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竹林軒出張所

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『吉田牧場 牛と大地とチーズとの25年』(本)

吉田牧場 牛と大地とチーズとの25年
吉田全作著
ワニブックスPLUS新書

『吉田牧場 牛と大地とチーズとの25年』(本)_b0189364_203496.jpg 岡山県中部でチーズ工房、吉田牧場を営む吉田全作氏の自伝的エッセイ。
 吉田牧場は、良質のチーズを生産するフェルミエ(家族経営)工房で、知る人ぞ知る存在である。僕もかつて、NHKの昼の番組で紹介されているのを見たことがある。その番組では、イタリア人のパンツェッタ・ジローラモ氏が案内役として登場し、吉田牧場のモッツァレラ・チーズを、イタリアのものと変わらない(くらいうまい)と絶賛していたことを憶えている。ジローラモ氏によると、イタリアにおけるモッツァレラ・チーズは、日本の豆腐と同じようなもので、ローカルな味わいを持つ風土食品ということである。そのイタリアの風土食品が日本の、しかも岡山に存在するということが彼にとって驚きだったらしい。その後ジローラモ氏は別の番組でも吉田牧場のチーズについて触れていたのでよほど気に入ったんだろう。
 さて本書では、吉田全作氏が、いかにして脱サラ後牧場経営に走り、その後さらにチーズ作りに進んだか、その全貌がわかりやすい言葉で語られている。
 吉田氏は、若い頃事務職が嫌でしようがなかったときに、雑誌でフランスのチーズ作りの記事を見てそれに憧れたことがきっかけで、ついに酪農の道に進むことになる。吉田氏は北大の畜産学科卒という経歴ではあるが、ほとんど授業に出ていなかったため、酪農の知識はゼロに近かったという。手探りで牛を飼い始めたは良いが、日本の農政の矛盾に直面し、ついに自分でチーズ作りを始めることに思い至る。最初は手探りで始めるが、なかなかうまくいかず、フランスのフェルミエに見学に行ったりして、ついに納得のいくチーズができるようになる。第3章までにこのあたりの事情が記述されている。第4章は、吉田牧場の経営を通して知り合うことになった人々のこと、第5章がチーズ生成の科学である。正直第4章はスノッブな人々がたくさん出てきてあまり好感は持てなかったし、第5章は内容がやや複雑で少し読みづらかった。ただ最終章の第6章は、吉田氏のフェルミエとしての矜持が示されていて、痛快な気分になる。というわけで、個人的には、第4章は不要、第5章はもう少し読みやすくした方が本としての完成度が高くなるのではないかと思った。
 とは言え、全体的に非常に読みやすく、なかなか楽しい本ではあった。
★★★☆
by chikurinken | 2011-04-07 20:34 |
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