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竹林軒出張所

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『昨日、悲別で』(1)〜(13)(ドラマ)

昨日、悲別で(1984年・日本テレビ)
演出:石橋冠他
脚本:倉本聰
出演:天宮良、五月みどり、斉藤慶子、梨本謙次郎、布施博、大滝秀治、村田香織、石田えり、千秋実

『昨日、悲別で』(1)〜(13)(ドラマ)_b0189364_7543220.jpg 一部で「伝説のドラマ」みたいに言われてるんでかなり期待して見たが、正直期待外れだった。倉本聰のドラマは、確かに良いものは良いんだが、どうしようもなく外れたものも割に多い。これなんか外れた方の代表作と言って良いと思う。
 シナリオ・レベルで見ると、ストーリーがこんがらがっていて整合性がない上、あちこち作りすぎでこざかしいのも鼻に付く。なおかつ展開にリアリティがないと来ている。本当に倉本聰が書いたのか?と思うようなレベルで、素人の作家が書いたシナリオに近い。また、演出面では、役者の演技がくさく、やたら無駄なカットが多いのも目に付く。喫茶店でコーヒーを頼むシーンがとても多いが、こういうシーンなんかは基本的に落とすべきところである(それとも主人公がコーヒー好きであることをアピールしたかったのだろうか)。何度も何度も出て来てうっとうしいだけだ。それからタバコを吸うシーンもやけに多い。スポンサーはタバコメーカーだったのか?と突っ込みたくなるぐらい。見ているだけで煙たくなる。
 唯一良かったのが坂田晃一の音楽で、テーマ曲は心に染み入る。さすが坂田晃一!(竹林軒出張所『さよならの夏 〜それはルフラン 頭の中で響くの〜』参照) ただドラマの内容が内容だけに、音楽にもだんだん安っぽいイメージが付きまとうようになってしまった。毎回最後に流される「22才の別れ」も、最初の方はなかなか味わいがあるように感じていたが、だんだん安っぽく感じるようになってきた。

 ちょっと内容について紹介を。
 タイトルに出てくる「悲別」というのは、北海道の架空の地名でカナシベツと読ませる。悲別の高校を卒業し、東京に出たリュウという若者が主人公。東京では、ショーパブに勤めながら、ダンサーを目指して活動している(余談だが、このクラブ、オーナーはオネエ系の人で、働いているのは美青年ばかり。ジャニーズ事務所を意識してるんだろうかと思わせる)。このリュウが、あるダンス・オーディションで、かつての(北海道時代の)同級生のゆかりとばったり会って、愛が生まれるという話である。しかもこのゆかり、実は「愛人バンク」に勤めていて、官僚の収賄にも一役買っていたというわけのわからない展開になっていく。どの登場人物も大体愛称で呼ばれているんだが(「駅長」とか「与作」とか)、このゆかりはなんと「おっぱい」と呼ばれている。恥ずかしすぎ。
 キャストの演技も、(当時の)新人が多かったせいかどれもあまりパッとせず、目を引いたのは大滝秀治くらいか。ベテラン、千秋実の演技は残念ながら悲しくなるほどである。天宮良、布施博、斉藤慶子はこれがほぼデビュー作。他にも松村雄基、豊原功補がちょい役で出ていた。まだ売れる前のようである。
 その他面白かったのは、第10回だったか、セリフの中で山田太一のドラマについて語られるシーンがあったこと。ゆかりが、山田太一の『想い出づくり。』について共感を覚えたことを話すんだが、そのときリュウが「裏番組を見ていたからこのドラマは見ていない」と語る。そういうシーンなんだが、その裏番組ってのが、実は何を隠そう倉本聰の『北の国から』なんだな(もちろん番組ではそこまで触れられない)。ちょっとカメオみたいな楽屋落ちであった。こういう(展開上無用な)会話が結構多いと言うのも、このドラマの密度の薄さを物語っていると言える。
 もう一つ、終わりの方に黒澤明の『生きる』が上映されるシーンがある。映画館ロマン座のオーナー(千秋実)の葬式での回想シーンに出てくるんだが、葬式での回想といったら『生きる』で延々と流される専売特許のようなシーンで、このあたり双方シンクロしている。またイスに一人座って感動している(その後死亡する)シーンも、『生きる』の志村喬のブランコのシーンとシンクロする。この辺の展開は『生きる』を意識した作りになっているんだろう。そもそもこのシーンの主役が千秋実だし(『生きる』にも出てます)。とは言っても、大して効果的とは言えないのが残念なところで、『生きる』にものすごく思い入れがある人以外、大した感慨を持たないんじゃないだろうか。ちょっとスベったシーンのようにも思える。
 なお、本作のDVDは出ていない。近々(2011年11月10日から)日本テレビ系のCS放送で再放送があるらしい(日テレプラス『昨日、悲別で』参照)。他にシナリオ本も出ている。僕も10年ほど前古本市場で100円で買った(未読)。古本屋であるにもかかわらず何冊もあったから関係者が大量に買わされていたものが出回ったのか、そこらあたりちょっと気になるところではある。
★★☆

追記:
 竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』にも書いたが、このドラマがDVD化されないのは、ドラマ中で使われた音楽の著作権料が高いせいらしい。なんともセコイ話だ。

参考:
竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』
竹林軒出張所『100年インタビュー 倉本聰(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『さよならの夏 〜それはルフラン 頭の中で響くの〜』
竹林軒出張所『駅 STATION(映画)』
竹林軒出張所『冬の華(映画)』
竹林軒出張所『うちのホンカン(ドラマ)』
竹林軒出張所『前略おふくろ様(1)〜(26)(ドラマ)』
竹林軒出張所『前略おふくろ様II(1)〜(24)(ドラマ)』
by chikurinken | 2011-11-08 07:55 | ドラマ
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