僕が朝倉理恵という歌手を知ったのは数年前のことである。朝倉理恵は「あの場所から」という歌で1973年にビューしたアイドル歌手。もともとこの歌は「Kとブルンネン」というデュオが歌ったもので、その後、いろいろな歌手がカバーした。いちばん近いところでは柏原芳恵がカバーしたもので、それだってもう30年近く前ということになる。そのあたりの事情は、以前ホームページで書いたことがあるので興味がある方はそちらをどうぞ(
『シンシア版「妾の半生涯」』)。
彼女のCDアルバムは今はまったく売られておらず、かつて1枚発売された形跡があるが、今は化石化してプレミアが付いているようだ(
『ひとさし指』)。ところがこのほど、ソニーのオーダーメイドファクトリーで、朝倉理恵のベストアルバムが復刻されたのだ(もちろん僕も買いました)。ソニーのオーダーメイドファクトリーについては、このブログでもこれまで何度か書いているので、そちらを参照されたい(
『讃岐裕子、キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!』、
『ゆけゆけ裕子、どんとゆけ!』)。
『朝倉理恵 GOLDEN☆BEST limited』というタイトルのこのアルバムであるが、朝倉理恵のキャリアの中から広範に集めたようで、ラインアップも多岐に渡る。作家の先生方も、筒美京平、坂田晃一、いずみたく、浜圭介となかなかのビッグネームが並んでおり、聞き応えがある面白いCDに仕上がっている。このCDにはアニメソング(またはそれに準ずるもの)が意外に多く、確かにさわやかな歌声はアニメにピッタリである。ただ、朝倉理恵がアニソンを歌ったという情報は今まで耳にしたことがなかったので、少し意外な気もしたのである。ところがよくよく調べてみると、この方、かつては桜井妙子という名前で活動していたことがわかった。桜井妙子と言えば、あのテレビ版『アンデルセン物語』のオープニングテーマや『ふしぎなメルモ』のエンディングテーマを歌っている方である。特に『ふしぎなメルモ』の方(「幸わせをはこぶメルモ」という歌)は、以前この曲を数十年ぶりに聞いたときに、その歌唱にとても感心したほどで、そのとき「桜井妙子って何者?」と思っていたほどである。「あの場所から」を歌う朝倉理恵は少し拙いと思っていたのだが、「幸わせをはこぶメルモ」の方はただ者でない印象がある。この2人が同一人物だと知ったときの驚きはただ事ではなかった(というのはかなりオーバーだが)。
今回このベストアルバムでいろいろな曲を聴いたところ、歌唱力、表現力は相当なものだと見た。あの拙い歌い方もわざとだったのか(!)と思わせるものがある。実際(実力が如実に現れる)カバー曲もわりに多く、しかも良いものが多い。残念ながら今回のベスト盤にはカバー曲はほとんど入っていなかったが、かつて発表されたLPアルバムに数多く収録されており、そのうちのいくつかがYouTubeにアップされている。中でも「雨だれ」と「灰色の瞳」は出色であった(音だけ抜いてiTunesに入れたのは言うまでもない)。そういうわけで、これをきっかけに朝倉理恵の昔のアルバムが復刻されないかななどと考えているのである。ただ、オーダーメイドファクトリーでもなかなか票が集まらなかったところを見ると、売れるかどうかは定かではない。実際、オーダーメイドファクトリーでも、かつて『あの場所から』という朝倉理恵のアルバムの企画があったが規定枚数に足りないために復刻されなかったことがある。だからCDでなくてもいいからiTunesストアで発売してくれると、Macユーザーの僕は非常にうれしいのだ(ソニーのネットショップで一部ダウンロード販売されているようだがWindowsユーザー専用である)。だがそういう融通があまり利かないのも今の音楽業界。これもまた事実である……。
参考:
竹林軒出張所『朝倉理恵ファンに朗報! 「誰のために愛するか」が出た』竹林軒出張所『朝倉理恵ファンに重ねて朗報! 「あの場所から」が出た』竹林軒出張所『レコード大作戦』