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竹林軒出張所

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『地獄変』(映画)

地獄変(1969年・東宝)
監督:豊田四郎
原作:芥川龍之介
脚本:八住利雄
音楽:芥川也寸志
出演:中村錦之助、仲代達矢、内藤洋子、大出俊、下川辰平、内田喜郎

文芸作品を映画化することの意味について考えたい

b0189364_18284478.jpg 芥川龍之介の『地獄変』を映画化したもの。
 原作に忠実ではなく、あちこちに改変が加えられており、総じて現代的な解釈である。たとえば、大殿様(藤原道長がモデルのようだ)の元に側室として引き取られた女(主人公の絵師の娘)の元許嫁が、盗賊団に入って大殿の屋敷を襲うみたいなプロットがあるが、作りすぎであり、この映画版『地獄変』でもはたして必要なプロットなのかというような疑問が残る。こういうような部分があちこちにあり、そういうことを考え合わせると、あまり良い映画化とは言えない。
 もっとも、この映画で展開される大殿、中村錦之助と絵師・良秀、仲代達矢の数々の激突は、両者の名演技のために、なかなかの見物になっている。中村錦之助と仲代達矢は、仲代達矢の話によると、酒の席でときどき芸論から大げんかになったような(親しい)関係らしく、両者の演技にその種類の親密感と迫力は感じられた。ただし、映画自体のテンポがあまり良くないせいもあって全体的にまだるっこしく、目が離せなくなるような展開は少ない。そのため面白さを感じる部分はあまりなかった。
 原作自体短編であることだし、この映画を見るなら原作を読んだ方が良いというのが僕の結論である。もっとも日本版のDVDは出ていないんで見る機会自体少ないだろうが。
★★★

参考:
竹林軒出張所『役者なんかおやめなさい(本)』
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』
竹林軒出張所『コミックストーリー 日本霊異記(本)』

# by chikurinken | 2017-11-23 07:28 | 映画

『3人家族』 (1)〜(13)(ドラマ)

3人家族 (1)〜(13)(1968年・木下恵介プロ、松竹、TBS)
演出:木下恵介、中川晴之助、川頭義郎、横堀幸司
脚本:山田太一
出演:竹脇無我、栗原小巻、あおい輝彦、沢田雅美、三島雅夫、賀原夏子、中谷一郎、菅井きん、遠藤剛、川口恵子、矢島正明(ナレーション)

ザ・ホームドラマ!

b0189364_15514432.jpg 12年ぶりの『3人家族』。
 前回見たときの印象は以前書いたが(竹林軒出張所『「3人家族」と「二人の世界」(ドラマ)』を参照)、今回見てみて、改めてその面白さに感心。キャラクターがどれも魅力的で、いかにもホームドラマという優しさ、安心感がある。ド派手な事件はなく、単に2つの家族の日常が描かれるだけだが、しかし我々見る方の現実というのは概ねそういうものである。これこそがリアリティというものだ。ただ、偶然が多いのが少々難点で、主人公の男女の偶然の出会いはまだしも、それぞれの弟と妹が偶然出会うということになると、ちょっと無理がある。いくら双方の家族が横浜に住んでいるとしてもだ。ただこれがないとストーリーが成り立たなくなるので、致し方ないといえば致し方ないわけだが。
 それからナレーションがかなりしつこく入ってくるのが、今の感覚からいくと古臭く感じるが(NHKの朝のドラマではいまだにやっているが)、テレビ番組に対する視聴者の集中度が低いことから、意図的に入れたということらしい(竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1 続き(補足)』を参照)。ナレーションを担当するのは矢島正明で、これは『逃亡者』を意識してのことである(これも脚本家が語っている)。
 メインのプロットは、主人公の美男、雄一(竹脇無我)と美女、敬子(栗原小巻)の恋愛で、そこに男の仕事、女の結婚などが絡んでくる。同時に他の家族の生活も絡んできてそれがサブプロットになる。すべてが自然に展開するので、わざとらしさがまったくない。大変よくできたドラマである。雄一は、仕事でのし上がるために女と付き合ってなんかいられないなどとうそぶいているのだが、敬子の余りの美貌に心が揺れ動いてしまう。ま、相手が栗原小巻なら当然だろう。そのくらい栗原小巻が美しい。また演技も自然で素晴らしい。演技について言えば、どの出演者も一流で、演技していることを意識させられることが一切ない。あおい輝彦が演じる弟、健(たけし)がまた非常に魅力的な登場人部で、現在自宅浪人中だが、家事全般を引き受けていて、家族に対し食について小姑みたいに細かいことを言ったりするが、少々ボーッとしたところもあって、周囲を明るくする。画面に出てくるのが楽しみになるようなキャラクターで、栗原小巻の美貌とあわせてこのドラマの大きな魅力になっている。竹脇無我のクールさが、この弟と好対照をなしているのも良い取り合わせである。好対照と言えばもう一方の家族の妹、明子(沢田雅美)も敬子と対照的で、きわめて現実的な存在であり、コントラストが効いている。名優の三島雅夫、賀原夏子、菅井きんについては今さら言うまでもない。
 他にも画面に登場する、4本足テレビとか編み機とか魔法瓶とかの調度品が非常に懐かしい。電話が引けたと言って喜んでいるような情景も懐かしさを感じる。そういう懐かしさもあって、見ていて暖かい気持ちになるんだろうかとも思う。いつまでも見ていたくなるような優しいドラマである。
 せっかくなので、ストーリーを簡単にまとめておこうと思う。

