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竹林軒出張所

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『コクリコ坂から』(映画)

コクリコ坂から(2011年・スタジオジブリ)
監督:宮崎吾朗
原作:高橋千鶴、佐山哲郎
脚本:宮崎駿、丹羽圭子
出演:長澤まさみ、岡田准一、竹下景子、石田ゆり子、柊瑠美、風吹ジュン、香川照之

『コクリコ坂から』(映画)_b0189364_14365920.jpg 久々のロードショー! といっても別段見たかった映画というわけではなく、時間つぶしで見たのだった。でもしっかり身銭を切ったことだし言いたいことは言わせてもらおうと思う。
 ジブリの映画らしく、背景の美術やキャラクターの動きなどは秀逸で、文句の付けようがない。背景の美術は、背景で終わらせてしまうのがもったいないような詩的なものもある。書き割りだからといって侮れないのだ、全然。
 また音楽もなかなか良い。最初のタイトルバックで『さよならの夏』という主題歌のタイトルが紹介されていたため、もしかして森山良子の『さよならの夏』のリバイバルかと思ったが、まさにそうだった。映画の最後の最後に流され、非常に良い味を出していた。この歌は元々、70年代に放送された同タイトルのドラマの主題歌で、個人的に非常に好きな歌だったんだが、これを手嶌葵が歌っている(ジブリは手嶌葵がお好きなようで『ゲド戦記』に続いて参加)。手嶌葵の歌は、森山良子のように日本語を丁寧に語るようなものではなく、ところどころ空気が抜けるような歌い方で、詞の内容がわかりにくい箇所もあって100%は支持できないが、それなりに独特の色が出ていて悪くない。
 これだけ良い材料が揃っていればさぞかし素晴らしい映画になるかと思えばさにあらず。なんだかボヤンとした映画で、もの足りない印象が最後まで続く。そもそも、根本的になぜこういった(低い)レベルの話を、これだけ手をかけてアニメ化しなければならないのかという疑問がずっとつきまとうのである。『コクリコ坂から』(映画)_b0189364_14562235.jpg原作は少女マンガということだが、内容があまりに陳腐で、正直見ていてこけそうであった。互いに恋する少年と少女が、実は血がつながっていたとか言われると、もう結構ですと言いたくなる。この間見た映画(竹林軒出張所『夜のピクニック(映画)』参照)でも同じような設定があったし、『赤い疑惑』の頃からさんざん使いまわされているネタである。そういう安っぽい設定を別にしても、話自体、実に食い足りないストーリーである。どうしてこういうチープな話を宮崎駿が原作としてピックアップしたのか、そのあたりが不思議で、あの人のセンスを疑いたくなる。『耳をすませば』や『おもひでぽろぽろ』で懲りてないのかとツッコミを入れたくもなる。オリジナル作品だと割に水準が高いのに、ホントに不思議だ。
 それからもう一つ、ジブリの映画では、声の担当に声優を使わないで、人気のある俳優を使う傾向がある。保険のつもりなのかもしれない(ファンの集客が見込めるからね)が、今回の映画なんか、主役級がことごとく役者である。正直言ってどの役者も声優としてはまったくなっておらず、声がしっかり出ていないために何を言っているかわからない箇所も多い。また、どの声もハリがなく魅力に乏しい。唯一の例外が主人公の長澤まさみで、こういうことを考えあわせると「長澤まさみって器用だナー」と思う。このあたりも『となりのトトロ』の糸井重里の例や『おもひでぽろぽろ』(あれはひどかった!)なんかで学習してないのだろうかと思う。
 とは言え、音楽(主題歌以外のものも含む)もなかなか面白く、映像が美しくかつノスタルジックなので、見ている分にはなかなか心地良い映画ではあった。劇場で見るのに適していると言える。
★★★

参考:
『コクリコ坂から』公式サイト
竹林軒出張所『さよならの夏 〜それはルフラン 頭の中で響くの〜』
竹林軒出張所『ゲド戦記(映画)』
竹林軒出張所『夢と狂気の王国(映画)』
竹林軒出張所『君の名は。(映画)』

by chikurinken | 2011-07-19 14:37 | 映画
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