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竹林軒出張所

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『日本テレビとCIA』(本)

b0189364_8543949.jpg日本テレビとCIA 発掘された「正力ファイル」
有馬哲夫著
新潮社

 正力松太郎が日本テレビを興したときの状況を、当時の政治状況を中心に描く。
 1953年、日本で最初の民間テレビ局として開局した日本テレビであるが、その出自はいわく付きである。アメリカの円借款を利用して日本にマイクロウェーブネットワークを敷設し、それを利用してテレビネットワークを作ろうと目論む正力。ジャパンロビーと呼ばれるアメリカの親日派やアメリカの政治家、当時の首相の吉田茂をはじめとする日本の政治家たちをあるいは利用し、あるいは利用され、1000万ドルの円借款を引き出そうと奔走する。一方でこれを阻止する勢力もある。日本全国にネットワークを敷設するのは(こういったわけのわからない)1民間企業ではなく公共企業がやるべきだという考えがあり(これがそれまでの既定路線であった)、それを電電公社に担当させるべきという人々もいて、かれらは正力の目論見をつぶしにかかる。さらに、日本の政治状況がこの関係をややこしくする。吉田茂を追い落として政権を取ろうとする鳩山一郎一派も正力の構想に加担し、正力を利用しようとする。アメリカ政府としては、反共産主義のプロパガンダ放送や反共軍事ネットワークとしてマイクロウェーブネットワークを必要としており、それに正力の構想を利用しようとする。できたばかりのCIAも正力を利用すべく奔走する。
 このように当時に日米の政界、財界の思惑が複雑に絡んで生まれたのが日本テレビ放送網である。この点でも日本テレビの特異性がうかがわれるというもの。さて結局、正力は円借款を受けられず、マイクロウェーブネットワーク構想は頓挫することになった。日本にネットワークを敷設するという計画は、それ相応の円借款の下、最終的には電電公社が担当することになった。結局正力はこの構想で馬鹿を見ることになるが、そこはやはり蛇の道は蛇、ただで煮え湯を飲まされるなどということはないわけで、正力に対して政界に打って出るための便宜が図られることになる。で、その結果、原子力発電を日本に導入するための旗振り役を務めることになり、それを利用して1955年の衆院選で当選することになる。そのあたりの事情は本書でわかりやすく紹介されているので、少し長いが引用する。

第12章「電電公社の逆襲」より(本書269ページ)
 とはいうものの、大した政治的キャリアもなく派閥もない彼が首相を目指すには、彼に求心力を持たせるような大きな政治目標が必要になる。
 それが日本への原子力発電導入だった。原子力の永遠のエネルギーを導入することの意義は資源小国の日本にとって計り知れないほど大きい。
 また、偶然にも、ホールステッドの大学時代の親友ヴァーノン・ウェルシュが世界初の原子力潜水艦ノーチラスを建造したジェネラル・ダイナミックス社の副社長になっていた。アジアに原子力発電所を売りたがっていたウェルシュは、正力がアプローチするまでもなく、自分のほうから売り込みをかけていた。
 (中略)
 こうして正力は1955年に原発導入と保守大合同を公約に掲げて富山二区から衆院選に出馬し、苦戦の末に当選を果たした。めでたく当選したあとは、当選1回にもかかわらず、約束通り北海道開発庁長官として大臣になり、新設の原子力委員会の委員長になりさらにこれも新設の科学技術庁長官となる。あとは知られているように讀賣新聞と日本テレビを動員して、原子力に強いアレルギーを持つ日本の世論を転換して原子力発電導入へと導いていく。そして、「原子力の父」の称号を得る。

 日本の原子力なんて所詮、1人の野心家の欲望の所産に過ぎないというのがよくわかる。
 本書は内容が濃密で面白かったが、なんせ登場人物が非常に多く、途中でわけがわからなくなる。巻頭に「主な登場人物」が一覧で紹介されていてしかも巻末に「人名索引」まであって親切ではあるが、それでも相当混乱した。そのために読み終わるのに随分時間がかかった。とはいうものの、当時の政財界の事情がとてもよくわかり、特にジャパンロビーと呼ばれる親日家たちについては、ほとんど知らなかったこともあり大変興味を持った。なんでもかれらは太平洋戦争(つまり日米戦争)の回避にも相当尽力したようで、戦後処理に際してもあれこれ画策して、マッカーサーが進める強硬路線を現実路線に転換させる(いわゆる「逆コース」)などということもやっている。日本の復興に力を貸していることは疑いない。ジャパンロビーなどと言われると、利己主義で日本を利用する人々みたいに思いがちだが、必ずしも日本にとってマイナスとばかりも言えないというのがわかる。ジャパンロビーの一員、ジョゼフ・グルー(本書にも登場)について扱った本も最近出版された(『グルー―真の日本の友』)ようで、ちょっと興味があるところ。一方で正力松太郎については、他人を平気で裏切り、自分の野望のためなら何でもする野心家という印象で、あまり良い印象は受けなかった。そのあたり今の日本テレビの性格と共通するような印象もあり、創立者の性格というのは企業にも伝搬するものなのかとあらためて恐れ入った次第。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『戦後70年 ニッポンの肖像 (1) 高度成長(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『日本の熱い日々 謀殺・下山事件(映画)』

by chikurinken | 2011-09-08 08:56 |
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