--------------------------
柴田家(3人家族)
父:耕作(三島雅夫)
長男:雄一(竹脇無我)
次男:健(あおい輝彦)

稲葉家(3人家族)
母:キク(賀原夏子)
長女:敬子(栗原小巻)
次女:明子(沢田雅美)

第1回
b0189364_15515268.jpg 商社の通信部勤務のサラリーマン、雄一が、電車の中で何度か美女、敬子に目を留める。雄一の弟は自宅浪人、父は定年間近であるが先日課長に就任という、男ばかりの3人家族。
 雄一は営業部への配転を希望、同時に会社の留学試験に受かって海外赴任するという夢がある。そのために日夜勉強の日々。ただしこの制度、独身が条件ということで雄一は「女なんか眼中にない」と自分に言い聞かすように言う。そんな雄一だが、ある日帰りに路上でまたまた敬子を見かけ、会釈を交わす。また別の日、出先のレストランでも顔を合わす。雄一は運命的なものを少し感じる。

第2回
 健が近所の祭り囃子に参加。同じく参加している元同級生の女の子(洋子)目当てである。雄一は、勉強を優先すべきですぐに辞めるよう叱る。兄は堅物で実力主義で、健はそのことを批判する。
 一方、敬子の家族。妹と母との3人暮らしであることがわかる。敬子も雄一のことが気になっている。雄一も敬子のことが忘れられない。

第3回
 霞ヶ関インフォメーションセンターに勤務する敬子に、強引に迫る男の客が現れる。写真家の沢野(中谷一郎)で、突然敬子を食事に誘う。
 健は結局、父の勧めで祭の宵夜に行く。その夜酔っ払って「洋子さーん」などと叫ぶ。翌日家政婦(菅井きん)が臨時で呼ばれる。この家政婦、少々出しゃばりで見舞いに来た洋子と健を取り持とうとするが、洋子の方はつれない。
 一方、沢野はたびたび敬子を誘う。夜、帰りの電車で雄一と敬子、再び顔を合わせる。

第4回
 雄一の家に旧友が彼女を連れてきて、婚約したと言う。「俺は今それどころではない」と自分に言い聞かせる雄一。
 例の家政婦が仕事でもないのにまた柴田家にやってくる。柴田家が気に入ったようだ。

第5回
 朝の満員電車で雄一と敬子が出会う。いきなり体が接するぐらい近くになり、軽く口を利く。ところが駅を出たとたん、雄一は気のないそぶりで敬子を残して去っていく。「女と付き合っていてはいけない」という考えのためだが、敬子はかなりムカッとする。

第6回
 雄一を忘れようとする敬子。一方、「付き合っていてはいけない」と思いつつ敬子のことが頭から離れない雄一。
 予備校の後期課程に申し込みに行った健が、同じく申し込みに行った明子と出会って、意気投合する。日曜日に江ノ島に行こうという話になる。同じ日、雄一は留学試験。

第7回
 健と明子のデートに、敬子もやってくる。健は敬子の美しさに参ってしまい、写真をとりまくる。明子は不機嫌。敬子は2人に気を利かせて、その場を去り、鎌倉の昔の友人に会いに行く。その友人から結婚、子育てで気が滅入っていると聞かされる。「よほどいい人じゃないと結婚しちゃダメ」などと言われる。

第8回
 柴田家に電話が引ける。
 健、江ノ島で撮った敬子の写真を兄に見せる。写真を見て驚く雄一。「誰だ、この人は」と言ったまま、外に出て行く。動揺を隠せない。

第9回
 引けた電話がやっと開通して、健はうれしい。父の職場、兄の職場に用もないのに電話をかけて、顰蹙を買う。その後、雄一が家にかけ直し、ついでを装って、敬子の名前や職場を聞き出す。
 その後、雄一が敬子の職場に「健の兄」として電話し、デートの約束を取り付ける。やっと2人でデート。喫茶店で会って食事し、同じ電車で帰る。言葉少なではあるが、心地よさを感じる2人。

第10回
 敬子はその後雄一をデートに誘うが、雄一は忙しいということで断る。一度は会わないことにした雄一だが、敬子の妹の明子からたきつけられるようにして、再び敬子を食事に誘う。その席で、今は結婚できないなどと語って敬子の反感を買う。
 沢野の元恋人が敬子の職場にやってきて、嫌がらせをする。その後、付き合っていた男2人とも(つまり雄一と沢野)失ったような気がして味気なさを感じる敬子。だが、沢野はその後も敬子の元にやってきた。

第11回
b0189364_15514862.jpg 健は、クリスマスにかこつけて洋子に告白するが体よく断られてしまう。その後、明子から自宅のクリスマス・パーティに誘われ、傷心の状態で赴く。兄の雄一も誘われたが、仕事の付き合いで行けない。敬子はガッカリする。一方で沢野から高価な花が敬子の元に届く。
 後で雄一は、健からその話を聞いて、心が動く。沢野は敬子に再び会いに来て、真剣に付き合いたいと言う。

