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竹林軒出張所

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『大峯千日回峰行 修験道の荒行』(本)

大峯千日回峰行 修験道の荒行
塩沼亮潤、‎ 板橋興宗
春秋社

心の贅肉がそぎ落とされるということ

b0189364_16341856.jpg 以前、『行 〜比叡山 千日回峰〜』というタイトルのNHK特集で、比叡山に千日回峰という修行があり、それを達成した酒井雄哉阿闍梨が紹介されていたが、実は同様の修行は、大峰山にもある。しかもこちらの方が過酷らしい。
 あのNHK特集を若い頃見た一人の若者が、自分もこの行をやってみたいと思い、過酷な方の大峰山を選ぶ。そして高校卒業後、資金集めのアルバイトを1年間やった後、吉野の金峯山寺(きんぷせんじ)に入り出家する。ここまでの話を聞くと、出家者というよりまるで冒険家である。それが本書で対談している塩沼亮潤で、その後、通常の修行期間を経て、百日回峰行、やがて千日回峰行に入る。
 千日回峰行は、48kmの山道を1000日間歩き通すという修行で、1年のうち120日間(山が開いている期間)、台風だろうが山崩れだろうが毎日行を続けなければならない。これを9年間続ける。したがって晴天時の山歩きをイメージしていてはいけない。晴天時でも毎日長距離を歩くとなると、身体のあちこちに問題が出てくる。この修行はそういうことを踏まえて、修行者に人間の極限に迫ることを強いるという行なのではないかと思う。この本で、かなり具体的に修行の内容が紹介され、どのような危険に遭遇したか、何がつらいか、修行者自身にどのような変化が起こるかなどについて細かく語られる。
 聞き手は、禅僧の板橋興宗という人で、この大峯千日回峰行を達成したという塩沼亮潤の話を聞き、面会を申し出たというのがそもそもの出会いの始まりらしい。最初から最後までずっと対談形式だが、修行を達成した塩沼亮潤・阿闍梨(あじゃり)が相当細かい内容まで語るため、修行についてかなり詳しく知ることができる。また当初の痛い・辛いという感覚から、行を重ねるごとに、次第に感覚が研ぎ澄まされ、自分の中の迷いが徐々に消えていく過程についても詳しく語られる。心の贅肉がそぎ落とされているとでも表現したら良いのか、煩悩が落ちるというのはこういうことなのだというのが伝わってくる。
 なおこの阿闍梨、千日回峰行の後、四無行と八千枚大護摩供も成し遂げている。四無行というのは、9日間、断食・断水・不眠・不臥(食べない、飲まない、寝ない、横にならない)という修行で、比叡山の堂入りと同様の修行である。NHK特集では、これにカメラで迫るという偉業を行っていたわけだが、それについて当事者側の観点で語られるというのが本書である。千日回峰行にしても四無行にしても、行者の内面がどんどん変わっていく様子が大変興味深く、これが悟りということなのだと実感できる。
 行の話の後、現代の生きづらさについても、修行を終えた身の視点で語られる。辛さと向き合ってそれを「出会い」と捉えるというスタンスは非常に興味深い。辛い修行を達成した阿闍梨の口から語られる内容だけに力強い説得力がある。生きづらさを感じている人も同様の修行をして人間の限界を感じたら良いのではなどと、本書を読んで感じたのだった。なおこの塩沼阿闍梨、幼少時はかなり貧しく、かなり無茶苦茶な生活を送っていたようだ(ただそれを苦にしていた様子はない)。こういう幼少期の話も、彼の説法の説得力に繋がっていると思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『行 〜比叡山 千日回峰〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『NHK特集 永平寺(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-12-11 07:33 |

『西園寺公望 最後の元老』(本)

b0189364_21075814.jpg西園寺公望 最後の元老
岩井忠熊著
岩波新書

1人の有力政治家の視点で
日本近現代史を俯瞰する


 歴史を勉強しようと思うと、最初はどうしても教科書的な素材を探すことになる。日本の近現代史についてもしかりであるが、しかし、なぜ大日本帝国が英米戦という暴挙にのめり込んでいったかというその過程がなかなか見えてこないという現実がある。教科書の限界である。そこで今回少し変わったアプローチを考えた。つまりは『応仁の乱』風のアプローチで、要するにある当事者の視点から、その同時代の歴史を捉えようという試みである。
 で、いろいろ物色したところ、西園寺公望が適任ではないかという結論に達した。というのも、西園寺という人は、若い頃フランスに長期に渡りとどまっていたこともあり、当時としては非常に開明的で自由主義的なものの見方をする。現代人に近いと言える。そのため、我々が西園寺の視点に立ってもまったく違和感がない上、そういう人間が軍部の暴走をどのように見ていたかは大いに参考になる。しかも西園寺は、幕末からほぼずっと政権中枢に関わっており、首相も2回経験している上、その後は天皇の側近としての役割である「元老」の職に就き、首相の指名に大いに影響力を発揮している。したがって西園寺の歴史イコール日本の近現代史と言っても過言ではないという、その程度の力はあったわけである。
 実際、大陸への覇権拡大、日中紛争の拡大、軍部の台頭に対して反対の立場を取り続けていることが本書からわかり、西園寺の求心力の低下に伴って、政党政治の瓦解、軍部の暴走が進んでいくという印象を持つ。ちなみに、本書が底本にしているのは西園寺公望の秘書を務めてきた原田熊雄の手記『西園寺公と政局』である。西園寺自身が、自分の伝記や評伝を一切拒否しており、資料も処分するよう遺言しているため、記録は乏しいが、側近である原田の記録が、西園寺の考え方、行動をかなり正確に捉えているということらしい。著者自身も、戦後まもなくの1950年に、当時刊行されたこの本を初めて読んで驚いたらしい。国民が政治過程を知らされていなかったことを痛感し、同時に西園寺が「大陸への新たな侵略戦争と軍部の政治的台頭に反対し、国際協調と平和を求めたことには、考え及ばなかった」(本書「あとがき」より)と感じたということである。
 本書で見る限り、日本をファシズムに走らせた最大のターニングポイントは、張作霖爆殺事件の首謀者を正しく処分しなかった田中義一内閣の時代だったと思える。田中義一はこの件について昭和天皇から叱責を受け、そのショックで翌年死んでしまったらしいが、しかしその責任は大きい(昭和天皇自身も田中の死で自分の責任を感じ、以後政局に口出ししないことにしたという。これも軍部の暴走を助長する結果になった)。ましてやこの田中義一内閣が、「憲政の常道」と言われていた時代の政党内閣であったことも大きい。問題の根源についてきっちり総括せず野放しにすることが、どれほど危険かよくわかろうと言うものだ(今の内閣にも通じる問題である)。
 また軍部、特に陸軍に大幅に譲歩した広田弘毅内閣、近衛文麿内閣にも大きな問題があったことは今さら言うまでもない。この辺は東京裁判でも明らかになっている。ただ、東京裁判は以前も書いたように、裁判というのも恥ずかしいぐらい、非常に政治的で恣意的なものである。もちろん、それまで隠されていたさまざまな事実を明らかにするという役割は果たしているが。先の愚かな戦争について真の意味で総括すべきなのは、現代日本に生きる我々一人一人なのではないかと感じる。そういう点で、陸軍の暴走軍人は言うまでもないが、田中義一、広田弘毅、近衛文麿が政治家として責任を負うべき存在なのではないかという結論を個人的に出したいと思う。もちろん、1920年代、30年代の政党が、ライバル政党に打撃を与えるためと言え、統帥権干犯などの愚かな議論を巻き起こしたり、利益誘導や腐敗の問題で有権者の不信を招いたことも大きい。しかも国民の多くも日中戦争や太平洋戦争の戦局拡大で狂喜乱舞していたというんだから、政治家や軍人だけではなく、多くの庶民、そしてそれを煽ったマスコミすべてが責を負うべきという結論になる。愚かな国民の元では愚かな政治体制しか生まれないということになるわけで、西園寺が晩年語ったという「いろいろやって見たが、結局、人民の程度以上にはならなかった」というところに結局落ち着く。これは、現代社会にもそのまま当てはまるんだから困ったもんである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『昭和史 1926-1945(本)』
竹林軒出張所『幕末史(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第1巻、第3巻、第4巻(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第2巻(本)』
竹林軒出張所『応仁の乱(本)』

