うのだった。
 こういった展開のドキュメンタリーで、これも『エリックとエリクソン』同様、非常によくできた構成になっており、一編の優れたリアリズム映画のようなストーリーである(もっともドキュメンタリーだからストーリーというものは本来ないが)。貧困の厳しさ、教育を受けないことのマイナス面、家族のために自分を犠牲にしなければならない境遇、山師的な生き方の限界など、いろいろな現実を見せつけられ、思うところも多い。何よりサントスとウィルベルの人間性が随所にあふれていて、そこがこのドキュメンタリーの大きな魅力にもなっている。「少年たちのその後」という題材はそもそもが興味をそそられるものであり、無限の未来を持っているはずの子どもが将来どうなっているかというのは大変興味深いテーマである。少年時代と成人後を1つの映像の中でまとめることで、連続した人生を俯瞰できるようになっていて、そういう点、ドキュメンタリー映像の特色がいかんなく発揮されている。もちろん製作には多大な労力がかかると思うが、こういった良質なドキュメンタリーができあがることを考えると労は報いられていると言えるのではないか。ともかく良いドキュメンタリーだった。
★★★★

参考:
竹林軒『エリックとエリクソン』
竹林軒出張所『バーミヤンの少年(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2012-07-10 09:12 | ドキュメンタリー
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