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竹林軒出張所

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『FBI美術捜査官 奪われた名画を追え』(本)

FBI美術捜査官 奪われた名画を追え
ロバート・K. ウィットマン、ジョン・シフマン著、土屋晃、匝瑳玲子訳
柏書房

『FBI美術捜査官 奪われた名画を追え』(本)_b0189364_9174638.jpg FBI(アメリカ連邦捜査局)で盗難美術品の捜査を中心に行ったロバート・ウィットマンの回想録。
 FBIに入局した経緯、美術関連捜査をやるようになった経緯から、盗難絵画の奪還に成功した事例などが紹介される。取り戻した盗難作品には、ロダン美術館のロダンの彫刻、アメリカ先住民の頭飾り、権利章典文書、レンブラントの自画像などがある。著者のウィットマンらによる数々の成功により、それまで軽視されてきた盗難美術品捜査を専門に行う部署がFBIにも作られて、本格的に盗難美術品捜査が行われるようになったという。それに伴って成功事例も増えていったようだ。
 方法論はいわゆる「潜入捜査」で、盗難美術品を売ろうと目論む所有者に対し、ウィットマンが盗難作品を扱う裏美術商に扮してアプローチする。さまざまな方法を駆使して相手に自分を信用させ、やがて実際の取引を行う手はずを整える。証拠が出そろい、現物の美術品が出てきていざ取引という段になったところで、他のFBIの突入部隊が現場を押さえて逮捕、ブツを押収するという運びになる。つまり犯罪者をだまして美術品を取り戻すという手はずで、常に危険が伴う大変な仕事である。
 全体は「開幕」(序)、「来歴」(FBI捜査官になるまでの経緯とFBIでの活動)、「作品群」(これまで担当した事件の紹介)、「オペレーション・マスターピース」の四部構成になっており、その第四部の「オペレーション・マスターピース」では、イザベラ・ガードナー美術館の盗難美術品奪還プロジェクトについて紹介していて、この章に特に多くの紙数が割かれている。イザベラ・ガードナー美術館の美術品盗難事件は、映画やドキュメンタリーでも扱われている題材で(竹林軒出張所『フェルメール盗難事件(ドキュメンタリー)』『消えたフェルメールを探して(映画)』参照)、いまだに未解決の事件ではあるが、実はウィットマンらによってフェルメールとレンブラントの作品を奪還する直前まで話が進んでいたというのだ。詳しくは本書に当たっていただくとして、潜入捜査は核心に迫る部分まで進んでいたが、FBI内部の官僚的な体質やフランス警察との行き違いや勢力争いなどから、結果的にウィットマンが担当から外されることになり、結局美術品を取り戻すことができなかった。そのあたり、FBI高官の馬鹿げた所業に対する痛烈な批判が炸裂し、著者の忸怩たる思いも見え隠れして非常に興味深い。この事件については僕自身も関心があり、この第四部は特に面白いと感じた箇所であった。ただ、他の事件の箇所は、対象となる美術品への関心の違いなども相まって、少々退屈する部分もあった。それに登場人物が多く、混乱した部分もある。
 知らない世界を垣間見ることができ、しかも語り口もうまくハードボイルド小説みたいな緊迫感もあって非常に面白い本ではあるが、個人的には多少中だるみを感じたのも事実である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『フェルメール盗難事件(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『消えたフェルメールを探して(映画)』
竹林軒出張所『偽りのガリレオ(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2012-03-01 09:20 |
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