# by chikurinken | 2017-12-09 07:07 |

『光圀伝 (上)(下)』(本)

光圀伝 上
冲方丁著
角川文庫

徳川光國と『水戸黄門』は別もん

b0189364_19005985.jpg 『天地明察』の作者による『天地明察』スピンオフ小説。『天地明察』で特異なキャラとして登場した徳川光國にスポットを当てた伝記小説である。
 本来であれば長子が世継ぎになるべきところを次子である光國が継いだため、光國本人はその継嗣に「義」がないのではないかとずっと悩み続ける。若い頃はそのためにぐれて、無頼を働き、あげくに何の咎もない無宿人を殺すことになる。そのときに立ち会っていた宮本武蔵らに大きな影響を受け、やがて自身の義を見つけ出して、徳川御三家の水戸藩を継承するというストーリー。義をストーリーの中心に置き、義を巡って登場人物たちを動かしていくという趣向は面白い。
 この著者の特徴はキャラクターの描き方がうまいことで、『天地明察』同様、この小説でも、光國はじめ、正妻の泰姫、兄の頼重ら魅力的な登場人物が目白押しである。宮本武蔵や沢庵和尚まで出てくるのは少々行き過ぎのようにも思えるが、エンタテイメントなんだから良しとする。また、『天地明察』の主人公、渋川春海も登場し、『天地明察』と同じようなシーンが出てくる。同じシーンを光國側からの視点で描いているわけで、別の小説で異なった視点から1つのシーンを描くという趣向は斬新で、面白い。
b0189364_19010415.jpg 他にもテレビドラマ『水戸黄門』でお馴染みの佐々木助三郞、渥美格之進のモデルである佐々宗淳介三郎と安積澹泊覚兵衛も登場。風車の弥七やうっかり八兵衛は当然のことながら出てこない(あれはドラマのキャラ)。黄門様が助さん格さんを引き連れて諸国を漫遊するというネタは、佐々宗淳らが、光國の畢生の事業である『大日本史』の資料集めのために全国を旅したことから起こったものだそうだが、この小説で語られる徳川光國、佐々、安積のイメージとはほとんど重なる部分がない。そのあたりに逆に面白さを感じる。
 また『天地明察』でもそうだったが、当時の時代背景が丁寧に描かれるため、(著者の解釈による)当時の空気が非常によく伝わってくる。歴史がよく描かれていると言うべきか。こういった点もこの小説の大きな魅力である。
 文庫本で上下2分冊、計1000ページに及ぶ大著だが、シーンが目に浮かぶような映像的な表現が巧みで、またエンタテイメント的な話の運び方のせいか、読むことはまったく苦にならない。儒学関連の少々難しい事項も出てくるが、すんなりと頭に入るため、どんどん読み進めることができる。ただし、題材のせいかスピンオフだったせいかわからないが『天地明察』ほどのキレはないと感じる。それでも著者の筆力のせいで、途中読むのをやめられなくなる。歴史好きにはたまらない本ではないかと思う。
第3回山田風太郎賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『天地明察 (上)(下)(本)』

# by chikurinken | 2017-12-07 07:00 |

『島の命を見つめて 豊島の看護師・うたさん』(ドキュメンタリー)

