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竹林軒出張所

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『一刀斎、最後の戯言』(本)

一刀斎、最後の戯言
森毅著、福井直秀編
平凡社

『一刀斎、最後の戯言』(本)_b0189364_10411632.jpg 「森毅、おもろいオッサンやった」と上から目線で言うのも何だが、森毅氏自身がそういうことを言いそうな人だったから許してもらえるだろう。
 元京大教授で、テレビのバラエティ番組にもよく出て、妙なことを言って受けていた森毅氏。昨年7月に亡くなったことで出版されたオマージュ本だと思うが、似たような本が他社からも同じタイミングで出ている(『森毅の置き土産 傑作選集』)。本人が生きていたら「もうちょっと工夫したらどお?」などと言いそうだ。
 森毅氏自身は、非常にユニークなものの考え方をする人で、それこそ死などとは縁のなさそうな仙人みたいなお方だった。僕なども京大に忍び込んで森センセイの授業を受けたりしたが、正直言って授業は著書ほど面白くなかった(ごめんなさい)。それでもサービス精神にあふれ、学生を楽しませようとする姿勢はうかがえた(これは本人が著書で何度も主張していることである)。余談であるが、他にも梅原猛(京大文学部)や河合隼雄(京大教育学部)の授業にも忍び込んでみたが、どちらも休講であった。どんだけ休講が多い大学なんだとも思ったが、かれらにはそもそもサービス精神が欠乏していたという見方もできる。
 閑話休題。本書は、そんな森センセイの数々の著書から、部分部分をテーマごとにピックアップしてまとめた本で、編者は森センセイの教え子で、死ぬ直前まで交流があった人である。ピックアップしているのが数行程度の「部分」ばかりであるため、どれも何となくアフォリズム(警句)みたいに響き、森センセイのユニークさ、発想の面白さは存分に伝わってくる。ただし、ごく一部ずつの抜粋であるためか、どれも印象は薄く、読み終わった後、さて内容はどんなだったかなと考えて何も思い出せないということもある(僕がそうなんだが)。森センセイの底辺に流れるのは「なんでも自由でなんでもいい加減にやった方が面白い」という発想だと思うんだが、もちろんこういうふうに要約してしまうこと自体、森センセイの主張に反することなのかも知れない。「もっとええ加減でええやろ」という声が聞こえてきそうである。そういう意味で、この本のようなまとめ方は、存外、森センセイの意志に沿うものではないかとも思う。
 なお、タイトルの「一刀斎」というのは、森センセイのニックネームで、長髪の妙な風貌からつけられたものだそうだ。
 そうそう、震災関連の記述があったので、記録しておく。

……ぼくは震災後の神戸で講演をしたときに思いきって言ってみた。
「こけたりせんほうがいいし、こけてすりむいたら痛いし、こけて死んだらかなわんけれど、生き残ったら、せめてなんぞ拾うて立ちあがりましょう」
 会場は大喝采。神戸の人々はいい感じで生きている。


★★★☆

参考:
竹林軒出張所『数学受験術指南(本)』
竹林軒出張所『まちがったっていいじゃないか(本)』
竹林軒出張所『森毅ベスト・エッセイ(本)』

by chikurinken | 2011-03-23 10:42 |
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