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竹林軒出張所

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『真実一路』(映画) -- 極私的に淡島千景追悼 --

真実一路(1954年・松竹)
監督:川島雄三
原作:山本有三
脚本:椎名利夫
出演:淡島千景、桂木洋子、須賀不二夫、山村聡、佐田啓二、多々良純

『真実一路』(映画) -- 極私的に淡島千景追悼 --_b0189364_1115344.jpg 山本有三原作の同名小説の映画化。先頃逝去した淡島千景が出演。
 山本有三と言えば、僕が子どもの頃、父がやたら『路傍の石』を奨めていたので、その関係で名前を知っているという作家である。この『真実一路』も『路傍の石』と同系の話だろうと思って見ていたが、大分毛色が違った。
 端的に言えば、自分に正直に……というか身勝手に生きる女性の周辺で巻き起こる騒動といったところ。こういう人が近くにいると周りや家族は大変迷惑するのが常だが、本人は至って平然としており、それが余計に癪に障ったりする。到底共感を抱けるような存在ではないが、この話では、自分に正直に「真実一路に生きる」人として肯定している。こんなに周りを振り回して迷惑をかけ続ける人になんか共感できないのだが、その辺は作者とこちらとの間でかなり温度差がある。
 映画自体は、回想や独白を交えるなど、きわめてオーソドックスな作りで、古いタイプの映画と言える。あまり洗練された部分はないが破綻もまったくないので、落ち着いて見ることができる。いろいろな登場人物にスポットが当たるので、誰が主人公かよくわからない部分もある。山本有三原作だけに当初は子どもが主人公だとばかり思っていたが、どうも途中から姉、父、母と、話の中心がめまぐるしく移り変わり、話の芯がはっきりしない。グランドホテル形式に近いのかも知れないが、一方で拙い印象も受ける。
 そういうわけでとりたててどうと言うことはなかったが、東京近郊の田園風景が今となっては非常に新鮮であった。「武蔵野の面影が残る」などとよく言われたりするがまさにそういう風景で、「春の小川」を彷彿させるような美しい小川まで流れていた。ちなみに唱歌の「春の小川」、元々は渋谷あたりを流れていた川がモデルだという。
★★★

参考:
竹林軒出張所『路傍の石(映画)』
竹林軒出張所『雁の寺(映画)』
竹林軒出張所『しとやかな獣(映画)』
竹林軒出張所『女は二度生まれる(映画)』

by chikurinken | 2012-02-21 11:17 | 映画
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