島の命を見つめて 〜豊島の看護師・うたさん〜(2015年・RSK)
メッセージ RSK地域スペシャル

日本全国の未来予想図

b0189364_20263799.jpg かつて産廃の不法投棄で揺れに揺れた瀬戸内海の豊島。その後、産廃問題は一応の決着を見て、現在では芸術の島として観光客を集めているらしいが、一方で急速に進行しているのが過疎の問題である。島の人口はいまや900人、その多くは高齢者で、日本の高齢問題の縮図のような様相を呈している。
 学生時代そんな豊島に産廃問題の調査で訪れた小澤詠子さん(通称うたさん)という女性が、豊島をいたく気に入り、その後住み続けるようになった。同時に、お世話になった老人たちの役に立ちたいと考え、その後看護師の資格まで取った。現在では豊島に居住しながら、島のお年寄りたちの医療ケアを担当している。
 島では週5日、小豆島の病院から医師が通い、診療所が開いている。診療所が開いている間、うたさんは医療行為に当たっているが、診療時間が終わった後は、島のあちこちを巡って一人暮らしの老人たちの家を訪問する。老人たちに変わった様子がないか確かめるためである。それでも、高齢化が進んでいるこの島では、老人が死んでいきいなくなるという現状がある。そのため、島の住民にとって死は非常に身近である。そういうこともあってか、超高齢の老人たちの中には、早く死にたいなどと真顔で口にする人もいる。うたさんは「この島は生きあい死にあう場所」と語る。
 現在、出張医療は週5日行われているが、これも病院側の経費の問題もあって、週2〜3回に減らされる可能性があるらしい。いつも出張で豊島に来ている医師は、このような現状を「医療崩壊の縮図」と言う。地方の医療が切り捨てられる現状がここにあり、全国の医療問題をこの地が先取りしているということなのだ。
 過疎、医療、介護などのさまざまな問題が凝縮したこの地域で、今も医療に関わるうたさんらの医療関係者は実に見上げたものだが、やがて日本全土でこういった状況が出てくると思うと、無力感ばかりが漂う。実際これはかなり由々しき事態なのではないだろうか。少子高齢化のなれの果てということになるのか。
 声高に叫びはしないが、強烈なメッセージを発するドキュメンタリーで、その価値を物語るように数々の賞を受賞している。僕自身も受賞作品ということで注目したのであるが、そういった賞に値するだけの素晴らしい秀作ドキュメンタリーであると感じた。
「地方の時代」映像祭2016グランプリ、ギャラクシー賞報道活動部門大賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『秩父山中 花のあとさき ムツばあさんの秋(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『地方発ドキュメンタリー(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-12-05 07:26 | ドキュメンタリー

『龍馬 最後の30日』(ドキュメンタリー)

龍馬 最後の30日(2017年・NHK)
脚本:相沢友子
出演:新井浩文、伊藤淳史、宇梶剛士、苅谷俊介、筒井道隆
NHK総合 NHKスペシャル

b0189364_20154270.jpg安いドラマ

 坂本龍馬が、暗殺される1カ月前に福井藩家老、中根雪江に出した手紙が発見された。それに基づいて、坂本龍馬が暗殺されるまでの1カ月間に何をしていたか、なぜ暗殺されたかについて大胆に推測し、ドラマ化したのがこの番組。
 端的に言ってしまえば、坂本龍馬が薩摩、長州、幕府を合体させ、あわせて福井藩主、松平春嶽をトップに据えて、新しい合議体制を作ろうと奔走していたということで、それを土佐藩主、山内容堂が不快に思い、龍馬の暗殺を指示したという内容である。しかもその計画には、坂本と一緒に殺された中岡慎太郎も一枚絡んでいたという。
 事実はまだ判明していないので話半分で見れば良いわけだが、どうも幕末史の世界では、坂本龍馬を必要以上に持ち上げる風潮があって(おそらく司馬遼太郎の『龍馬がゆく』以来の風潮なんだろうが)、このドラマも同じように、坂本龍馬が近代政治を見据えていたかのような扱いになっている。そういう点で、少々あほくさく感じてしまう。もういい加減、龍馬礼賛をやめたらと思うのは僕だけか。
 また、この番組で龍馬が構想したとされている体制は、明治政府で当初から採用されており(ただし総裁は松平春嶽ではなく、その後たびたび制度は改変される)、明治政府の中心的な人々のいわば共通理解だったと考えることもできる。これを龍馬が先取りしていたと見なすのはどうかと思う。
 全編ドラマ仕立てで、NHKスペシャルとしては珍しい構成だが、こういった人気者を素材に使うと視聴率が集まるんだろうなーなどと考えながら見ていた。ただ、坂本龍馬役の新井浩文が何だかパッとせず、随分、華のない龍馬になってしまった。
 この番組もそうだが、最近のNHKスペシャルは当たり障りのないものばかりになってきて、実につまらなくなった。現政権のNHKに対する圧力が功を奏したのかと勘ぐってしまう。
★★★

参考:
竹林軒出張所『幕末史(本)』

# by chikurinken | 2017-12-03 07:15 | ドキュメンタリー

『総書記 遺された声』(ドキュメンタリー)

総書記 遺(のこ)された声 日中国交45年目の秘史(2017年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

b0189364_18283409.jpg胡耀邦の足跡

 1980年代に中華人民共和国共産党の総書記に収まっていた胡耀邦は、作家の山崎豊子と3回に渡って対談しており、その様子が録音されたテープが残っていることが判明した。その録音から、胡耀邦の人となり、思想を探っていこうという歴史ドキュメンタリー。
 胡耀邦は、鄧小平の改革開放路線を踏襲し、中国経済の発展に尽くし、同時に国内の民主化にも尽力した。しかし保守派の元老から批判を受け、1986年に失脚。国内の「過剰な」民主化と親日的な政策が保守派の反感を買い、その責任を取らされたということである。やがて1989年に心労がたたったせいか死去するが、その民主的な態度が若い世代に評価されていたためか、各地で学生による胡耀邦追悼集会が行われ、中でも天安門前広場では10万人が集まった。やがて集会は民主化要求運動へと転換していき、これに不安を感じた当局は武力で弾圧することに踏み切る。これが(中国では存在しないことになっている)世に言う天安門事件である。以後、中国は急速に反民主化路線に舵を切り、国内の愛国教育を重視する方向に転じていく。結果、戦時中の日本軍の行動に対する敵意を若い世代に植え付けることになったのが、その後の中国の反日機運の高まりに繋がっていった。その意味で胡耀邦の死というのは、日中関係史において1つの画期だったとも言える。
 胡耀邦自身は、若い頃、文化大革命で若者に「走資派」というレッテルを貼られ、つるし上げられて自己批判させられ、しかもその後、農村で労働生活に従事させられたという。このような苦労人であるだけに、人格的にも思想的にもバランスが取れていた御仁のようだが、そういう人が保守勢力に潰されてしまうというのは、世界中でよく起こる話。とは言え、胡耀邦体制がそのまま10年、20年単位で続いていたら、中国政府の有り様も日中関係ももっとまともになっていたことが考えられるし、北朝鮮問題も解決していた可能性がある。それだけに彼の死は、東アジア全体にとっても画期であったと言えるのではないか。
 彼が残した言葉が奮っている。「愛国主義を提唱しているのに世界各国の人々に友好的でないなら、これは愛国主義とは言えません。国を誤るという「誤国思想」「誤国主義」です。皆さんには「誤国主義」を防いでほしいと思います」。日本にもはびこる愛国バカに聞かせてやりたい。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『中国はなぜ「反日」になったか(本)』
竹林軒出張所『家族と側近が語る周恩来 (3)(4)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『文化大革命50年 知られざる“負の連鎖”(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-12-01 07:28 | ドキュメンタリー

