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竹林軒出張所

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『たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する』(本)

b0189364_19174172.jpgたまたま 日常に潜む「偶然」を科学する
レナード・ムロディナウ著、田中三彦訳
ダイヤモンド社

 素敵な人やできごとに巡り会うと運命的なものを感じたりする。特に若い頃などはそうだった。さすがに今では、偶然の産物くらいにしか考えなくなったが、要は、物事を帰納的に捉えるか演繹的に捉えるかというそれだけの差に過ぎないのだろう。
 ものごとを帰納的に考えさまざまなものに必然性を感じると、成功者がやたら立派に見えるが、逆の見方をすれば、たまたま運良く時流に乗っただけだと感じられる。最近の「勝ち組」や「セレブ」などと呼ばれる人々を見ると、まったく人間的な裏付けがなく浅薄だったりして、本当に「たまたま」の人々なんだなと思うことが多い。したがって、こういう人達が得ている「たまたま」の収益は、累進課税を強化することで、たまたま不幸な境遇にあえいでいる人々に還元するのがヨロシイ……と僕は考えているのだ。
 で、この本なのだが、まさにそういう考えを裏付けるような内容の本で、ヒットした映画や本、成功した会社、活躍したスポーツ選手など、そういうものは偶然の産物であり、一般的に考えられているような必然性はあまりないということを数学的に説明するのである。だから内容については「激しく同意」である。一つの例として、現在傑作に数えられている数々の本が、発表される以前に、多くの出版社によってボツにされているという事例が挙げられている(「『ハリーポッター』の最初の原稿は九社にはねられた」(p.18))。そういう意味でも、現在不遇をかこっている人にとっては大変勇気が出る本である。ただし、一冊の本として考えるといくぶん問題があるのも確かである。
 最初この本を手に取ったとき、何の本だかよくわからなかった。で、実際読んでみて、やはり全体的に統一感に欠けているような印象が残った。強いてこの本を表現すれば、「偶然性(またはランダムネス)に関する数学的雑学」ということになる。面白いんだが、途中何を主張したいのかまったくわからなくなる。確率論をはじめとする数学の歴史や統計学をわかりやすく紹介しており、それはそれで非常に興味深いんだが、「すべては偶然」という(第1章に登場する)主張との関わりがよく掴めない。何となくあちこちをさまよっているような印象があって心許ないのである。著者の主張することは同意できるんだが、全体を流れる大きな柱みたいなものが(途中)感じられないので、なんとなく気分が悪いというか落ち着かない感じがずっと残る。
 記述については、専門的なことであっても、例を多用しながら説明しているため、わりとわかりやすいんだが、文章が「面倒」と言うか、とにかく読みづらい感じがずっと続く。あるいは翻訳のせいかもしれない(翻訳について言えば良いとは言えない)。誤植もわりに多い。ただ、情報の密度はかなり濃いと思う。
 先ほども言ったが、著者が本書で主張しようとしている理論は大変すばらしいものである。第1章と最終章でそれについて詳細に記述されているので、第1章と第10章を読めば、本書のエッセンスは味わえる。あとはオマケみたいなものだと思って雑学を楽しむようにすれば、この本を十分に味わい尽くせるのではないかと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『天才! 成功する人々の法則(本)』
竹林軒出張所『成功する人は偶然を味方にする(本)』

by chikurinken | 2010-05-13 19:18 |
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