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竹林軒出張所

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『原子力戦争』(映画)

原子力戦争 Lost Love(1978年・ATG)
監督:黒木和雄
原作:田原総一朗
脚本:鴨井達比古
出演:原田芳雄、山口小夜子、風吹ジュン、佐藤慶、岡田英次、石山雄大、浜村純、戸浦六宏

『原子力戦争』(映画)_b0189364_133445100.jpg 田原総一朗原作のドキュメント・ノベル『原子力戦争』が原作の映画。製作はATGで、田原総一朗とATGの組み合わせと言えば、『あらかじめ失われた恋人たちよ』みたいなわけのわからないテイストの映画を連想するが、あにはからんや意外にこの映画はしっかりした具象的な作りだった。それもそのはず、監督は『祭りの準備』や『龍馬暗殺』の黒木和雄で、僕にはどちらかと言うと職人気質の監督というイメージがある。原田芳雄を起用したのも、この2作の流れだったのだろうかとも思う。
 で、序盤はしっかり作られていると思ってみていたんだが、だんだんあちこち細かい部分が破綻していき、トータルで見るとかなり雑な映画になってしまっている。編集に問題があるのか、元の脚本に問題があるのかはわからないが、カットのつながりがいい加減で、シーンがいきなりとんでもない場所に移ったりして、説明不足の感がつきまとう箇所が割合多い。しかも説明不足を感じるにもかかわらず、無駄で情緒的なカットも多い気がする。そのためにどうしても「雑」という印象になる。また、非常にうまい役者を使っていながら、やぼったい演技になっている箇所もあり、演出にも疑問を感じる。またシューマンの「子どもの情景」を変奏した音楽も、ドラマ展開にまったく合っていなかった。
 原発施設内で発生したと思われる事故に関係して、死者が次々に出るというストーリーで、原発事故を隠すために巨大な力によって葬り去られる「不都合な人間」という構図が描かれるが、意欲的なストーリーの割になんだかショボイ展開になってしまっている。もちろん終いの方はATGらしくなっているんだが、それでも喰いたりなさは残った。
 映画の中では、「イースタンエレクトリック(ウェスティングハウスを指しているんだろう)の加圧水型」とか「アメリカンエレクトリック(ゼネラルエレクトリックを指しているんだろう)の沸騰水型」とかそこそこ専門知識も披露されたりしているが、原子力をとりまくしくみの根本的な理解は足りないように思う。そのあたりも少しもの足りない。ただ78年に作られた映画であることを考えると、実はかなりすごいのかも知れない。ちなみにスリーマイル島の原発事故が起こったは79年で、アメリカ映画『チャイナ・シンドローム』が作られたのも79年である。
 途中、(おそらく)原発の敷地に主演の原田芳雄が入っていき、そのときに守衛に撮影を禁止されるというドキュメンタリー・タッチのカットもある(というよりこの部分は完全なドキュメンタリー!)。こういうのは緊迫感があって面白いが、フィクションの映画の一部として見た場合、映画全体の雰囲気をぶちこわす結果になる。良いのか悪いのかはにわかに判断できない。というのも、この映画自体ほとんど忘れ去られていたにもかかわらず、このシーンは結構話題になっていたのだな。この映画の代表的なシーンになってしまったようなのだ。随分忘れ去られていた映画だが、原田芳雄が亡くなったことと、3月に福島原発事故が起こったことで再び見直されることになった。そのせいか知らないが、近々初めてDVD化されるらしい。舞台になっているのも、どうも福島原発のようだ(詳細は映画にもタイトルバックにも一切出ないのでわからなかった)。
 原発周辺のトピックなどいろいろ見所もあるが、映画としては取るに足りない作品になってしまったという印象が残った。ちなみに原田芳雄は、この後製作された原発映画『生きてるうちが花なのよ 死んだらそれまでよ党宣言』でも主演をはっている。また(おそらくまだ無名の)阿藤海(阿藤快)がちょい役で出ていた。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『原発を題材にした映画』
竹林軒出張所『生きてるうちが花なのよ 死んだらそれまでよ党宣言(映画)』
竹林軒出張所『チャイナ・シンドローム(映画)』
竹林軒出張所『シルクウッド(映画)』

by chikurinken | 2011-10-17 13:39 | 映画
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