『日中“密使外交”の全貌』(ドキュメンタリー)

日中“密使外交”の全貌 〜佐藤栄作の極秘交渉〜(2017年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル

日中国交正常化の「裏」話

b0189364_18184717.jpg 1972年、発足したばかりの田中角栄政権が中華人民共和国との間で電撃的に日中国交正常化交渉を行い、日中共同声明で国交正常化を実現した。
 これまで田中角栄政権単独の業績だとばかり思われていたが、実はその前の佐藤栄作政権から正常化交渉は始まっており、ゴールに近づいていたが、佐藤栄作が首相を退任したため、後の政権に(事実上)引き継いだというのが真相だ、とするのがこのドキュメンタリー。考えてみれば発足して2カ月の政権が、ずっと難題だった外交交渉をいきなりまとめ上げるなどということはできるはずもなく、十分に納得できる話ではある。
 このドキュメンタリーでは、さまざまな手がかりを元に、その情報源を探り出し、当事者にインタビューを試みて、真相を探ろうとする。ちょっとしたミステリー風の構成になっており、スリリングである。
 で、判明した事実は、佐藤栄作首相が極秘裏に(党内に「親中華民国、反中華人民共和国」という政治家が多かったため)、江鬮真彦(えぐちまひこ)という中国政府要人とコネのある人間を香港に派遣し、大陸中国との交渉をすでにかなりの段階まで進めていたということである。実際、この江鬮氏の活動は、佐藤首相の親書を周恩来首相に送るというレベルにまで進んでいた。紆余曲折の末、中国政府もこれに応え、いよいよ正常化交渉が始まりそうという段階になって、佐藤が退陣を決めたため、次の政権担当予定者である福田赳夫にこの仕事を引き継いだというのが真相らしい。ところが次期政権を取ったのは福田ではなく田中角栄だったため、話が少々ややこしくなる。ただ田中派の人間も同じ時期に中国政府要人と会って交渉していたらしいので、中国側は実際のところさまざまなパイプを使って日本側との関係を模索していたというのが実情のようだ。財界が長年かけて中国との間にパイプを構築してきたのも周知の事実で、佐藤政権の活動もそういった関係改善活動の一つだったということになる。とは言うものの政権担当者が実際に動くことで、関係改善が一気に進展するということも十分想像が付くところである。そういった点で、佐藤政権の対中活動も評価に値すると見ることができる。
 結論はあまりセンセーショナルではないが、謎を探っていくという見せ方が非常にうまく、しかも妙にケレンに走ったりすることもなく、我々の取材の結果を見てくれという非常に正攻法な見せ方が印象的であった。2時間弱の番組だが、途中で飽きることもなく、ドキュメンタリー番組として非常に質が高いと感じた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『日中外交はこうして始まった(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『家族と側近が語る周恩来 (3)(4)(ドキュメンタリー)』

# by chikurinken | 2017-11-29 07:18 | ドキュメンタリー

『健さん』(映画)

健さん(2016年・ガーデングループ、レスぺ)
監督:日比遊一
出演:マイケル・ダグラス、マーティン・スコセッシ、ポール・シュレイダー、ジョン・ウー、降旗康男、澤島忠、山田洋次(ドキュメンタリー)

b0189364_20161530.jpg高倉健の追悼映画

 高倉健の追悼ドキュメンタリー映画。生前、高倉健と交流のあった人々によって、高倉健に対する賛辞やエピソードなどが語られ、それをつないだ作品である。
 登場する人々は、マイケル・ダグラス(『ブラック・レイン』で共演したハリウッド・スター)、マーティン・スコセッシ(個人的に付き合いがあったそうだ)、ポール・シュレイダー(『ザ・ヤクザ』の脚本家、『Mishima』で高倉健を起用する話が進んでいたが高倉周辺の反対で結局破談になった)、ジョン・ウー(『君よ憤怒の河を渉れ』のリメイク版を製作中)、降旗康男(『駅 STATION』などの監督)、山田洋次(『遙かなる山の呼び声』などの監督)などの映画製作者や、梅宮辰夫、八名信夫、中野良子らの俳優、高倉の実の妹、元付き人ら。最初、『単騎、千里を走る。』で高倉健と共演していた中国人俳優がさも案内役であるかのように登場するが、その後、所々に出て来はするものの、「案内役」は立ち消えになったかのように存在感が薄くなってしまう。
 高倉健のフィルモグラフィみたいなものが出てくるわけでなく、高倉健がどんな素敵な人だったかとか、プロ意識が高かったとか、賛辞ばかりが語られるドキュメンタリーで、少しもの足りないが、好きな人が見る分にはこれで良いんじゃないでしょうかという内容である。
 意外だったのは、八名信夫によって語られる「高倉健が現場に始終遅刻してきた」というエピソードで、遅刻するような役者が周囲にいたら「それはちょっと違うんじゃないすか」ぐらいのことを言いそうなイメージが高倉健にはあったが、当の本人が、朝が弱かったということで遅刻が多かったらしい。ただし「高倉健」ということで、現場では概ね許されていたらしいが。
第40回モントリオール世界映画祭ワールドドキュメンタリー部門最優秀作品賞受賞
★★★

参考:
竹林軒出張所『追悼 高倉健』
竹林軒出張所『駅 STATION(映画)』
竹林軒出張所『遙かなる山の呼び声(映画)』
竹林軒出張所『単騎、千里を走る。(映画)』
竹林軒出張所『昭和残侠伝 唐獅子牡丹(映画)』
竹林軒出張所『ザ・ヤクザ(映画)』
竹林軒出張所『君よ憤怒の河を渉れ(映画)』
竹林軒出張所『中国10億人の日本映画熱愛史(本)』

# by chikurinken | 2017-11-27 07:16 | 映画

『駅馬車』(映画)

