ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『テルマエ・ロマエ I、II』(本)

『テルマエ・ロマエ I、II』(本)_b0189364_9522887.jpgテルマエ・ロマエ III
ヤマザキマリ著
ビームコミックス

 古代ローマ人が主人公のマンガ。古代ローマが舞台、しかも何だかひねりが利いているらしいということで前から読みたいと思っていたところ、最近映画化されたということもあっていよいよ実際に手に取ることになった。
 で、どういう話かというと、古代ローマの浴場設計士、ルシウスが、浴場設計でいろいろな難題に突き当たり、そのたびに現代の日本に(たまたま)タイムスリップし、風呂にまつわるさまざまなアイデアに感心し、それをローマに持って帰って成功するという、はなはだバカバカしいストーリーである。もっともバカバカしくはあるが面白い。基本的に1話完結の短編を集めたもので、どれもワンパターンの展開。もちろん、あるときは日本の公衆浴場、あるときは内風呂、あるときは温泉という具合にネタは毎回変わるし、ストーリーも進行していく。ハドリアヌスやマルクス・アウレリウスなどの五賢帝も登場して、歴史好きには楽しい。ただこのマンガに描かれている時代考証が正しいのかどうかはよくわからない。何となく現代日本風味な気もする。
『テルマエ・ロマエ I、II』(本)_b0189364_9533258.jpg 考えようによっては壮大な話であるが、基本は現代日本を外の目で見るという異文化交流がテーマである。普段何気なく接しているものごとでも、外から見ると意外に思われることは多い。日本の場合、来日した外国人にとってトイレや風呂が驚きの対象になることが多いらしいが、そういう意味でも風呂を題材として取り上げたのは正解と言える。だが極論すれば「外国人による日本観」に他ならない。BOSSのコマーシャルで宇宙人ジョーンズが現代の地球にやってきて、奇妙な文化に驚くというのがあるが、あれもおおむね外国人が日本に来て驚くネタばかりである。あれも異星人の間の壮大な話だが、ほとんどが日本特有の文化をいじる異文化交流の話に過ぎない。でも、自国の文化がよそからどう見えるかというのは存外面白く感じるものである(特に日本人は)。そういう意味であのCMは面白いんだが、『テルマエ・ロマエ』にも同様の面白さがある。というより、同じ発想じゃないかと思う。著者は、イタリア在住の日本人女性ということで、日本文化を外部から見ることの面白さを知っていて、それでこういう話を割合安易に作ったんじゃないかと思う。絵については、線はきれいだが並のレベル、ストーリーはそこそこよくできているが「タイムスリップ」には少々安直さを感じる。特に最近の日本のドラマやなんかはなんでもかんでも「タイムスリップ」と来ていて、僕などは少々辟易しているのだ。たしかに時代を超えた異文化交流が面白いのはわかるが、ちょっと能がないんじゃないかと思ってしまう。もっともこのマンガの場合、「タイムスリップ」自体にそれほど重きが置かれておらず、一つのツールとして使われているため、それほどの違和感は感じない。全編「よそから見た日本文化」のおかしさがちりばめられていて、楽しく異文化交流を体験することができる作品といえる。なおタイトルの『テルマエ・ロマエ』は「ローマの浴場」の意味……だと思う。
マンガ大賞2010、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞作
★★★☆
by chikurinken | 2012-05-19 09:53 |
<< 『マーラー 君に捧げるアダージ... 『洋菓子店コアンドル』(映画) >>