第12回
 敬子が雄一をお茶に誘う。結婚について話をする。
 雄一、一次試験に合格する。

第13回
 二次試験の準備で勉強に邁進する雄一。敬子とも会わず。敬子の方は何だかモヤモヤする。そういう折に、13年前に失踪した敬子の父親が母親に会いに来る。母親は怒って追い返すが、敬子の職場にも顔を見に来る。敬子は結局会わず。

 続きは、また機会がありましたら。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『「3人家族」と「二人の世界」(ドラマ)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1 続き(補足)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』

# by chikurinken | 2017-11-21 06:50 | ドラマ

『グッドバイ・ママ』(1)〜(11)(ドラマ)

グッドバイ・ママ (1)〜(11)(1976年・TBS)
演出:堀川敦厚他
脚本:市川森一、桃井章
出演:坂口良子、篠田三郎、平幹二朗、宇野重吉、北林谷栄、岡田裕介、大門正明、柴俊夫、渡辺篤史、中条静夫、伊東四朗、范文雀、下條アトム、岸部修三、風間杜夫

イタイ主人公に辟易

b0189364_18450751.jpg ジャニス・イアンの「Love is Blind」が流れるタイトルバックが印象的だった40年前のドラマ。タイトルバックは、母親役の坂口良子が娘役の女の子の手を引いて小田急線の踏切(小田急線梅ヶ丘駅近くだそうな)を通る場面をロングショットで捉えるというもの。僕は放送時このドラマをほとんど見ていないが、このシーンだけはかなりはっきりと憶えていた。もちろんテーマ音楽も。
 主人公は子連れの未婚の女性、あざみ(坂口良子)で、再生不良性貧血(ドラマでは「血液再生不全」と表現されている)のために余命半年の宣告を受ける。自分が死ぬ前に3歳の娘、のり(大岩紀)を何とかしなければならないと奔走する、という話。当初は主治医(平幹二朗)の勧めに従って養子に出すことを考えていたが、結局踏み切れず(このあたりはまだわかるが)、そのうち結婚相手を見つけ出しその男に娘を託そうということで、結構手当たり次第に周りの男にアプローチしていく。アプローチされた男たちは、あるいは地方に転居(同僚の2人、篠田三郎と大門正明)、あるいは破滅(近所の知り合い、岡田裕介と風間杜夫)、あるいは死亡(ご近所のヤクザ、柴俊夫)と結果的に人生ムチャクチャにされる。上司(中条静夫)などは、あざみが誘惑したせいで離婚の危機に陥ると来ている(その後どうなったかは描かれていない)。しかもお世話になっていた老夫妻(宇野重吉と北林谷栄)にまで、(結果的にだが)ひどい目に合わせ、博多に転居させることになる。周りの人間を(無意識にではあるだろうが)次々に不幸に陥れる主人公、あざみの行動にまったく共感できないため、途中から見るのがかなり苦痛になった。周りを不幸に陥れる女を描くことが脚本家の意図ではなく、おそらく「死に瀕してそれでも娘のことを思い何とかしようとする若い母親」というのがテーマではないかと思うが、結果的に稀代の悪女のドラマになってしまっている。そういうわけで、まったく見るに堪えないドラマだった(おかげで第1回を見てから最終回を見終わるまでに3年くらいかかった)。
b0189364_18470333.jpg 先ほども言ったようにタイトルバックが非常に印象的なドラマなんだが、面白かったのはそのパロディみたいな映像が最終回のエンディングロールで出てきた点である。あざみが死んで、のりを引き取ることになった男、ワタナベ(渡辺篤史)が、のりを連れて、タイトルバックと同じ踏切を通る(そしてそれをロングショットで追う)という、タイトルバックとかなり似たシーンが再現される。他の見所としては、宇野重吉と北林谷栄の名優老夫婦、范文雀の魅力、デビューしたばかりの風間杜夫などが挙げられる。范文雀については、『サインはV』のジュン・サンダースのイメージしかなかったんで昔からあまり「きれい」などという印象はなかったが、このドラマの彼女はおそろしく魅力的で、そりゃワタナベがその色香に迷うのも致し方ないというものだ。他に尾美としのりが第10話で子役で出ていたのも発見と言えるか。
b0189364_18470760.jpg このドラマでプロデューサーの堀川敦厚がジャニス・イアンの曲を採用したことから『岸辺のアルバム』でも「Will You Dance?」が使われることになったというのは、かつて山田太一が語っていた話だが(竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2(ドキュメンタリー)』を参照)、このドラマでは、そのジャニス・イアンの曲が随所に流される。驚いたのはジャニス・イアンが唄う「I Love You Best」が2回ほど流れたことで、そもそもこの歌は、南沙織に提供した歌(邦題「哀しい妖精」)であり(竹林軒『シンシア版「妾の半生涯」』を参照)、ジャニス・イアンのアルバムには収録されていない。ジャニス自体歌っていないんじゃないかと思っていたが、録音したものがどこかにあるのだろうか。一生懸命探してみたがわからずじまいで、結局は謎だけが残った。
★★★

参考:
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2(ドキュメンタリー)』
竹林軒『シンシア版「妾の半生涯」』
竹林軒出張所『時は立ちどまらない(ドラマ)』

