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竹林軒出張所

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『敗走記』(本)

『敗走記』(本)_b0189364_8292266.jpg敗走記
水木しげる著
講談社文庫

 この頃、水木しげるのマンガやエッセイをよく読んでいたこともあり、少々食傷気味に感じていた。このブログで紹介したもの以外も読んでいたが、特に感じるところがなければここで扱うことはなかった。別々の作品の中に重複する部分がわりとあったりするので、多少飽き気味だったこともある。だが、以前図書館に予約していたものが最近になって手元に渡ってきたりして、せっかくだから読もうかということで、また何冊か読んでみることになった。
 この『敗走記』もそんな中の一冊で、(飽き気味だったこともあって)あまり気乗りしなかったのだが、読んでみて質の高さに驚いた。戦場での体験や直接聞いた話を基にした短編集で、著者は、これをきっかけに(貸本時代以来)再び戦記マンガを書くことになったというマイルストーン作品である。『総員玉砕せよ!』『コミック昭和史』もこの後に発表されたものである。
 本作は、6本の短編で構成されており、最初の1編「敗走記」が、水木しげるの実体験を基にしたもので、他の作品に何度も取り上げているエピソード(部隊が全滅して命からがら他の部隊まで逃げ延びた話)が出てくる(これがオリジナルのようだ)。他の作は、戦友や兄弟に聞いたものが中心で、ヒューマニズムとほのかなユーモアが漂うもの(「レーモン河畔」)、1人の軍人の勇敢で潔い男気を描いたもの(「幽霊艦長」)、戦場での矛盾や奇想天外さを一編の話に紡ぎ上げたもの(「KANDERE」)など、非常に多彩である。どれも質が高く、長編にリメイクしても十分魅力を持つような快作である。全編粒ぞろいであるため、非常に濃密さを感じた。お得な一冊である。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『コミック昭和史 第5巻、第6巻、第7巻、第8巻(本)』
竹林軒出張所『総員玉砕せよ!(本)』
竹林軒出張所『野火(映画)』
竹林軒出張所『俘虜記(本)』
竹林軒出張所『ゆきゆきて、神軍(映画)』
by chikurinken | 2010-09-15 22:28 |
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