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竹林軒出張所

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カルロス・クライバーのドキュメンタリー2本

カルロス・クライバー ロスト・トゥー・ワールド
(2011年・独)
監督:ゲオルク・ヴューボルト
出演:リッカルド・ムーティ、ワルフガング・サバリッシュ、ペーター・ヨナス、オットー・シェンク

カルロス・クライバーのドキュメンタリー2本_b0189364_10321161.jpg 伝説の指揮者、カルロス・クライバーの生涯を、周辺の人々のインタビューと指揮映像であぶり出すドキュメンタリー。
 インタビューで登場する人物は、一緒に仕事をした人々や友人で、親しかった指揮者リッカルド・ムーティや同僚だったワルフガング・サバリッシュも登場する。その他に、クライバーと共演したオーケストラのメンバーや歌手たちの言葉で、経年的にクライバーの足跡が紹介される。内容は『カルロス・クライバー ある天才指揮者の伝記 上・下』(『カルロス・クライバー ある天才指揮者の伝記 上(本)』『カルロス・クライバー ある天才指揮者の伝記 下(本)』を参照)とかなり重なる。この本の著者であるアレクサンダー・ヴェルナーもインタビューに登場するほどである。ただ、本と違う点は、映像がふんだんに紹介される点で、実際の指揮場面やオーケストラとの練習風景も随時登場して、人々の話の裏付けとして機能する。そのため、本よりも情報がストレートに伝わってくるが、これこそドキュメンタリー映像のメリットである。
 このドキュメンタリー映画で使われたクライバーの映像は、演奏会のものの他、南ドイツ放送交響楽団(現在のシュトゥットガルト放送交響楽団)との練習風景(『お仕事拝見』という番組で1970年11月と71年5月に南ドイツ放送で2回に渡って放送されたもの)で、ほとんどはDVDとして発売されている。ただし全編を通してたびたび出てくる『トリスタンとイゾルデ』の指揮映像(服装から推察すると練習か)と『ばらの騎士』のテレビ映像(オペラ公演のもの)は珍しいもので、今まで見たことがなかったもの(おそらく発売されていない)。クライバーの特徴がよく出た映像で、これを見られるだけでもめっけものである。
 他にも、妻のスタンカの写真と映像や、カルロスの父、エーリヒ・クライバーの映像なども出て来て、映像だけでもなかなか見物である。また編集も非常にうまくまとめられていて、カルロス・クライバーの生涯、つまり1人の天才の生き様をたどることができるようになっている。
★★★☆

目的地なきシュプール 指揮者 カルロス・クライバー
(2010年・襖)
監督:エリック・シュルツ
出演:プラシド・ドミンゴ、ブリギッテ・ファスベンダー、ヴェロニカ・クライバー、オットー・シェンク

カルロス・クライバーのドキュメンタリー2本_b0189364_10324734.jpg 上記の『ロスト・トゥー・ワールド』は先日NHK-BSで放送されたものだが、あわせて『目的地なきシュプール 〜指揮者 カルロス・クライバー〜』(原題:『Traces to Nowhere』)というドキュメンタリーも放送された。こちらも非常に似た内容で、インタビューと映像を通じてカルロス・クライバーの生涯と人となりをたどるというもの。インタビューに登場するのは、生前クライバーと親しかったプラシド・ドミンゴやブリギッテ・ファスベンダーの他、仕事仲間、オーケストラのメンバー、家族などである。オーボエ奏者のクラウス・ケーニヒという人も何度も登場し、クライバーの魅力を雄弁に語っている。ちなみにこの人は『ロスト・トゥー・ワールド』にも頻繁に登場している。姉、ヴェロニカ・クライバーのインタビューも興味深い。
 このドキュメンタリーでは、インタビュイー(インタビューされる人)にクライバーの練習映像(上記の南ドイツ放送交響楽団とのもの)を見せながら、それについてコメントを求めるということもやっており、このあたりが『ロスト・トゥー・ワールド』との大きな違いになっている。そういうこともあって件の練習映像が非常に多くなっていて、どちらかというと、カルロス・クライバーの人間面よりも芸術面に集中した構成になっている。そのあたりが『ロスト・トゥー・ワールド』との違いだが、正直この2本にあまり大きな違いは感じない。上巻・下巻としても通るほどである。インタビュイーの違いが一番大きいというのが率直な印象である。
 なおこちらのドキュメンタリーは、『カルロス・クライバー…無への足跡 エリック・シュルツによるドキュメンタリー・フィルム』というタイトルで近々DVDとして発売されるようだ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『カルロス・クライバー ある天才指揮者の伝記 上(本)』
竹林軒出張所『カルロス・クライバー ある天才指揮者の伝記 下(本)』
竹林軒出張所『伝説甦る……カルロス・クライバーの場合』
竹林軒出張所『カラヤン ザ・セカンド・ライフ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『アルゲリッチ 私こそ、音楽(映画)』
竹林軒出張所『イツァーク(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2011-04-14 10:34 | ドキュメンタリー
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