# by chikurinken | 2017-11-19 07:35 | ドラマ

『冬のホンカン うちのホンカン-PART IV』(ドラマ)

日曜劇場 冬のホンカン うちのホンカン-PART IV-(1977年・北海道放送)
演出:小西康雄
脚本:倉本聰
出演:大滝秀治、八千草薫、仁科明子、室田日出男、笠智衆

「花嫁の父」もの……と来ればやはり笠智衆

b0189364_19101171.jpg 『うちのホンカン』シリーズ第4作目。
 主人公の「ホンカン」(大滝秀治)が娘(仁科明子)を嫁に出すその前日の1日の物語。主人公が住む支笏のホテルに有名作家(笠智衆)が現れ、翌日に娘を嫁にやる父親の心情を色紙に書いてホンカンに揮毫してくれるが、その作家が実は偽物だったという『玩具の神様』の前フリみたいなストーリーである。
 かつて実際にニセ倉本聰が出現したことがあったらしく、そのエピソードがベースになっていると思われるが、詐欺師が方々のホテルを泊まり歩いて作家になりすますにもかかわらず1日中部屋に閉じこもって原稿を書いているとか、自ら編集者を騙ってホテルに電話を入れるとか、そういったネタは『玩具の神様』とまったく同じ。『玩具の神様』が、この日曜劇場の焼き直しであることがわかる。
 日曜劇場は、1時間ドラマということもあり、ここで一度使ったネタを他で使い回すということが、他の作家でもちょくちょくあるように思われる。山田太一の場合もしかりで、そもそも日曜劇場がそういうお試し的な場として見られていた可能性もある。
 いずれにしても、『ホンカン』シリーズ、第2作、3作、4作とシリーズものにしてはなかなかの佳作が続いていると感じる。
1977年日本民間放送連盟賞優秀賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『うちのホンカン(ドラマ)』
竹林軒出張所『玩具の神様 (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 田園交響楽(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 遠い絵本 第一部、第二部(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ばんえい(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ああ!新世界(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ひとり(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 りんりんと(ドラマ)』

# by chikurinken | 2017-11-17 07:08 | ドラマ

『ビギナーズ・クラシックス 大鏡』(本)

b0189364_20512874.jpgビギナーズ・クラシックス 大鏡
武田友宏編
角川ソフィア文庫

平安貴族の人間ドラマ
古典だが存分に楽しめる


 平安時代の歴史物語『大鏡』を抜萃し、現代語訳を付けたもの。
 現代語訳が丁寧であるため、古文が読めなくても内容を楽しめる。また背景などについても詳細な解説があり、入門書としてはうってつけである。
 『大鏡』については、学生時代に関心があったので文庫本を買ったこともあったが、相当な大著で、しかも、帝紀から始まることから、通読していてあまり面白いと感じない。面白い部分とどうとうことのない部分が混ざっているため、当たりにぶつからないと結局読み続けることができなくなる。そういう按配で、序盤で断念した。この本みたいに面白い部分ばかり取り出して、しかも現代的な感覚ではわかりにくい箇所についても説明してくれていると、『大鏡』を面白いと感じる。まさに「ビギナーズ・クラシックス」という名にふさわしい、ビギナー向けの好著である。
 『大鏡』は、大宅世継(190歳)と夏山繁樹(180歳)という二人の老人の昔語りを若侍と著者、その他の人々が聴くという体裁で記述される歴史書で、藤原道長を絶賛している点が特徴として挙げられる。そのために道長の武勇伝が取り上げられているが、一方で道長の兄の道兼のダメ具合なども出てくるし、道長が、姉の皇太后・詮子による(息子の)一条天皇に対する強い圧力によって関白に取り立てられることになったというようなエピソードもある。人間ドラマとしても興味深い話があり、奥深さを感じる。ただしだからと言ってやはり全部読み直すのは骨が折れそうである。僕が以前買った角川文庫では本編だけで300ページ近くあり(8ポイント程度の文字)結構な大著である。したがって、読むとしても、せいぜい拾い読み程度で結局終わるんではないかと思う。またすべて現代語訳という潔い文庫も出ているんで、そちらに当たっても良いかなという気もする。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 梁塵秘抄(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 土佐日記 (全)(本)』
竹林軒出張所『日本人なら知っておきたい日本文学(本)』

# by chikurinken | 2017-11-15 06:51 |

『ビギナーズ・クラシックス 土佐日記 (全)』(本)