駅馬車(1939年・米)
監督:ジョン・フォード
原作:アーネスト・ヘイコックス
脚本:ダドリー・ニコルズ
音楽:ボリス・モロス、リチャード・ヘイグマン、W・フランク・ハーリング、ジョン・レイポルド、レオ・シューケン
出演:ジョン・ウェイン、トーマス・ミッチェル、クレア・トレヴァー、ルイーズ・プラット、ジョン・キャラダイン

b0189364_17302402.jpg西部劇の見本

 ジョン・ウェインの出世作で、西部劇の見本みたいな映画。
 インディアン(先住民)アパッチ族のジェロニモが、入植者に対して反乱を起こしたという設定の時代背景である。ローズバーグという町に向かう定期乗合馬車は、途中、ジェロニモが出現する地域を通過するため、運行するかどうか危ぶまれるが、結局出立することになる。途中まで騎兵隊が警備することになるが、途中から任務のために帰還するということで、乗合馬車の単独行になる。馬車に乗り合わせた人々は、それぞれ背景を持ち、互いにさまざまな感情を持っていて、いろいろ揉めたりするが、そういった状況でついにインディアンの襲撃に遭う……という映画。
 何より、乗合馬車の乗員とインディアンが闘うシーンが出色で、映画史の中でも圧巻のシーンである。ストーリー自体は『荒野の決闘』『黄色いリボン』を合わせたようなもので、今となっては意外性はあまりないが(ちなみにこちらがオリジナル)、割合凝ったプロットになっていて、最後はなかなか心地良さが残る。
 ただし映画では、馬車に乗り合わせる賭博師ハットフィールドの正体が最後までよくわからず、何だかモヤモヤが残る。また、同じく乗り合わせる銀行家ゲートウッドの行動にもあまり必然性を見出せなかったが、もう少し説明が必要だったのではないかと思う(原作ではしっかり描かれているようだ)。
 元々、主人公のリンゴにゲイリー・クーパー、ヒロインのダラスにマレーネ・ディートリヒを当てる予定だったが、低予算だったためにまだ売れていないジョン・ウェインとクレア・トレヴァーが割り当てられたという(Wikipedia情報)。結果的にジョン・ウェインはこの映画で大当たりし、ハリウッド映画に欠かせない存在になったというのも皮肉なものである。
 今回見たのは、BSで放送されたものだったが、画面の揺れなどもなくモノクロ画像が非常にきれいだった。おそらくデジタルリマスター版だったのではないかと思われる。
1939年アカデミー賞助演男優賞、作曲・編曲賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『荒野の決闘(映画)』
竹林軒出張所『黄色いリボン(映画)』
竹林軒出張所『リオ・グランデの砦(映画)』
竹林軒出張所『タバコ・ロード(映画)』

# by chikurinken | 2017-11-25 07:30 | 映画

『地獄変』(映画)

地獄変(1969年・東宝)
監督:豊田四郎
原作:芥川龍之介
脚本:八住利雄
音楽:芥川也寸志
出演:中村錦之助、仲代達矢、内藤洋子、大出俊、下川辰平、内田喜郎

文芸作品を映画化することの意味について考えたい

b0189364_18284478.jpg 芥川龍之介の『地獄変』を映画化したもの。
 原作に忠実ではなく、あちこちに改変が加えられており、総じて現代的な解釈である。たとえば、大殿様(藤原道長がモデルのようだ)の元に側室として引き取られた女(主人公の絵師の娘)の元許嫁が、盗賊団に入って大殿の屋敷を襲うみたいなプロットがあるが、作りすぎであり、この映画版『地獄変』でもはたして必要なプロットなのかというような疑問が残る。こういうような部分があちこちにあり、そういうことを考え合わせると、あまり良い映画化とは言えない。
 もっとも、この映画で展開される大殿、中村錦之助と絵師・良秀、仲代達矢の数々の激突は、両者の名演技のために、なかなかの見物になっている。中村錦之助と仲代達矢は、仲代達矢の話によると、酒の席でときどき芸論から大げんかになったような(親しい)関係らしく、両者の演技にその種類の親密感と迫力は感じられた。ただし、映画自体のテンポがあまり良くないせいもあって全体的にまだるっこしく、目が離せなくなるような展開は少ない。そのため面白さを感じる部分はあまりなかった。
 原作自体短編であることだし、この映画を見るなら原作を読んだ方が良いというのが僕の結論である。もっとも日本版のDVDは出ていないんで見る機会自体少ないだろうが。
★★★

参考:
竹林軒出張所『役者なんかおやめなさい(本)』
竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』
竹林軒出張所『コミックストーリー 日本霊異記(本)』

# by chikurinken | 2017-11-23 07:28 | 映画

『3人家族』 (1)〜(13)(ドラマ)

3人家族 (1)〜(13)(1968年・木下恵介プロ、松竹、TBS)
演出:木下恵介、中川晴之助、川頭義郎、横堀幸司
脚本:山田太一
出演:竹脇無我、栗原小巻、あおい輝彦、沢田雅美、三島雅夫、賀原夏子、中谷一郎、菅井きん、遠藤剛、川口恵子、矢島正明(ナレーション)

ザ・ホームドラマ!

b0189364_15514432.jpg 12年ぶりの『3人家族』。
 前回見たときの印象は以前書いたが(竹林軒出張所『「3人家族」と「二人の世界」(ドラマ)』を参照)、今回見てみて、改めてその面白さに感心。キャラクターがどれも魅力的で、いかにもホームドラマという優しさ、安心感がある。ド派手な事件はなく、単に2つの家族の日常が描かれるだけだが、しかし我々見る方の現実というのは概ねそういうものである。これこそがリアリティというものだ。ただ、偶然が多いのが少々難点で、主人公の男女の偶然の出会いはまだしも、それぞれの弟と妹が偶然出会うということになると、ちょっと無理がある。いくら双方の家族が横浜に住んでいるとしてもだ。ただこれがないとストーリーが成り立たなくなるので、致し方ないといえば致し方ないわけだが。
 それからナレーションがかなりしつこく入ってくるのが、今の感覚からいくと古臭く感じるが(NHKの朝のドラマではいまだにやっているが)、テレビ番組に対する視聴者の集中度が低いことから、意図的に入れたということらしい(竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1 続き(補足)』を参照)。ナレーションを担当するのは矢島正明で、これは『逃亡者』を意識してのことである(これも脚本家が語っている)。
 メインのプロットは、主人公の美男、雄一(竹脇無我)と美女、敬子(栗原小巻)の恋愛で、そこに男の仕事、女の結婚などが絡んでくる。同時に他の家族の生活も絡んできてそれがサブプロットになる。すべてが自然に展開するので、わざとらしさがまったくない。大変よくできたドラマである。雄一は、仕事でのし上がるために女と付き合ってなんかいられないなどとうそぶいているのだが、敬子の余りの美貌に心が揺れ動いてしまう。ま、相手が栗原小巻なら当然だろう。そのくらい栗原小巻が美しい。また演技も自然で素晴らしい。演技について言えば、どの出演者も一流で、演技していることを意識させられることが一切ない。あおい輝彦が演じる弟、健(たけし)がまた非常に魅力的な登場人部で、現在自宅浪人中だが、家事全般を引き受けていて、家族に対し食について小姑みたいに細かいことを言ったりするが、少々ボーッとしたところもあって、周囲を明るくする。画面に出てくるのが楽しみになるようなキャラクターで、栗原小巻の美貌とあわせてこのドラマの大きな魅力になっている。竹脇無我のクールさが、この弟と好対照をなしているのも良い取り合わせである。好対照と言えばもう一方の家族の妹、明子(沢田雅美)も敬子と対照的で、きわめて現実的な存在であり、コントラストが効いている。名優の三島雅夫、賀原夏子、菅井きんについては今さら言うまでもない。
 他にも画面に登場する、4本足テレビとか編み機とか魔法瓶とかの調度品が非常に懐かしい。電話が引けたと言って喜んでいるような情景も懐かしさを感じる。そういう懐かしさもあって、見ていて暖かい気持ちになるんだろうかとも思う。いつまでも見ていたくなるような優しいドラマである。
 せっかくなので、ストーリーを簡単にまとめておこうと思う。

