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竹林軒出張所

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『原発と日本の未来 原子力は温暖化対策の切り札か』(本)

原発と日本の未来 原子力は温暖化対策の切り札か
吉岡斉著
岩波ブックレット No.802

『原発と日本の未来 原子力は温暖化対策の切り札か』(本)_b0189364_10104496.jpg 原子力発電について経済面から分析すると同時に、日本における原子力政策の特質を明らかにする書。
 著者は科学技術が専門で、内閣府原子力委員会専門委員などを歴任した学者。現在九州大学の副学長という肩書きを持つそうだ。そういうこともあってか、ヒステリックに反原発を訴える書ではないと最初に断り書きがある。そういった信条や感情を抜きにして、原子力発電を客観的に分析した上で必要かどうか判断すべきだとする。
 そういう前提で検討した結果、原発はエネルギー効率も稼働効率も悪く、経済性という点でも他の発電システムと比べて大きなハンデがあり、電力市場が自由化されているような状況では決して導入されるような代物ではないという結論を出す。世界的に見ても原発の総数は現状維持か減少傾向にあり、世間で喧伝されている話(世界的に原発の見直しが進んでいるという話)は現状を正確に反映していないという。またCO2削減に効果があるという話についても疑問符を付けている。日本のこの20年間のCO2排出量を見ると、原発が増えているにもかかわらずCO2排出量も増えているという現状がある。本当に発電で排出されるCO2量を減らしたいのなら、原発を新たに作るのではなく、発電所で燃やす化石燃料の量を減らすしかないと断定する。
 ではなぜ、そういったダメダメづくしの原発が日本で推進されているかというと、すべては1955年に固まった国の原子力体制のためであるという。
「……日本の原子力政策の特徴は、国家安全保障の基盤維持のために先進的な核技術・核産業を国内に保持するという方針(これを「国家安全保障のための原子力」の公理と呼ぶ)を不動の政治的前提としている」(本書42ページ
 つまり、米国の核兵器開発にいつでも協力できるよう、国内に核技術を維持していくため、行政、立法、産業界、自治体を巻き込んで、原子力政策を展開する。そのために、国が「国策民営」という方法で、民間企業に原子力事業を展開させ、それを経済的に支援するという構図が作られたという。要するに、経済効率が悪い原発が次々に作られるのは国策ゆえであり、国の原子力政策に基づく経済的な補助があるから成り立つのであって、市場原理に基づくものではない。必要な電気を作り出すためというよりも、核兵器開発の技術を維持するために原発を作っているというのが本筋だというのが本書の主張である。したがって電力自由化と原発推進は完全に矛盾するものであって、そのためもあり今の日本では電力自由化は不可能ということになる。
 このように政策面、経済面から原発について論じており、僕にとっては非常に目新しい事実が紹介されていて、原発理解の上でとても役に立った。本書の問題は、文章が硬く読みづらい点で、翻訳ものかと感じるほどの硬い文章であった。とは言え、全体で60ページ程度のブックレットなので、読み終わるのもそれほど骨は折れない。原発について疑問を持つ人にお勧めの真摯な本で、この本で展開されている議論は原発論争の「切り札」になりそうな予感すらする。
★★★★
by chikurinken | 2011-04-27 10:11 |
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