ビギナーズ・クラシックス 土佐日記 (全)
紀貫之著、西山秀人編
角川ソフィア文庫

b0189364_16300702.jpg女がすなる千年前の日記を
読んでみむとて読むなり


 紀貫之の『土左日記』をオリジナルのまままとめたもの。といってもメインになっているのは現代語訳で、各部ごと(ほぼ日付単位で約40段に分けられている)に現代語訳が現れその後に原文、さらにその後に解説文が現れるという構成になっている。
 土左日記は、当時土佐の国司として高知に赴任していた紀貫之が、任期を終えて都に戻るまでの55日間の出来事を日記形式で記録したもので、(本書の解説にも書かれているが)今風に言うとブログである。作者は(当時から)有名な歌人、つまり文学者であり、しかも周囲の人間が書いたかのような体裁、つまりなりすましで日々の事柄を綴っているというのが、この日記の特徴である。
 本来であれば土佐から都までは25日くらいの行程であるが、海が荒れたり、あるいは淀川の水が少なくなって遡上がうまく行かなくなったりしたことから倍以上の日数がかかる。その間海賊に怯えたり、あるいは土佐の地で死んだ我が子を悼んだり哀しみに沈んだりする。そういった心情を歌に読み込んでおり、さながら歌物語のようでもある。随所に貫之の得意のシャレが現れる他、鈍感な客人を軽蔑したりという記述もあって、内容的にも十分楽しめる。古典を原文で読んだときに一番困るのが、当時の習俗、風俗がわからないために何のことだかわからない箇所が多いという点だが、そのあたりもかなり細かい解説があってわかりやすい。
 内容的には面白いものだが、なぜ(おそらく個人の)日記がその後読み継がれていったのかはいまだにわからない。それは『蜻蛉日記』や『更級日記』についても同じだが、平安時代、出版文化は皆無であり、本人が発表したとも考えられない。後世の誰かが、これ面白いよとかなんとかいって、どこかから入手した人の日記を回し読みしたんではないかと思うが、そのあたりの解説はなかった。なお解説によると、紀貫之は土佐への赴任前から、屏風に書く和歌の作者として依頼が殺到していたということで、すでに都では和歌の名人として名が通っていたらしい。したがって、彼の和歌が大量に掲載されている日記が興味の対象になっても不思議はないと言うことはできる。
 この角川ソフィア文庫の古典シリーズは、ビギナーズ・クラシックスという名前がついているが、どれも現代語訳や詳細な解説が載せられており、大変読みやすくなっている。難点は、それぞれの原作を網羅しているとは限らない点で、その点この『土佐日記(全)』は、原典が短いためもあり、最初から最後までがきっちり掲載されている。その点でもポイントが高い。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 梁塵秘抄(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 大鏡(本)』
竹林軒出張所『日本語の考古学(本)』
竹林軒出張所『マンガ古典文学 方丈記(本)』
竹林軒出張所『更級日記・蜻蛉日記 ― NHKまんがで読む古典2(本)』
竹林軒出張所『吾妻鏡(上)(中)(下) マンガ日本の古典14、15、16(本)』

# by chikurinken | 2017-11-13 07:29 |

『ビギナーズ・クラシックス 梁塵秘抄』(本)

b0189364_19043813.jpgビギナーズ・クラシックス 梁塵秘抄
後白河院著、植木朝子編
角川ソフィア文庫

梁塵秘抄の 入門書だが
この一冊でも 必要十分


 後白河上皇が大層好んだという今様(当時のはやり歌)。好きが高じて、和歌集ならぬ今様集を編纂してしまった。それが『梁塵秘抄』。
 『梁塵秘抄』自体は、本書によると元々全20巻構成だったらしいが、現存するのはそのうちわずかに2巻プラス・アルファということで、本来の姿は想像すべくもない。本書は、その中からさらに50首程度をピックアップしてその訳文と解説を載せたという『梁塵秘抄』入門書である。
 おそらく現代に生きる普通の人々にとって今様なんかまったく縁がなく、ほとんどの人に取っては生涯触れることのないものであるが、中にはどこかで聞いたことがあるというような割合有名なものもある。たとえば「遊びをせんとや生まれけむ 戯れせんとや生まれけむ 遊ぶ子どもの声聞けば わが身さへこそ揺るがるれ(359)」などは比較的知られている。この一首でわかるように、今様は七五七五七五七五と続く形式の歌……だとばかり僕は思っていたのだが、この本を見る限り、必ずしもそうとばかりは言えず、形式はかなり多岐に渡る。はっきり言って決まった形式はないと言うことさえできる。七五調が日本人好みで実際現代に伝わる歌も七五調が多いのは確かで(たとえば「春のうららの隅田川」とか「酒は飲め飲め飲むならば」とか)、今様についても七五調が多いことは多いが、今様は七五七五七五七五であるとは断じて言えない。現代的な感覚から言うとリズムが悪いものもあり、一体どういう風に歌っていたのだろうかと思うものも多い。本書によると、独特の歌い方があったようで、後白河上皇などは、乙前という傀儡(芸能民)のお婆さんに弟子入りして歌い方を習っていたという。後白河院の今様へのめり込みようについては、『梁塵秘抄』の口伝集(本書でも紹介されている)でも記述されていて、実際かなりの(今様歌いの)腕前だったのではないかと推測されるらしい。
 『梁塵秘抄』で紹介されている今様自体はあまり僕の気を引くものはなかったが、解説がなかなか興味深く、書籍としては非常にできが良いと感じた。現存する『梁塵秘抄』全体を収録した本もあるようだが、僕を含む一般的な古文素人にはこの程度の本が適しているのではないかと思う。ものごとはどのあたりで見切るかということも大切で、少なくとも僕にとっては本書の内容は必要十分であった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 土佐日記 (全)(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 大鏡(本)』
竹林軒出張所『古典和歌入門(本)』
竹林軒出張所『和歌のルール(本)』
竹林軒出張所『短歌をよむ(本)』