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柴田家(3人家族)
父:耕作(三島雅夫)
長男:雄一(竹脇無我)
次男:健(あおい輝彦)

稲葉家(3人家族)
母:キク(賀原夏子)
長女:敬子(栗原小巻)
次女:明子(沢田雅美)

第1回
b0189364_15515268.jpg 商社の通信部勤務のサラリーマン、雄一が、電車の中で何度か美女、敬子に目を留める。雄一の弟は自宅浪人、父は定年間近であるが先日課長に就任という、男ばかりの3人家族。
 雄一は営業部への配転を希望、同時に会社の留学試験に受かって海外赴任するという夢がある。そのために日夜勉強の日々。ただしこの制度、独身が条件ということで雄一は「女なんか眼中にない」と自分に言い聞かすように言う。そんな雄一だが、ある日帰りに路上でまたまた敬子を見かけ、会釈を交わす。また別の日、出先のレストランでも顔を合わす。雄一は運命的なものを少し感じる。

第2回
 健が近所の祭り囃子に参加。同じく参加している元同級生の女の子(洋子)目当てである。雄一は、勉強を優先すべきですぐに辞めるよう叱る。兄は堅物で実力主義で、健はそのことを批判する。
 一方、敬子の家族。妹と母との3人暮らしであることがわかる。敬子も雄一のことが気になっている。雄一も敬子のことが忘れられない。

第3回
 霞ヶ関インフォメーションセンターに勤務する敬子に、強引に迫る男の客が現れる。写真家の沢野(中谷一郎)で、突然敬子を食事に誘う。
 健は結局、父の勧めで祭の宵夜に行く。その夜酔っ払って「洋子さーん」などと叫ぶ。翌日家政婦(菅井きん)が臨時で呼ばれる。この家政婦、少々出しゃばりで見舞いに来た洋子と健を取り持とうとするが、洋子の方はつれない。
 一方、沢野はたびたび敬子を誘う。夜、帰りの電車で雄一と敬子、再び顔を合わせる。

第4回
 雄一の家に旧友が彼女を連れてきて、婚約したと言う。「俺は今それどころではない」と自分に言い聞かせる雄一。
 例の家政婦が仕事でもないのにまた柴田家にやってくる。柴田家が気に入ったようだ。

第5回
 朝の満員電車で雄一と敬子が出会う。いきなり体が接するぐらい近くになり、軽く口を利く。ところが駅を出たとたん、雄一は気のないそぶりで敬子を残して去っていく。「女と付き合っていてはいけない」という考えのためだが、敬子はかなりムカッとする。

第6回
 雄一を忘れようとする敬子。一方、「付き合っていてはいけない」と思いつつ敬子のことが頭から離れない雄一。
 予備校の後期課程に申し込みに行った健が、同じく申し込みに行った明子と出会って、意気投合する。日曜日に江ノ島に行こうという話になる。同じ日、雄一は留学試験。

第7回
 健と明子のデートに、敬子もやってくる。健は敬子の美しさに参ってしまい、写真をとりまくる。明子は不機嫌。敬子は2人に気を利かせて、その場を去り、鎌倉の昔の友人に会いに行く。その友人から結婚、子育てで気が滅入っていると聞かされる。「よほどいい人じゃないと結婚しちゃダメ」などと言われる。

第8回
 柴田家に電話が引ける。
 健、江ノ島で撮った敬子の写真を兄に見せる。写真を見て驚く雄一。「誰だ、この人は」と言ったまま、外に出て行く。動揺を隠せない。

第9回
 引けた電話がやっと開通して、健はうれしい。父の職場、兄の職場に用もないのに電話をかけて、顰蹙を買う。その後、雄一が家にかけ直し、ついでを装って、敬子の名前や職場を聞き出す。
 その後、雄一が敬子の職場に「健の兄」として電話し、デートの約束を取り付ける。やっと2人でデート。喫茶店で会って食事し、同じ電車で帰る。言葉少なではあるが、心地よさを感じる2人。

第10回
 敬子はその後雄一をデートに誘うが、雄一は忙しいということで断る。一度は会わないことにした雄一だが、敬子の妹の明子からたきつけられるようにして、再び敬子を食事に誘う。その席で、今は結婚できないなどと語って敬子の反感を買う。
 沢野の元恋人が敬子の職場にやってきて、嫌がらせをする。その後、付き合っていた男2人とも(つまり雄一と沢野)失ったような気がして味気なさを感じる敬子。だが、沢野はその後も敬子の元にやってきた。

第11回
b0189364_15514862.jpg 健は、クリスマスにかこつけて洋子に告白するが体よく断られてしまう。その後、明子から自宅のクリスマス・パーティに誘われ、傷心の状態で赴く。兄の雄一も誘われたが、仕事の付き合いで行けない。敬子はガッカリする。一方で沢野から高価な花が敬子の元に届く。
 後で雄一は、健からその話を聞いて、心が動く。沢野は敬子に再び会いに来て、真剣に付き合いたいと言う。

