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竹林軒出張所

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『世界一のトイレ ウォシュレット開発物語』(本)

『世界一のトイレ ウォシュレット開発物語』(本)_b0189364_8235198.jpg世界一のトイレ ウォシュレット開発物語
林良祐著
朝日新書

 日本に来た外国人が往々にして驚くのがハイテクトイレだという。よその国には、自動洗浄機能や暖かい便座はあまりないらしい。映画の『トイレット』(竹林軒出張所『トイレット(映画)』参照)にもそういう話が出ていた。確かにウォシュレットが初めて登場したとき、僕も大変な違和感を感じた。こんなもん使う人がいるのかと思ったほどで、潔癖にもほどがあると感じたものだ。ただ試しに使ってみると結構良い感じだったりするわけで、今ではないとちょっと困るくらいになっていて、自分の節操のなさにあきれるのである。ただやはり少し贅沢すぎるのではないかという感じはいまだにつきまとっている。電動で水を使う方が紙を余計に使うよりは良いのかなどといつも自問自答しながら使っているという有様だ。貧乏性なもので。
 ともかくそういうわけで自動洗浄トイレ、ひいてはウォシュレット(これはTOTOの商標)には大変関心があるところ。本書はTOTOでウォシュレットの開発に携わった方のウォシュレット開発話である。ちなみに著者は現在、TOTO事業部ウォシュレット生産本部長、兼TOTOウォシュレットテクノ社長という肩書きを持つ。48歳で社長、しかもたたき上げとは恐れ入る。
 さてたたき上げの人であるからかどうかわからないが、内容は結構詳細で、ウォシュレットの構造や秘密、それからウォシュレットの開発や事業展開にまつわる話なども忌憚なく披露される。こんなにばらして大丈夫なのかと心配してしまうほど(おそらく大丈夫なんだろう)だが、開発に対する自信やプライドも随所に覗かれる。著者のもの作りに対する真摯さが伝わってきて爽快である。ハイテク便器の構造やしくみは意外に複雑で、僕のような素人にとってはわかりにくい部分もあるが、図版や写真がふんだんに使われているため、理解できないことはない。また、ウォシュレットは実は単に機能性に優れているだけでなく、節水という命題にも挑戦しているらしい。水洗トイレの洗浄に使われていた水の量はかつて12〜20リットル/回だったものが現在では4.8リットル/回を達成し、4リットルの壁さえ越えようとしていると聞くと、贅沢さに思い悩んでいた僕もエコロジー(節水)の観点から少しは安心するというものだ。
 ウォシュレットは言ってみれば(ハイテク)電気製品であり、いつもトイレに入るたびに故障してないかなと心配になるんだが、ウチのウォシュレットも今までまったく不調だったことすらない(ま、不調になってもらっても困るんだが)。そういう点でも当たり前のことが当たり前に機能することを大切にしていることがよくわかる製品で、製品に真摯さを感じるのである。そしてその真摯さはこの著者の態度にも共通している。
 日本のもの作りの力量を見せつけられる気がするような本で、もの作りに携わる人間はかくありたいと思わせられる良書であった。
★★★☆
by chikurinken | 2011-11-28 08:24 |
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