# by chikurinken | 2017-11-11 07:05 |

『海に消えたプラスチック』(ドキュメンタリー)

海に消えたプラスチック(2015年・仏VIA DECOUVERTES)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

マイクロ・プラスチックは次の「温暖化」か?

b0189364_18161191.jpg 適性に処理されないプラスチック・ゴミが海に大量に流れ出ていることは周知の事実で、現実にゴミ・ベルトと呼ばれる海域には大量にゴミが流れ込んでいる。しかし、地上のプラスチック・ゴミの生成量から考えると、このゴミ・ベルトで見られるゴミは余りにも少なすぎる。では、あるはずだが目に映らないゴミはどこに行ったのか。そういう視点で作られたドキュメンタリーがこれである。
 まず考えられるのは、現時点で人間が容易にアクセスできない海底に大量に溜まっているという状況である。次に考えられるのは、プラスチック・ゴミが細かく砕けて(マイクロ・プラスチック)目に映りにくい形になって海中に漂っているという状況。どちらも可能性が高いが、特に後者については、ある程度状況が把握されるようになっている。つまりかなりの量のマイクロ・プラスチックがすでに存在し、またかなりの量のマイクロ・プラスチックが海洋生物の体内から検出されている。これが食物連鎖を通じて最終的にクジラやヒトの体内に蓄積されることになるのでは……というのがこのドキュメンタリーの主張である。
 なおこのマイクロ・プラスチック、生物の体にどのような影響を及ぼすかまだ完全に判明しているわけではない。したがって、(地球温暖化と同様)ある時点で突然問題化して、人間が右往左往するというような状況も十分起こりうるというわけである。また海底に溜まっていると考えられる大量のプラスチックが今後問題化する可能性だって十分ある。とりあえず無駄なプラスチックは使わないようにする、プラスチック・ゴミは適正に処理する、ぐらいしか対策がないのがじれったいところである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『廃棄家電の悲しき行く末(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-11-09 07:15 | ドキュメンタリー

『ダウン症のない世界?』(ドキュメンタリー)

ダウン症のない世界?(2016年・英Dragonfly Film & Television)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

ダウン症胎児の中絶について考えさせられる

b0189364_18062411.jpg 現在、妊娠中に出生前診断を行うことで、胎児がダウン症かどうかが事前にわかるようになってきている。ダウン症であることがわかれば中絶して子どもを産まない選択ができるということなんだが、こうやってダウン症を100%この世から排除することが良いことなのか、今存在しているダウン症の人々は存在してはならない存在なのか、そういうことを問いかけるドキュメンタリー。
 番組の進行役は、ダウン症の息子を持つ女優のサリー。彼女は、ダウン症の息子、オリーについて、ネガティブな感情はまったくなく、この息子がいること自体、幸福なことだと感じている。そのため、出生前診断でダウン症の胎児を中絶するという傾向に対して違和感を感じている。
 こういう状況で、出生前診断の権威の医師や、ダウン症の診断が出た人たちの相談施設のトップなどに話を聞く。ダウン症(ひいてはダウン症患者)が存在すべきでないものであるかのように話す人々もおり、それは(ダウン症の子どもを持つ)彼女にとって、耐えがたく賛同できない話だったりする。本当にダウン症はなくすべき悪なのかという問いを発し、ダウン症の現実(一例ではあるが)も紹介していくという、興味深いが少々重い内容である。ダウン症児の現在の教育体制や、社会で活躍するダウン症の人々も紹介する。ダウン症についてほとんど知識がなかったため、目が見開かれたような気がする。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『日本人は何をめざしてきたのか (6)(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-11-07 07:06 | ドキュメンタリー

『撮影監督ハリー三村のヒロシマ』(ドキュメンタリー)

撮影監督ハリー三村のヒロシマ カラーフィルムに残された復興への祈り
(2015年・WOWOW)
WOWOW ノンフィクションW

『人情紙風船』の撮影監督の秘話

b0189364_19213461.jpg 映画カメラマンの三村明が、敗戦直後、占領軍の依頼で広島の状況をカラー撮影していた。その映像、それから三村明の経歴にスポットを当てるドキュメンタリー。
 三村明は、映画黎明期、ハリー三村という名前で、ハリウッドで撮影助手を務めていた。やがてユニオン(組合)のストライキなどで仕事を失い、日本に戻って撮影監督の仕事に就く。山中貞雄監督の時代劇『人情紙風船』、黒澤明の監督デビュー作『姿三四郎』などが彼の代表作で、ハリウッドで仕入れた技術は、日本の映画人にも重宝されたという。
 その三村が、原爆投下後の広島を撮影していた。そしてその映像は、広島の惨状を生々しく伝えるだけでなく、人に対する優しさにあふれたものだった、というのがこのドキュメンタリーの趣旨である。
b0189364_19213881.jpg WOWWOW製作のドキュメンタリーで、数々の賞を受賞した、評価の高い作品ということである。あまり知られていない事情をドキュメンタリーにまとめたという点で評価に値するしなかなか面白い作品であったが、強烈なインパクトみたいなものはあまりない。
 『人情紙風船』については、全体的にぼやけたような映像が多いなと思った記憶があるが、あれがハリウッド仕込みだったというのが新しい発見か。とは言えあの映画については、スフマートというのかとにかくぼやかしが多かった印象がいまだにあり、個人的には少しやり過ぎだと思っている(映画は非常に良かったが)。三村明についてはその程度の思い入れしかないため、広島の秘蔵映像だと言われてもあまり感慨が湧かなかったというのが正直なところである。
2016年第44回国際エミー賞芸術番組部門、日本民間放送連盟賞最優秀賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『きのこ雲の下で何が起きていたのか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『一番電車が走った(ドラマ)』
竹林軒出張所『銀座カンカン娘(映画)』