第12回
 敬子が雄一をお茶に誘う。結婚について話をする。
 雄一、一次試験に合格する。

第13回
 二次試験の準備で勉強に邁進する雄一。敬子とも会わず。敬子の方は何だかモヤモヤする。そういう折に、13年前に失踪した敬子の父親が母親に会いに来る。母親は怒って追い返すが、敬子の職場にも顔を見に来る。敬子は結局会わず。

 続きは、また機会がありましたら。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『「3人家族」と「二人の世界」(ドラマ)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1 続き(補足)』
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』

# by chikurinken | 2017-11-21 06:50 | ドラマ

『グッドバイ・ママ』(1)〜(11)(ドラマ)

グッドバイ・ママ (1)〜(11)(1976年・TBS)
演出:堀川敦厚他
脚本:市川森一、桃井章
出演:坂口良子、篠田三郎、平幹二朗、宇野重吉、北林谷栄、岡田裕介、大門正明、柴俊夫、渡辺篤史、中条静夫、伊東四朗、范文雀、下條アトム、岸部修三、風間杜夫

イタイ主人公に辟易

b0189364_18450751.jpg ジャニス・イアンの「Love is Blind」が流れるタイトルバックが印象的だった40年前のドラマ。タイトルバックは、母親役の坂口良子が娘役の女の子の手を引いて小田急線の踏切(小田急線梅ヶ丘駅近くだそうな)を通る場面をロングショットで捉えるというもの。僕は放送時このドラマをほとんど見ていないが、このシーンだけはかなりはっきりと憶えていた。もちろんテーマ音楽も。
 主人公は子連れの未婚の女性、あざみ(坂口良子)で、再生不良性貧血(ドラマでは「血液再生不全」と表現されている)のために余命半年の宣告を受ける。自分が死ぬ前に3歳の娘、のり(大岩紀)を何とかしなければならないと奔走する、という話。当初は主治医(平幹二朗)の勧めに従って養子に出すことを考えていたが、結局踏み切れず(このあたりはまだわかるが)、そのうち結婚相手を見つけ出しその男に娘を託そうということで、結構手当たり次第に周りの男にアプローチしていく。アプローチされた男たちは、あるいは地方に転居(同僚の2人、篠田三郎と大門正明)、あるいは破滅(近所の知り合い、岡田裕介と風間杜夫)、あるいは死亡(ご近所のヤクザ、柴俊夫)と結果的に人生ムチャクチャにされる。上司(中条静夫)などは、あざみが誘惑したせいで離婚の危機に陥ると来ている(その後どうなったかは描かれていない)。しかもお世話になっていた老夫妻(宇野重吉と北林谷栄)にまで、(結果的にだが)ひどい目に合わせ、博多に転居させることになる。周りの人間を(無意識にではあるだろうが)次々に不幸に陥れる主人公、あざみの行動にまったく共感できないため、途中から見るのがかなり苦痛になった。周りを不幸に陥れる女を描くことが脚本家の意図ではなく、おそらく「死に瀕してそれでも娘のことを思い何とかしようとする若い母親」というのがテーマではないかと思うが、結果的に稀代の悪女のドラマになってしまっている。そういうわけで、まったく見るに堪えないドラマだった(おかげで第1回を見てから最終回を見終わるまでに3年くらいかかった)。
b0189364_08520286.jpg 先ほども言ったようにタイトルバックが非常に印象的なドラマなんだが、面白かったのはそのパロディみたいな映像が最終回のエンディングロールで出てきた点である。あざみが死んで、のりを引き取ることになった男、ワタナベ(渡辺篤史)が、のりを連れて、タイトルバックと同じ踏切を通る(そしてそれをロングショットで追う)という、タイトルバックとかなり似たシーンが再現される。他の見所としては、宇野重吉と北林谷栄の名優老夫婦、范文雀の魅力、デビューしたばかりの風間杜夫などが挙げられる。范文雀については、『サインはV』のジュン・サンダースのイメージしかなかったんで昔からあまり「きれい」などという印象はなかったが、このドラマの彼女はおそろしく魅力的で、そりゃワタナベがその色香に迷うのも致し方ないというものだ。他に尾美としのりが第10話で子役で出ていたのも発見と言えるか。
b0189364_18470760.jpg このドラマでプロデューサーの堀川敦厚がジャニス・イアンの曲を採用したことから『岸辺のアルバム』でも「Will You Dance?」が使われることになったというのは、かつて山田太一が語っていた話だが(竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2(ドキュメンタリー)』を参照)、このドラマでは、そのジャニス・イアンの曲が随所に流される。驚いたのはジャニス・イアンが唄う「I Love You Best」が2回ほど流れたことで、そもそもこの歌は、南沙織に提供した歌(邦題「哀しい妖精」)であり(竹林軒『シンシア版「妾の半生涯」』を参照)、ジャニス・イアンのアルバムには収録されていない。ジャニス自体歌っていないんじゃないかと思っていたが、録音したものがどこかにあるのだろうか。一生懸命探してみたがわからずじまいで、結局は謎だけが残った。
★★★

参考:
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2(ドキュメンタリー)』
竹林軒『シンシア版「妾の半生涯」』
竹林軒出張所『時は立ちどまらない(ドラマ)』

# by chikurinken | 2017-11-19 07:35 | ドラマ

『冬のホンカン うちのホンカン-PART IV』(ドラマ)

日曜劇場 冬のホンカン うちのホンカン-PART IV-(1977年・北海道放送)
演出:小西康雄
脚本:倉本聰
出演:大滝秀治、八千草薫、仁科明子、室田日出男、笠智衆

