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竹林軒出張所

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『植物はヒトを操る』(本)

植物はヒトを操る
いとうせいこう、竹下大学著
毎日新聞社

『植物はヒトを操る』(本)_b0189364_8421389.jpg ジャンル分け、というか性質を特定するのが難しい本ではあるが、面白い本である。いとうせいこうと竹下大学の対談をそのまま本にしたものであるが、基本はいとうが竹下に話を聞くという構成である。竹下大学という人は、世界的に有名な育種家ということであるが、僕などはそもそも育種家というのがどういうものかすら知らない。そのあたりは本書のはじめの方で詳細に明かされるのだが、つまりは植物を交配させていろいろな形質を発現させるのが生業ということらしい。要は植物の専門家ということである。僕は常々言っているんだが、専門家やマニアの人が楽しく話すことがらというのは聞いていても面白いものである。したがって本書も、この竹下氏の話をうまく引き出せれば非常に面白いものができるわけで、そのあたりいとうせいこうの腕次第ということになる。で、実際いとうがうまく話を引き出していて、植物関連のこと限定であるが、内容は多岐に渡っており、歴史から生物学、自然人類学あたりまで広範囲に広がっている。いわば「植物の雑学」みたいな内容になっている。内容的には多少難しい部分もあるが、人の口から語られることがらであるためわかりやすい。また、各章ごとに内容を箇条書きでまとめたページがあり、そのあたりも親切。
 タイトルになっている「植物はヒトを操る」であるが、これは竹下氏のバックグラウンドになっている考え方らしい。育種家という職業柄、植物の性質を操作するわけだが、実際は人間の方が植物にうまく利用されているのではないかと感じることが多いと言う。植物は、生殖のため花の形や色などを変化させて進化している。遺伝子を残すという目的のために、蜂などの花粉媒介者を引き寄せるような形や色に進化したというわけだ。一方で、人に栽培されている花の場合、野生では存在しない色が出てくるという。また、そういう花が人によって大切にされ、結局その花が人の手で栽培されることになる。結果的にその花は、遺伝子を残すことに成功しているわけだ。つまり遺伝子を残すという目的のために、これまで昆虫向けに形質を変化させてきた植物が、人向けに形質を変化させているということで、昆虫だけでなく人までもうまいこと利用しているのではないかと感じるというのである。植物がどのように形質を変化させてきたかについても解説があり、「植物はヒトを操る」説に説得力を持たせている。
 先ほども言ったように、この本の内容は多岐に渡っているため、この「植物はヒトを操る」という話も、一つのテーマに過ぎない。この本は要するに、マニアの話をじっくり聞ける本であるということである。僕のような、植物について知識が乏しい人間でも楽しめる好著である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『欲望の植物誌 人をあやつる4つの植物(本)』
竹林軒出張所『植物はそこまで知っている(本)』

by chikurinken | 2010-09-28 08:42 |
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