# by chikurinken | 2017-11-06 07:20 | ドキュメンタリー

『クロムウェル』(映画)

クロムウェル(1970年・英)
監督:ケン・ヒューズ
脚本:ケン・ヒューズ
出演:リチャード・ハリス、アレック・ギネス、ロバート・モーレイ、ドロシー・テューティン、フランク・フィンレイ

b0189364_18101281.jpg歴史物はかくありたい

 1649年のピューリタン革命を描く歴史映画。タイトルからわかるように、主人公はオリバー・クロムウェルである。
 歴史ドラマとしてしっかり描かれている映画で、大体の歴史の流れがよくわかる。国王チャールズ1世の暴政を議会勢力が糾弾して両勢力が決裂、やがて内戦になり、その戦闘で勢力を伸ばしたクロムウェルが議会派のリーダーになって、チャールズを処刑するという動きである。
 チャールズ1世に扮するのは名優アレック・ギネスで、リチャード・ハリスのクロムウェルより存在感があった。特に外連味もなくきわめて真面目に、宮廷や議会、当時の風俗などがよく描かれていて、歴史ドラマとして見る分には最適である。前見た『クロムウェル 英国王への挑戦』はなんだかよくわからない内容で、こういう作品は歴史物として見る分には少々困る。生に近い歴史に接したいという僕みたいな視聴者にとっては、本作みたいな実直な描き方が望ましいわけだ。合戦シーンもよく再現されていて、衣装などの色が映えて美しく見える。アカデミー賞の衣装デザイン賞を取ったというのも大いに頷けるところである。
1970年アカデミー賞衣装デザイン賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『クロムウェル 英国王への挑戦(映画)』
竹林軒出張所『わが命つきるとも(映画)』
竹林軒出張所『冬のライオン(映画)』
竹林軒出張所『ブーリン家の姉妹(映画)』
竹林軒出張所『エリザベス(映画)』

# by chikurinken | 2017-11-04 07:09 | 映画

『ブーベの恋人』(映画)

ブーベの恋人(1963年・伊仏)
監督:ルイジ・コメンチーニ
原作:カルロ・カッソーラ
脚本:ルイジ・コメンチーニ、マルチェロ・フォンダート
出演:クラウディア・カルディナーレ、ジョージ・チャキリス、マルク・ミシェル、ダニー・パリス

カルディナーレのプロモーションビデオか

b0189364_19014834.jpg 1944年のイタリアが舞台。パルチザンの闘志、ブーベに恋した若い娘、マーラの話。クラウディア・カルディナーレが、悪女ではなく、普通の(純真な)娘を演じる。ブーベ役は、『ウェスト・サイド物語』のジョージ・チャキリス。
 当時のイタリアの世相が描かれていて興味深い部分はあるが、基本的にはクラウディア・カルディナーレの映画ということになるのか。実際カメラはカルディナーレの姿を執拗に追うし、実際に魅力的な姿が映し出される。結局のところストーリーは「ダメ男を選んでしまった女の話」と言ってしまって良いのかも知れない。しっかり作られていて映画自体は決してダメではないが、これはこれはというような部分もあまりない。そのため、何度かに分けてぶつ切りにして見ることになった。見る途中、結構退屈していたのもまた事実である。
★★★

参考:
竹林軒出張所『山猫(映画)』
竹林軒出張所『刑事(映画)』
竹林軒出張所『若者のすべて(映画)』

# by chikurinken | 2017-11-02 07:01 | 映画

『ロボット』(本)

b0189364_17283774.jpgロボット
カレル・チャペック著、千野栄一訳
岩波文庫

ロボットの元祖
反乱ネタもこれが元祖


 これも、『山椒魚戦争』同様、SFの古典である。そもそも「ロボット」という言葉は、この作品から派生したものである。アシモフだとばかり思っていたが、思い違いだった。こっちが元祖で、生みの親はチャペックである。
 4幕ものの戯曲で、本当のタイトルは『R.U.R. ロッスムのユニバーサルロボット』というらしい。R.U.R.社が製造した人造人間(我々が一般的に想像する機械式のロボットではない)が、やがて人間に対して反乱を起こすというストーリーである。
 戯曲であるため、すべて会話で話が進み、反乱もセリフで語られる。そのためかなり地味な作品である。また登場人物が比較的多く(ほとんどはR.U.R.社の重役)、本当に全員必要なのか疑問に感じたりもする。なんせほとんどが会話なので、4人+ロボットで十分な気もするが、著者は必要だと感じたのだろう。ストーリー自体はモダンであるが、セリフには魅力を感じない。これは翻訳のせいでもあると思うが。
 本書の中には、舞台の美術と、初演時の俳優による登場人物の写真が何枚か載っている。イメージが湧きやすくなるため非常にありがたい配慮ではあるが、どうせなら全員の分を(なるべく一箇所に)載せてほしかったところで、編集自体がどうも中途半端な気がする。
 読了するにはしたが、結局のところ、古典を読んだという達成感のみになってしまった。そのあたりが少々残念。
★★★