「花嫁の父」もの……と来ればやはり笠智衆

b0189364_19101171.jpg 『うちのホンカン』シリーズ第4作目。
 主人公の「ホンカン」(大滝秀治)が娘(仁科明子)を嫁に出すその前日の1日の物語。主人公が住む支笏のホテルに有名作家(笠智衆)が現れ、翌日に娘を嫁にやる父親の心情を色紙に書いてホンカンに揮毫してくれるが、その作家が実は偽物だったという『玩具の神様』の前フリみたいなストーリーである。
 かつて実際にニセ倉本聰が出現したことがあったらしく、そのエピソードがベースになっていると思われるが、詐欺師が方々のホテルを泊まり歩いて作家になりすますにもかかわらず1日中部屋に閉じこもって原稿を書いているとか、自ら編集者を騙ってホテルに電話を入れるとか、そういったネタは『玩具の神様』とまったく同じ。『玩具の神様』が、この日曜劇場の焼き直しであることがわかる。
 日曜劇場は、1時間ドラマということもあり、ここで一度使ったネタを他で使い回すということが、他の作家でもちょくちょくあるように思われる。山田太一の場合もしかりで、そもそも日曜劇場がそういうお試し的な場として見られていた可能性もある。
 いずれにしても、『ホンカン』シリーズ、第2作、3作、4作とシリーズものにしてはなかなかの佳作が続いていると感じる。
1977年日本民間放送連盟賞優秀賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『うちのホンカン(ドラマ)』
竹林軒出張所『玩具の神様 (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 田園交響楽(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 遠い絵本 第一部、第二部(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ばんえい(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ああ!新世界(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 ひとり(ドラマ)』
竹林軒出張所『日曜劇場 りんりんと(ドラマ)』

# by chikurinken | 2017-11-17 07:08 | ドラマ

『ビギナーズ・クラシックス 大鏡』(本)

b0189364_20512874.jpgビギナーズ・クラシックス 大鏡
武田友宏編
角川ソフィア文庫

平安貴族の人間ドラマ
古典だが存分に楽しめる


 平安時代の歴史物語『大鏡』を抜萃し、現代語訳を付けたもの。
 現代語訳が丁寧であるため、古文が読めなくても内容を楽しめる。また背景などについても詳細な解説があり、入門書としてはうってつけである。
 『大鏡』については、学生時代に関心があったので文庫本を買ったこともあったが、相当な大著で、しかも、帝紀から始まることから、通読していてあまり面白いと感じない。面白い部分とどうとうことのない部分が混ざっているため、当たりにぶつからないと結局読み続けることができなくなる。そういう按配で、序盤で断念した。この本みたいに面白い部分ばかり取り出して、しかも現代的な感覚ではわかりにくい箇所についても説明してくれていると、『大鏡』を面白いと感じる。まさに「ビギナーズ・クラシックス」という名にふさわしい、ビギナー向けの好著である。
 『大鏡』は、大宅世継(190歳)と夏山繁樹(180歳)という二人の老人の昔語りを若侍と著者、その他の人々が聴くという体裁で記述される歴史書で、藤原道長を絶賛している点が特徴として挙げられる。そのために道長の武勇伝が取り上げられているが、一方で道長の兄の道兼のダメ具合なども出てくるし、道長が、姉の皇太后・詮子による(息子の)一条天皇に対する強い圧力によって関白に取り立てられることになったというようなエピソードもある。人間ドラマとしても興味深い話があり、奥深さを感じる。ただしだからと言ってやはり全部読み直すのは骨が折れそうである。僕が以前買った角川文庫では本編だけで300ページ近くあり(8ポイント程度の文字)結構な大著である。したがって、読むとしても、せいぜい拾い読み程度で結局終わるんではないかと思う。またすべて現代語訳という潔い文庫も出ているんで、そちらに当たっても良いかなという気もする。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 梁塵秘抄(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 土佐日記 (全)(本)』
竹林軒出張所『日本人なら知っておきたい日本文学(本)』

# by chikurinken | 2017-11-15 06:51 |

『ビギナーズ・クラシックス 土佐日記 (全)』(本)

ビギナーズ・クラシックス 土佐日記 (全)
紀貫之著、西山秀人編
角川ソフィア文庫

b0189364_16300702.jpg女がすなる千年前の日記を
読んでみむとて読むなり


 紀貫之の『土左日記』をオリジナルのまままとめたもの。といってもメインになっているのは現代語訳で、各部ごと(ほぼ日付単位で約40段に分けられている)に現代語訳が現れその後に原文、さらにその後に解説文が現れるという構成になっている。
 土左日記は、当時土佐の国司として高知に赴任していた紀貫之が、任期を終えて都に戻るまでの55日間の出来事を日記形式で記録したもので、(本書の解説にも書かれているが)今風に言うとブログである。作者は(当時から)有名な歌人、つまり文学者であり、しかも周囲の人間が書いたかのような体裁、つまりなりすましで日々の事柄を綴っているというのが、この日記の特徴である。
 本来であれば土佐から都までは25日くらいの行程であるが、海が荒れたり、あるいは淀川の水が少なくなって遡上がうまく行かなくなったりしたことから倍以上の日数がかかる。その間海賊に怯えたり、あるいは土佐の地で死んだ我が子を悼んだり哀しみに沈んだりする。そういった心情を歌に読み込んでおり、さながら歌物語のようでもある。随所に貫之の得意のシャレが現れる他、鈍感な客人を軽蔑したりという記述もあって、内容的にも十分楽しめる。古典を原文で読んだときに一番困るのが、当時の習俗、風俗がわからないために何のことだかわからない箇所が多いという点だが、そのあたりもかなり細かい解説があってわかりやすい。
 内容的には面白いものだが、なぜ(おそらく個人の)日記がその後読み継がれていったのかはいまだにわからない。それは『蜻蛉日記』や『更級日記』についても同じだが、平安時代、出版文化は皆無であり、本人が発表したとも考えられない。後世の誰かが、これ面白いよとかなんとかいって、どこかから入手した人の日記を回し読みしたんではないかと思うが、そのあたりの解説はなかった。なお解説によると、紀貫之は土佐への赴任前から、屏風に書く和歌の作者として依頼が殺到していたということで、すでに都では和歌の名人として名が通っていたらしい。したがって、彼の和歌が大量に掲載されている日記が興味の対象になっても不思議はないと言うことはできる。
 この角川ソフィア文庫の古典シリーズは、ビギナーズ・クラシックスという名前がついているが、どれも現代語訳や詳細な解説が載せられており、大変読みやすくなっている。難点は、それぞれの原作を網羅しているとは限らない点で、その点この『土佐日記(全)』は、原典が短いためもあり、最初から最後までがきっちり掲載されている。その点でもポイントが高い。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 梁塵秘抄(本)』
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 大鏡(本)』
竹林軒出張所『日本語の考古学(本)』
竹林軒出張所『マンガ古典文学 方丈記(本)』
竹林軒出張所『更級日記・蜻蛉日記 ― NHKまんがで読む古典2(本)』
竹林軒出張所『吾妻鏡(上)(中)(下) マンガ日本の古典14、15、16(本)』

# by chikurinken | 2017-11-13 07:29 |