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竹林軒出張所

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『チェルノブイリの真相 ある科学者の告白』(ドキュメンタリー)

ドキュメンタリードラマ チェルノブイリの真相 〜ある科学者の告白〜
(2006年・英BBC/米Discovery Channel/独ProSieben)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー <シリーズ 飽くなき真実の追求>

『チェルノブイリの真相 ある科学者の告白』(ドキュメンタリー)_b0189364_12262016.jpg チェルノブイリ事故の後、事故調査委員会の委員として活動し、報告書をまとめたワレリー・レガソフ(当時クルチャトフ研究所副所長)を語り部として登場させるチェルノブイリ事故再現ドラマ。
 話は、事故発生直前のコントロールルームから始まる。副所長が出力を上げろと命令し(上から出力調整実験の命令を受けていたらしい)、しぶしぶながらもこれに応じる技術者。出力はどんどん上昇し、危機を感じた技術者が制御棒を入れようとするも、これが動作せず、やがて大爆発が発生する。副所長や所長は事実を隠蔽しようとするが、一方で技術者たちはみずからの命を顧みず、原子炉付近まで乗り込んでいき冷却バルブを手動で開こうとする(そのとき相当量の放射線を浴び、その後かれらは放射線障害で死ぬことになる)。
 やがて、状況が予想を遙かに上回っていることが判明するが、それでも上層部は隠蔽を画策する。そのことも手伝い、周辺住民の放射能被曝についても対策がとられないままことが進む。一方で政府側も対策に乗り出し、(語り部の)レガソフも対策室のメンバーとして急遽チェルノブイリに派遣されることになる。進行中の事故に対してさまざまな対策を試みるも結果は芳しくなく、その間も作業員の被曝量は増加していく。だが、このまま推移すると、メルトダウンした燃料が、発電施設下部に溜まった大量の汚染水に接触し水素爆発を起こす可能性が高い。水素爆発が起きると、取り返しの付かない大惨事になる(ドラマの中でレガソフが言っていた。なんでもキエフの半分が焼け野原になると……)。そのため、決死隊を募り、この汚染水の中に潜って手作業でバルブを開け、水を抜くことになった。結局この対策は成功し、水素爆発は未然に防がれることになる。火災事故もやがて鎮火しある程度収束のめどが立ってくるのだった。
 その後、レガソフは、事故調査を行い、事故の原因が(世間で言われているような)技術者のミスではなく、設計上の問題(制御棒の問題)であることに気付く。そのことを公表すべく準備していたが、政治家から横やりが入り、結局技術者のミスということにされてしまう。
 そして事故発生から2年後、レガソフは自らの命を絶った。というところでこのドラマが終わる。
 全編迫真の展開で、当事者の絶望感まで伝わってくる、よくできたドラマであった。ただし出演者が発する言語は、ロシア語ではなくすべて英語である(BBC製作のためだろう)。一部、当時のニュース映像も織り交ぜているが、ドラマ映像との違いは見ていて気付きにくい。そのくらい、ドラマ部分を非常にうまく演出している。骨太のドキュメンタリードラマではあるが、エンタテイメント(サスペンス)の要素もあって、見ていてまったく飽きない。チェルノブイリ事故についてもよく説明されている上、官僚機構に特有の事なかれ主義の弊害も告発されている。
 NHKも、つまらないドラマばかりではなく、こういった優れたドキュメンタリーも是非とも地上波で放映していただきたいものである。いずれは福島原発事故の再現ドラマみたいなものも(NHKによって)作られるのかも知れないが、このドキュメンタリーくらいの高いレベルを達成してほしいところだ。
★★★★
by chikurinken | 2011-08-13 12:26 | ドキュメンタリー
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