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竹林軒出張所

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『ウィキペディア革命』(本)

ウィキペディア革命 そこで何が起きているのか?
ピエール・アスリーヌ他著、佐々木勉訳
岩波書店

『ウィキペディア革命』(本)_b0189364_10324483.jpg ウィキペディアの問題点を指摘する書。
 「人類の知の集大成を、各自が望む言語で、思うままに変更、翻案、再利用、再配布ができるようなライセンスで、この星のすべての人に思う存分に提供すること」を使命とするウィキペディアは、ネット利用者にとってもはやなくてはならない存在ではあるが、著者によると、その内容については相当問題があり、信頼するに足るとは言えないという。自由に書き込み、修正ができるという特質のため、内容が、一部の勢力に恣意的に改訂されることも多く、しかもこれが長く修正されずに残されることがある。これは管理者が内容に対し過剰に介入しないという特質から来る欠陥でもある。したがって、今のようにウィキペディアに過剰に依存、信頼する姿勢を改めて、利用に当たって慎重になるべきだという主張である。
 本書でもっとも優れていた点は、ネイチャー誌によるウィキペディア評価に疑問符を投げかけ、それを精査している点にあると思う。
 2005年、英国の科学雑誌、ネイチャーで、調査の結果「ウィキペディアが、尊敬される百科事典ブリタニカと同じくらいに価値ある情報源であると結論した」と発表された。これは世界中のあらゆるメディアで取り上げられ、ウィキペディアの信頼性を保証する論拠となっているが、この調査が問題のあるもので、多分に恣意的な結論であると実証している。この精査は説得力を持つもので、ウィキペディアの問題性を指摘する上で十分な論拠になる。
 本書の主張については同意するが、それにしても読みづらい。おそらく元々は論文だったんだろうが、読者に対する配慮を欠いた、ある種気ままな記述については嫌気がさしてしまう。論文調であるためか少し権威主義的な臭いすら感じる。ウィキペディアの動機に、権威が知識を操ることに対するアンチテーゼがあると思われるのだが、こういった権威主義的な臭いというのはそれに対立するもので、ウィキペディアの問題性を「啓蒙」する上ではマイナスになるんじゃないかと思った。
 また、巻末に「解説」と称し、大学の先生によるウィキペディア論が掲載されているが、ウィキペディアの優れた面を称えており、内容が本書と対立している。これは「解説」とは言えないんじゃないか。こんなものを載せる必要があるのかはなはだ疑問。もちろんいろいろな意見を紹介するのは良いことだが、このやり方は掟破りである。掲載したいのであれば、同等の立場で載せるべきだ。
 というわけで本の体裁の面で非常に疑問を感じた一冊であった。

★★★
by chikurinken | 2010-02-18 10:33 |
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