ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『コルトレーン ジャズの殉教者』(本)

『コルトレーン ジャズの殉教者』(本)_b0189364_7304427.jpgコルトレーン ジャズの殉教者
藤岡靖洋著
岩波新書

 ジャズの巨人、ジョン・コルトレーンの評伝。
 ジャズ関連のこの手の本は、割にありきたりなものが多く、確かに知らない情報は紹介されているが、結局それなりで、特に大した感慨もないというものが圧倒的に多い。だから図書館で借りてとばし読みして返すのにピッタリで、この本もそういう目的で借りた。だが、少し予想外だった……良い方にではあるが。
 コルトレーンと言えば、知る人ぞ知るジャズ界の巨星で、短い生涯の間にその演奏スタイルが大きく変わっていって、しかも死去後も後進の演奏家に大きな影響を及ぼしたというカリスマである。残された録音も、リリシズムあふれるものからアヴァンギャルドなものまで多岐に渡り、中には、『至上の愛』などのように、非常に深遠で哲学的と評されるものまである。僕も、よくは分からないなりに、コルトレーンのCDを買ったり借りたりしてiTunesに大量に入れているのだ。好きなものは何度も聞いているんだが、中には『アセンション』みたいな、今聴いてもわけがわからないものもある。僕にとっては「マイ・フェイバリット」ではあるが、どこか不可解な部分もあるというそういうアーティスト、それがコルトレーンである。
 さてこの本だが、何より優れているのは、いろいろな楽曲や録音の背景について、かなり突っ込んだ説明がされているという部分である。コルトレーンの生涯や録音楽曲について触れられている本は数多いが、ここまで突っ込んだ解説は今まで、少なくとも僕は読んだことがなかった。なんと言っても、哲学的と評されていたあの『至上の愛』が、コルトレーンが不倫を解消してさっぱりした境地でできたアルバムだったという話が驚きである。もちろん、これまであちこちで語られていたスピリチュアル(神的)な要素が含まれているのはもちろんだが、不倫の罪を懺悔するという意味合いがあったとはビックリ。高尚な(だと思っていた)ものが急に世俗的なものに早変わりしたようだが、ましかし芸術なんてものはしょせんはそういうレベルで作られるものなんだろう。他にも「バカイ」(アルバム『コルトレーン』に収録)や、「ソング・オブ・ジ・アンダーグラウンド・レイルロード」(アルバム『アフリカブラス』に収録)、「アラバマ」(アルバム『ライブ・アット・バードランド』に収録)などが黒人差別に対する心の叫びであることも初めて知った。コルトレーン自身が作ったオリジナル作品は、個人的な要素が強くわかりにくいものが多いが、そういったものにもわかりやすい解説があってなるほどと頷かされる。コルトレーン芸術の理解に大いに役に立つ。
『コルトレーン ジャズの殉教者』(本)_b0189364_7321285.jpg さらにコルトレーンが生きた当時のニューヨークのライブハウスについてもわかりやすい解説がある。コルトレーンを含め、当時の一流ジャズ・プレイヤーはこういったライブハウスに頻繁に出演している上、かれらのレコードにはこういったライブハウスでのライブ録音が多い。そのため、それぞれがアーティストにとってどういう位置づけだったか、どういう運営がされていたかなどは非常に興味深いところである。新書の薄い本ではあるが、目からウロコの面白い話が満載だった。なお著者は、呉服店経営のコルトレーン研究家ということだが、『The John Coltrane Reference』という本を共著しているほどの人で、コルトレーン研究の実績もあり、その筋では名を馳せているお方のようだ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『マイルスvsコルトレーン(本)』
(一般的なジャズ本の印象といったら大体こんな感じです)
竹林軒出張所『巨匠たちの青の時代 マイルス・デイビス(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『輸入CDはウラシマ状態』
竹林軒出張所『輸入DVDもプチ・ウラシマ』
竹林軒出張所『ジャズの輸入DVD続編』
by chikurinken | 2011-11-02 07:32 |
<< 『バーミヤンの少年』(ドキュメ... 『雁』(映画) >>