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竹林軒出張所

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『裁判百年史ものがたり』(本)

b0189364_1710583.jpg裁判百年史ものがたり
夏樹静子著
文藝春秋

 今から20数年前に発表された本で『尊属殺人罪が消えた日』(現在品切れ)という本がある。大学生協の書店で平積みにされていたこの本を、ふと手に取った僕は、そのまま約2時間、最後まで読んでしまった。つまり立ち読みで完読したのであった。関係者の皆さん、申し訳ありません。ビンボー学生のしたことです、許してやってください。えー、この本は、日本の裁判史上初めて、違憲立法審査が行使されるきっかけとなった事件についてその経緯を物語風に書き進めた本で、非常に面白かった。なんと言っても冒頭のシーンから雨が降っていたりして、とてもドラマチックである。映画の一場面を見るかのような迫力があり、思わず引き込まれてそのまま最後まで読んでしまったというわけだ。
 さて、この事件であるが、実の父親が14歳の娘を犯し続けて、子供まで孕ませしかも生ませて、その後もこの奇怪な関係を十数年間継続していたという背景を持つ栃木の事件で、その後、将来を絶望した娘がこの鬼畜親爺を殺害したのである。あまりに非道な父親の所業に対する事件で、何とか被告人(つまり娘)の実刑を免れられないかと弁護士が奮闘するのだが、当時(1973年)の刑法には尊属殺人罪の規定があり、親殺しに対しては通常の殺人罪より重い刑が課せられることになっていた。そのため、尊属殺人(親殺し)と認定されれば、執行猶予を付けることができない。当時の刑法にはそういう矛盾があった。結果的に第一審は「刑免除(!)」、第二審は懲役3年6カ月(尊属殺人で最低の刑)ということになる。どうしても尊属殺人罪の壁があり、当初からこの尊属殺人罪自体が違憲ではないかという議論であったが、最終的に最高裁の判断を仰ぐことになり、刑法200条(尊属殺人)の規定は違憲であるという判断が出て、高裁へ差し戻されることになった(最終的な高裁判決は懲役2年6カ月、執行猶予3年)。このあたりの事情について、臨場感あふれる筆致で詳細に追ったのが上記の書であった。

 だが、本稿で紹介する本はこの『尊属殺人罪が消えた日』ではなく、『裁判百年史ものがたり』なのである。
 この本は、日本の近代史において重要な裁判を12取り上げ、それについてわかりやすく紹介していくという内容の本で、上記の尊属殺人も(もちろん)取り上げられている。その他に、大津事件、大逆事件、翼賛選挙事件、帝銀事件、松川事件、チャタレイ裁判、永山則夫事件などが扱われている。尊属殺以外で、個人的に興味があったのが大津事件、チャタレイ裁判、永山則夫事件で、どれも非常にわかりやすく、臨場感あふれる筆致で書き進められていた。「さすが作家!」である。ちなみに著者は『Wの悲劇』などで有名なミステリー作家である。本書で取り上げている12の裁判事例(事件)は、どれも日本の法曹史上重要ではあるんだろうが、実際に読んでみて、すべてが自分にとって興味深いというわけではなかった。そのあたりは興味や嗜好があるんで致し方ない。ただそういう事件であっても、わかりやすく書かれており、その意義についてもよくわかるようにはなっている。
 構成や文章は、作家らしくうまくまとめられているが、それでも途中、法律用語が絡んでいたり、人物関係がややこしかったりした箇所があるため、必ずしも通俗小説のようにスイスイ読み進められるわけではない。今回、図書館で借りていた(しかも人気本で早く返さないといけない)こともあり、全体を急ぎ足で読み進めなければならず、その割には途中つっかえつっかえするんで、その点少しイライラした。できればじっくり1日1章(1事件)くらいのペースで読んでいければもっと楽しめたかなとも思う。
 いや、それにしても、戦中から戦後にかけての裁判官には、ひどく反動的な人間がいたんだな〜と、この本を読んでつくづく思う。反動的な人間に権力を与えてはいかんと身に染みて思ったよ。かれらのせいで、少なくない数の人間が人生を棒に振ったんだから……。詳細については、長くなるのでここでは書かない。知りたい方は、本書を読んでくださいませ。

参考:尊属殺法定刑違憲事件(Wikipedia)

★★★☆
by chikurinken | 2010-05-09 17:12 |
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