参考:
竹林軒出張所『山椒魚戦争(本)』
竹林軒出張所『ブレードランナー ファイナル・カット(映画)』
竹林軒出張所『ロボット革命 人間を超えられるか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ロボットがもたらす“仕事”の未来(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-10-31 07:28 |

『倍賞千恵子の現場』(本)

倍賞千恵子の現場
倍賞千恵子著
PHP新書

倍賞千恵子のように
素朴なたたずまいで好感が持てる本


b0189364_18030099.jpg 女優、倍賞千恵子の経験的映画論。
 副題が「出会った素敵な人たち」になっているように、第1章では渥美清、第2章では山田洋次をはじめとする監督たち、第3章では高倉健について語る。第4章は自身の映画での経験と自分の演技、第5章は歌手としての活動についてで、倍賞千恵子の来し方が本人の口から語られるといった内容。『男はつらいよ』や『駅 STATION』『遙かなる山の呼び声』などの撮影裏話が満載である。もちろん渥美清や高倉健らの人となりも紹介される。渥美清が役柄同様、本当の妹に対するかのような思いやりを見せた話や、普段は気さくな高倉健が次のシーンの役作りのために人を寄せ付けない雰囲気を発するなどの話が興味深い。
 映画ファンとしては、撮影裏話が一番面白い。『駅 STATION』や『遙かなる山の呼び声』に、倍賞千恵子をはじめスタッフ、キャストがこれだけ入れ込んでいたのかというのがよくわかる。やはり名作となるとそれだけの背景があると感じる。
 本自体は取り立てて特筆するような箇所はあまりないが、倍賞千恵子の人柄が出ているような素朴なたたずまいの本であり、大変読みやすく、好感が持てる本である。
★★★

参考:
竹林軒出張所『駅 STATION(映画)』
竹林軒出張所『遙かなる山の呼び声(映画)』
竹林軒出張所『男はつらいよ 純情篇(映画)』
竹林軒出張所『家族(映画)』
竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』
竹林軒出張所『友だち (1)〜(6)(ドラマ)』

# by chikurinken | 2017-10-29 07:02 |

『のぼせもんやけん』、『のぼせもんやけん2』(本)

のぼせもんやけん 昭和30年代横浜 セールスマン時代のこと。
のぼせもんやけん2 植木等の付き人時代のこと。
小松政夫著
竹書房

植木等、やっぱりいい人過ぎ

b0189364_19130680.jpg コメディアン、小松政夫の自伝的青春記。
 『のぼせもんやけん』は高卒後上京してから自動車のセールスマンをしていた頃までの話。続編の『のぼせもんやけん2』では植木等の付き人になってからデビューするまでを描いている。小松政夫著の小説という体になっているが、小松政夫が語った内容を清水東というゴーストライターが書いたものらしい(『のぼせもんやけん2』のあとがきに書いてある)。とは言え、内容は充実していて、非常に面白い。それに恐ろしく読みやすい。
 さまざまなバイトを転々とした後、横浜トヨペットでセールスマンとしてスカウトされ、トップ・セールスマンになるあたりが『のぼせもんやけん』の内容だが、ストーリーは一種のサクセスストーリーになっていて、エンタテイメントとしても楽しめる。なんといっても著者を取り巻く周りの人々が魅力的で、主人公(つまり著者)に対して思いやりに溢れた行動をしてくれる。それにきわめてユニーク。著者は「ブル部長」や「アリクイ係長」などのニックネームで通しているが、実在の人物らしい。ただし著者によると、脚色も入っているらしい(これもあとがきに書いてある)。小説という体だからそれはそれでかまわない。
b0189364_19131109.jpg 『のぼせもんやけん2』では、植木等のボーヤ(バンドマンの付き人)になって目にする芸能界の姿が描かれる。特に師匠である植木等、クレージーキャッツの面々との付き合いが中心になるが、彼らも、トヨペットの人々と同様、非常に人情家である。植木等に至っては、当時、超売れっ子であったにもかかわらず、ボーヤである著者にまで気を配る思いやりの人という描かれ方で、どんだけいい人なんだと思う。芸能人として独り立ちする算段まで、知らない間に全部やってくれていたらしいんだ、これが。
 思うに、著者自身が、いろいろな部分に目を配ることのできる心優しい人間であったために、周りの人々にも愛されたんではないかと推察する。つまり周囲が著者自身の姿を反映しているというわけである。
 なお、この本で描かれている数々のエピソードは、若干形が変わったものもあるが、ドラマ『植木等とのぼせもん』でも数多く採用されている。ただし、ドラマの性格上、適当に味付けを変えたりしているし、時間の制約もあるため、薄味になっていたり、元々の味が失われているものもある。あのドラマも面白く心温まるエピソードに溢れていたが、こちらの原作の方がお奨めである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『植木等とのぼせもん (1)〜(7)(ドラマ)』

# by chikurinken | 2017-10-27 07:12 |