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竹林軒出張所

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『単騎、千里を走る。』(映画)

もう一本、『中国10億人の日本映画熱愛史』関連。

単騎、千里を走る。(2005年・中、日)
監督:チャン・イーモウ
脚本:ヅォウ・ジンジー
出演:高倉健、リー・ジャーミン、チュー・リン、チアン・ウェン、ヤン・ジェンボー、寺島しのぶ

『単騎、千里を走る。』(映画)_b0189364_8522266.jpg チャン・イーモウと高倉健がコラボした映画だけに良い映画になってほしかったが、残念ながら「もう一つ」のもの足りない映画になりさがっていた。
 なんと言ってもストーリーがつまらない。動機付けが弱いため、主人公が困難に立ち向かうことに対する説得力がなく、結果的にリアリティが著しく欠如してしまった。脚本段階の失敗である。
 主人公が日本から中国に渡るという展開であるため、日本パート(全体の20%)と中国パートに別れているが、特に日本の部分の演出がステレオタイプでつまらなかった。この部分は『駅 STATION』『鉄道員』の降旗康男が演出したらしいが、まったくもってもの足りない。日本パートの日本語のセリフも不自然でクサイ。中国パートになると、とたんに画面が活き活きしてくるのは、両監督の力量の差か。もちろん立場の違いもあるだろう。他人の映画ということで降旗康男も力が発揮できなかったのかも知れない。
 チャン・イーモウ監督作品らしく、素人のキャストを多数起用していて、中には本名で登場しているキャストもいる。日本人の僕にとっては、どのキャストもすごく自然な演技に見えるが、原語を理解できる人(つまり中国人)にとってどうなのかはよくわからない(あるいはとてつもなく棒読みセリフなのかも知れない)。チャン・イーモウの映画の一番の良さというのは、素人俳優に代表されるこういった素朴さだと思うが、そもそも高倉健を起用したこと自体、そのあたりと矛盾していたのかも知れない。とは言え、中国パートの演出は決して悪くなかったと思う。
 ドラマの背景として登場する雲南省の景観は、珍しさや奇抜さは伝わってきたが、美しさを感じる映像にはなっていなかった。このあたりも少々残念な点である。途中から『あの子を探して』になったのはご愛敬。
 中国パートを含め、高倉健の演技がいかにも「高倉健」風で、そのあたり監督の思い入れも感じられる。共演の寺島しのぶも藤純子の娘であることを考えると、その辺にも何か思い入れがあるのかなと思った。
 というわけで、本編自体はチャン・イーモウの良さも高倉健の良さも中途半端で、あまりどうということのない映画だったんだが、DVDの特典映像として付いていた『張芸謀、高倉健 心の旅』というタイトルのメイキング・ドキュメンタリーが非常に面白かったのだった。チャン・イーモウ監督の高倉健に対する思い入れが語られていたり、高倉健とスタッフ、キャストとの交流が描かれていたりして、和気藹々とした雰囲気や映画製作に対する熱気が伝わってくる。それになんと言っても監督の素人キャストに対する演出技法も垣間見られて大変興味深かった。『単騎、千里を走る。』がこの『心の旅』の予備的なエピソードだと思えば、DVDとしてはトータルでなかなかよくできていると言える。
★★★

参考:
竹林軒出張所『中国10億人の日本映画熱愛史(本)』
竹林軒出張所『証言 日中映画人交流(本)』
竹林軒出張所『健さん(映画)』
竹林軒出張所『至福のとき(映画)』
竹林軒出張所『駅 STATION(映画)』
竹林軒出張所『鉄道員(ぽっぽや)(映画)』

by chikurinken | 2011-06-09 08:53 | 映画
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