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竹林軒出張所

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『土の文明史』(本)

土の文明史 ローマ帝国、マヤ文明を滅ぼし、米国、中国を衰退させる土の話
デイビッド・モントゴメリー著、片岡夏実訳
築地書館

b0189364_1002331.jpg 内容は非常にすばらしい本だが翻訳が良くない。そのため読みづらくてしようがない。僕なんか、図書館で借りては返しを繰り返し、結局読み終わるのに都合半年くらいかかった。内容は割合平易なんだが、高校生の英文解釈みたいな日本語になっていて、「とんでもない訳」ではないがとにかく読みづらく、流れるように読むことができない。解読作業が伴うようでかなりきつかった。内容が大したことない本だったら間違いなく途中でやめていたことだろう。
 翻訳はともかく、その内容自体は大変示唆に富む充実したものだった。タイトルが示すとおり土壌から見た文明史で、ともすれば軽視される土壌が、人間の生活、ひいては文明にとってどれほど大きな意味を持っているかを説き起こす。
 著者によると、ローマ帝国をはじめとするさまざまな古代文明が、ことごとく土壌の疲弊や浸食が引き金となって崩壊している(崩壊の過程はゆっくりしているため因果関係が目に付きにくい)。また、近世の西ヨーロッパで土壌が疲弊したことが植民地主義の原因であった(特に土壌の劣化がひどかったのが、植民地開拓の先鞭を付けたスペインとポルトガルだったという)とか、フランス革命までが、土壌劣化で減少した農地を農民が支配階級から取り戻そうとすることが原動力になったとか、世界史上の重要な出来事の多くが土壌と結びついていることが示される。目からウロコの歴史観である。
 他にも土壌の性質や化学肥料発見の過程なども紹介され、土壌劣化・浸食がこれまでどのように進行してきたかやその現状なども具体的に示される。
 さらに、現在のアメリカ型の大規模機械化農業が土壌を破壊し尽くしていくことが主張され、労働力を集約した有機農業に回帰すべきことを訴える。われわれが子どもの頃は、教育の現場でもああいった大規模農業が憧れのように語られていたが、それとは正反対の主張である。こういった議論は、これまで農薬汚染や地下水の枯渇などの点から語られていたが、土壌浸食という観点でも大きな問題を抱えるものだということを今回初めて知った。ともかく、土壌は文明が所有する貴重な財産であるというのが著者の主張なのである。
 世界史、環境問題、食糧問題などに関心がある人には特に得るところが多いと思う。歴史や社会への見方が大きく変わる快著である。読みやすい翻訳であれば言うことがなかった。返す返すも残念。また著者名だが「モントゴメリー」じゃなくて「モンゴメリー」が正しい発音に近いんじゃないかと思うが如何。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『私は黄砂と闘う(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『土と内臓 微生物がつくる世界(本)』
by chikurinken | 2011-05-22 10:01 |
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