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竹林軒出張所

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『原発を終わらせる』(本)

『原発を終わらせる』(本)_b0189364_8195927.jpg原発を終わらせる
石橋克彦編
岩波新書

 岩波新書から出た現時点での原発問題の集大成と言ってもいい論文集。
 「福島第一原発事故」、「原発の何が問題か -- 科学・技術的側面から」、「原発の何が問題か -- 社会的側面から」、「原発をどう終わらせるか」の4部構成で、執筆陣は、石橋克彦(竹林軒出張所『大地動乱の時代 地震学者は警告する(本)』参照)、田中三彦、後藤政志(竹林軒出張所『アメリカから見た福島原発事故(ドキュメンタリー)』参照)、鎌田遵、上澤千尋、井野博満(竹林軒出張所『福島原発事故はなぜ起きたか(本)』参照)、今中哲二、吉岡斉(竹林軒出張所『原発と日本の未来 原子力は温暖化対策の切り札か(本)』参照)、伊藤久雄、田窪雅文、飯田哲也、清水修二、諸富徹、山口幸夫の14人。さながら原発問題のオールジャパンといったラインナップである。
 最初の節(田中三彦著)では、福島原発事故の際、冷却材喪失以前に配管の破断事故が起こっていたのではないかという説が展開される。専門的な略語が飛びかうのでわかりやすいとは言えない(正直わかりにくい)が、それでも内容は斬新で面白い。サッカーにたとえるなら、パスワークは冴え渡るがゴールの臭いがしないというような立ち上がりである。その後、後藤政志、上澤千尋による原発の構造の話でやっとボールが落ち着いたというイメージで、さらにその後、井野博満(金属材料学)による玄海原発1号炉の破断の可能性が、科学的論拠を交えて(わかりやすく)説明される。これは、「ロベカルの超ロングシュート」並みのものすごいインパクトで、非常に寒気のする話であった。石橋克彦による地震学から見た日本の原発の危険性の指摘もインパクトがあり、どちらかというと渋いゴールという趣である。吉岡斉、伊藤久雄の行政面からみた原発の現状も非常に興味深い。個人的には現在もっとも関心のある領域で、この2人の論は、強力なボランチを思わせるような心強さを感じた。諸富徹が主張する、今後のエネルギー政策転換の論も示唆に富んでいる。中には(バイエルンミュンヘンに移籍した)宇佐美のビッグマウスのような論もあるが、全体を通じ多岐に渡って論が展開されており、しかもどれも専門的な知識に裏打ちされていて説得力がある。ただし、1冊の本として見た場合、全体としての統一感がいくぶん欠けている上、各論者ごとに内容が重複する箇所も多少ある。強いて言うならオールスターにありがちな不統一感で、さながらジーコ・ジャパンみたいな感じだろうか。とは言え、強力なストライカー、アイデアにあふれた中盤、堅実な守備を備えた、「岩波ジャパン」とも言うべき魅力的な代表チームで、W杯(原発全廃)も狙えるような超豪華布陣である。ある程度原発の知識がある人にお奨め。
(ご存知でしょうがサッカーの本ではありません。)
★★★★

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 面白い記述が多かったので、今回も一部抜粋させていただく。

 そもそも、たかが発電施設にすぎないのに、非常な危険を内包する原発を大津波のおそれがある場所で運転しようとするのは、正気の沙汰ではない。これに関連しては、15メートルの津波を想定すべきだったとする日本社会の東電批判が、そういう想定のもとで原発を動かせというのであれば、技術過信に毒された迷妄だといえる。そんな場所からは撤退すべきなのだ。(中略)
 日本列島の原発は「地震付き原発」という特殊な原発なのである。危険性を制御しきれない「地震付き原発」は、生命と地球の安全と清浄のために、存在すべきではない。つまり、地震列島・日本における安全な原発とは、それが無いことである。(石橋克彦)

 この時点で格納容器ベントに失敗し、格納容器が圧力で爆発していたら、事態ははるかに厳しい状態になっていた。一号機が壊滅すると、放射能が強すぎて二号機、三号機にも近づけなくなり、二機ともやがて炉心溶融から格納容器破壊にいたり、さらに四号機を含む四機すべての使用済燃料が冷却不能になることまではほぼ一本道である。そもそも格納容器は設計上、炉心溶融に耐えるようになっていないからである。そうなれば、おそらくチェルノブイリ事故よりはるかに大規模な汚染になったと推測される。(後藤政志)

 ひとたびそれ(注:国家計画)に組み入れられれば、民間企業である電力会社やその傘下の公益法人・株式会社(日本原子力発電、日本原燃など)の事業もまた、国家計画の一部となり、官民一体となって推進すべき事業とされてきた。その場合、民間企業がみずからの判断で事業を中止したり凍結したりすることは困難であった。民間事業が国策協力という形で進められる以上、それに関する経営責任を民間業者が負わねばならぬ理由はなく、損失やリスクは基本的に政府が肩代わりすべきだという考え方が、原子力関係者の間での暗黙の合意であったとみられる。それが民間業者の継続的な関与を可能にしてきたが、無責任な経営体質の温床ともなってきた。(中略)
 原子力発電事業は、経済的に重大な問題をかかえている。また安定供給という観点からも事故・事件・災害に対する脆弱性という重大な弱点をかかえている。さらに大事故を起こせば世界最大級の電力会社でも支払えないほどの巨額の損失を発生させる。そのような事業について政府が拡大計画を推進し、それと抱き合わせで手厚い優遇政策を講ずることは、国民利益の観点から妥当ではない。民間事業を束縛する国家計画そのものを廃止し、また原子力事業に対するあらゆる優遇政策を廃止することが必要である。さらに「国策民営」体制を可能としてきた電気事業の発送電一体の全国割拠体制を解体する必要がある。(吉岡斉)
by chikurinken | 2011-08-27 08:23 |
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