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竹林軒出張所

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『福島原発の真実』(本)

『福島原発の真実』(本)_b0189364_816850.jpg福島原発の真実
佐藤栄佐久著
平凡社

 かつて福島県知事だった著者による、福島県と国・東電との攻防史。それぞれの事件は当時世間を賑わせたはずなのだが、恥ずかしながらまったく記憶になかった。ちなみに本書は、福島原発事故の後に書かれたもの。原発事故前に書かれた『知事抹殺』という本もある。
 著者は、1988年から5期続けて福島県知事を務めていたが、その最中、福島原発の原子炉に異物が混入するという前代未聞の事故を巡って東京電力と対立することになる。その過程で東電や国の対応に失望した結果、県独自で原子力対策の部局を設けて研究を進める。こうして福島県は原子力政策に対して独自のアプローチで理解を深めていくことになる。そのためもあって、その間に持ち上がっていた福島原発へのプルサーマル(プルトニウムを通常の原子炉で燃やすという方式)導入に異を唱えることになる。県民の安全が保証されない限りプルサーマルを受け入れることはできないという理屈である。
 どうしてもプルサーマルを推進したい(ひいては原発で生みだされるプルトニウムをなんとか処理したい)国と原子力産業は、福島県や知事に圧力をかけたり好条件を持ち出して懐柔したりとあの手この手を繰り出すが、その間もデータ改竄の事実の隠蔽や、原発内のトラブルなどさまざまな問題が持ち上がり、県側は逆に態度を硬化させていく。こうしてプルサーマルの実現は延び延びになるのだが、そうこうしているうちに知事の汚職疑惑が持ち上がり、やがて起訴、辞任、有罪判決となり、福島県の抵抗は押しつぶされてしまう。結局、その後任知事がプルサーマルにゴーサインを出し、福島第一原発3号炉にプルトニウムを含むMOX燃料が装填された。そして先日の事故で、このプルトニウムが周辺に放出されたというわけである。
 本書では、知事と国・東電との攻防の他、その背景となるさまざまなデータ改竄、トラブル隠蔽の事実なども紹介され、知事の当事者の視点から国の原子力行政の問題点(というかデタラメさ)があぶり出されている。また、知事自身の逮捕の過程も詳しく書かれており、これが完全に冤罪であるとも主張されている。ちなみにこの汚職事件を担当した検事は、障害者郵便制度悪用事件(いわゆる村木事件)でフロッピーデータを改竄して事件をでっちあげた結果、自身が実刑判決を承けた前田恒彦である。著者によると、この知事汚職事件の立件で味をしめて、村木事件も同じ手法で立件したのではないかと言うことである。知事汚職事件については現在最高裁に上告中であるが、二審では、執行猶予付きの有罪判決ではありながら異例の追徴金なしという判決が出されている(通常汚職事件では収賄額に基づいて追徴金が課されるため、弁護団は「事実上の無罪」と言っているという)。
 国との攻防や事件の過程が詳細に書かれているが、それぞれの事件についてよく知らなかったこともあって、理解しにくい箇所もあった。また推敲が少し足りないと思われる箇所もある。そういうこともあって読むのには少し時間がかかった。しかし「原子力村」と呼ばれる勢力が地方行政のレベルでどのように暗躍し活動しているかよく知ることができるし、冤罪の構図なども窺えて非常に興味深い。
 著者は、原子力行政を押し進める官僚に諸悪の根源があり、政治におけるリーダーシップの不在がその原因だと考えているようで、今の菅首相のリーダーシップ(浜岡原発停止などの件)に期待していると言う。でも原因を官僚の問題だけに押し込むのは必ずしも的を射ていないような気もする。要するに電力会社を甘く見ない方が良いんじゃないかということ。別ルートの情報では、改革派の経産官僚が東電につぶされて失脚した(財界を味方に付けている場合は政治力を発揮できるがそうでないときは脆いらしい)という話も聞く(Newsポストセブン『経産官僚「上層部は原発再稼働を優先課題にしている」と証言』参照)。政財官が三位一体となって目的に向かってばく進したために誰もそれを止められなくなった、つまり「暴走」状態だったんではないかと思うんだ、個人的には。やはり著者が主張するように、強力なリーダーシップか、あるいは外圧(日本人は外圧に弱いからね)でもなければこの暴走を止められないような気もする。
★★★☆
by chikurinken | 2011-07-26 08:16 |
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