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竹林軒出張所

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原作と映画の間

 ここ何日か原作ものの映画を見たが、原作をあらかじめ読んでいるものについては、どうしても原作の方が良いと思ってしまう。原作に先に接しているため、刷り込みみたいになってそれが自分の中で標準になっていることもあるし、原作を読んでから映画を見る場合、もともと原作に惹かれているということもある。だから原作の方が良いと思うのも当然といえば当然(実際原作の方がデキがよいということが多い)。
 原作を超えた映画として一般的に名高い映画に『砂の器』があるが、これだって、僕は原作を先に読んでいたため映画より原作の方が良いと思っていたほどだ。言っておくが、原作は、無線殺人装置が出てきたりしてちょっと「トンデモ小説」に近いが、それでもである。映画の方は、原作から、使える部分だけ抜いてきてうまくまとめ上げており、普通に比べれば映画の方がはるかにできが良い。もちろん今見ると、泣かそう泣かそうというような演出が鼻についてちょっと嫌な面もあるんだが、それでも小説に比べればずっと良い。ただ、やはり長い小説を無理矢理短くまとめ上げたという感触があり、当時はその当たりがひっかかっていたんだと思う。
 このように、原作ものと名うっていながら、原作と大分違った話にするのは原作ものの常道である。作り手としてはそういった方向性を取るのもやむを得ないのかも知れないが、原作を読んでいない場合は、原作を読む代わりに映画を見ようとするわけで、そういう場合は極力原作に忠実であってほしいと思う。先日見た『プライドと偏見』などの古典は、僕としては原作小説を読む気はないし、すでに原作を読んだ気持ちになっているんだが、もちろんこれはこの映画が原作に忠実に作られているという前提の下である。この映画が原作に忠実かどうかは本当のところよく知らないんだが、僕の中には、原作に忠実であると信じているフシがある。でないと、原作を読んだ気になっている僕は、まったくお門違いの思い込みを抱いているということになる。読むのが面倒な作品……特に古典など……については、極力原作に忠実であってほしいと願う。だから『ヴィヨンの妻』のように、古典でありながら原作を適当に変えているのは少し困るわけだ。原作を読んでいなければ、これが太宰の『ヴィヨンの妻』だと思っていたかも知れない。
b0189364_1122847.jpg 『砂の器』だけでなく、原作を大幅に改編して成功した映画というのもあるので、そのあたりの塩梅はちょっと難しい。30年くらい前に『Wの悲劇』という映画があったが、原作は夏樹静子の、ま、ちょっとどうしようもないような小説なんだが、当時、こういうのを映画化して何になるのかと思いながらもロードショーで見たのだ。実は併映の『天国に一番近い島』がお目当てだった。ちなみにこちらは箸にも棒にもかからない代物であった。まったく期待もなくついでに見た『Wの悲劇』だが、見ているうちに引き込まれていった。ダメな原作は舞台劇としてちょこっと登場するだけで、別のストーリーが進行していくという筋立てで、この話どこかで聞いたことがあるような……と思いつつ、少し前に読んでいたアーウィン・ショーの短編小説(『憂いを含んで、ほのかに甘く』)と話が似ていることに気が付いた。この短編小説はとてもよくできた話で自分でも気に入っていたんだが、映画ではそれをうまく翻案して良い話にまとめ上げていた。このことはその時点で製作者側から一切公表されておらず、「原作は夏樹静子の小説」ということになっていたので、本当の原作はアーウィン・ショーの小説だという事実を(たまたま)知ったことが誇らしくもあり、誰かにこの秘密をしゃべりたくてしようがないという情動にとらわれていた。もちろんこの映画は、演出も非常に優れていて、大変よくできた作品だった。これについては後日談があり、その小説の翻訳を手がけていた常盤新平が新聞でこのことを暴露して抗議したらしい。倫理上の問題はさておき、この映画は質的に非常に高いと当時感じたし、今見ても感じる。パクリというより、引用という感じで、一種の洗練すら感じたのである。
 さて、以上をまとめると、ダメな原作を映画化するときは適当に翻案してもらい、古典については原作に忠実に……というのが僕の願いということになる。少なくとも公開時に「これは原作を改編しています」とか「原作に忠実」とか発表してくれると、見る映画を選ぶ際に非常に助かるのだ。そのあたり、製作者の方々にお願いしたいところである。

参考:
竹林軒出張所『レ・ミゼラブル (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『居酒屋(映画)』
竹林軒出張所『ゴリオ爺さん(映画)』
竹林軒出張所『赤と黒(映画)』
竹林軒出張所『プライドと偏見(映画)』
竹林軒出張所『ジェイン・エア(映画)』
竹林軒出張所『令嬢ジュリー(映画)』
by chikurinken | 2010-04-10 11:03 | 映画
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