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竹林軒出張所

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『ルードウィヒ・B』(本)

『ルードウィヒ・B』(本)_b0189364_8424581.jpgルードウィヒ・B
手塚治虫著
潮出版社

 手塚治虫のマンガで、遺作である。そのため未完である。題材はベートーヴェンであるが、絶筆時点(約500ページ)で月光ソナタが登場してくることを考えると、おそらくこの3〜4倍くらいは予定していたんではないかと思われる。
 主人公のルードウィヒは当然ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンで、絶筆時点でも10代である、おそらく(確認できる範囲では16歳)。三頭身でちょこまか動き回り、『三つ目がとおる』の写楽保介を思わせる。フィクションを織り交ぜた独自のストーリーで、途中アソビのコマも多く、そこはやはり少年マンガという位置づけなのだろう。
 ベートーヴェン自体が「マイ・フェイバリット」なこともあり、正直こういった扱いはあまり嬉しくないんだが(ロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』も同様)、それでもマンガとしては良くできていると思う。絵もよく動き、躍動感もある。さすがにマンガの神様。そういう意味でも教科書的なマンガ(手塚自身が自身のマンガについてこう形容していた)と言える。ストーリーの作りも破綻はなく、展開が非常に自然である。ただし、史実はストーリーにあわせて適当に曲げて描かれている。
 非常に個人的な考え方ではあるが、手塚マンガは、こういった伝記物よりも完全オリジナルの方が良いように思う。そういったわけで、個人的には晩年のものよりも70年代のものが好みである。そうは言っても、どの作品もハズレがなく、それなりの高い水準を保っているのは流石である。本作も同様で、手塚治虫のベスト作品とは言えないにしても、良い作品に仕上がっていると思う。もっとも、こういう物言いは「神様」に対してちょっと失礼かな……とも思うが。
★★★
by chikurinken | 2011-09-01 08:43 |
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